「レンタル彼女」「おっさんレンタル」など、さまざまな“人間レンタル”のビジネスが生まれて久しいが、最近「レンタルなんもしない人」なるサービスが人気を集めているのをご存知だろうか。実際にレンタルしても、何もせず一緒にいるだけ。依頼者が負担するのは交通費や飲食費等の諸経費だけだといい、なぜ依頼する必要があるのか、なぜ成立しているのか…などなど、次々に謎が浮かんでくる。

そんなサービスを始めた“レンタルさん”こと森本祥司さん(35)に、フジテレビのドキュメンタリー番組『ザ・ノンフィクション』(毎週日曜14:00~ ※関東ローカル)が密着し、その模様が『なんもしないボクを貸し出します ~「レンタルなんもしない人」の夏~』と題して15日に放送される。取材した制作会社・ネツゲンの阿部郁美ディレクター(31)が、そこで見たものとは――。

  • 「レンタルなんもしない人」サービスを行う“レンタルさん”こと森本祥司さん

    「レンタルなんもしない人」サービスを行う“レンタルさん”こと森本祥司さん (C)フジテレビ

■密着取材も“なんもしない”

フジテレビでは以前、情報番組『Mr.サンデー』で、ベテランの男性ディレクターが森本さんを取材して放送したが、『ザ・ノンフィクション』の西村陽次郎チーフプロデューサーが「同年代の女性が撮ったら面白いんじゃないかと思って声をかけました」と白羽の矢が立ったのが、阿部ディレクター。

もともと「レンタルなんもしない人」の存在は知っていたといい、「やっていることがすごく面白そうで、なぜ若い女の子たちがこんなにレンタルさんに依頼するのか、興味があったんです。自分も『レンタルしたいかも…』って考えたこともあって」と取材意欲がわいた一方、「本当に何もしないので、取材としてどう撮影したらいいんだろうと思って、難しそうだなとも思いました」と直感したという。

そこで、“レンタルなんもしない人のなんもしない取材”というキャッチコピーを自身の中で掲げ、開き直る作戦に。依頼の実施中は撮影するだけでなにもせず、ひたすら見守り、終了後に依頼者に話を聞いていくというスタイルで取材を進めた。それに加え、レンタルさんにインタビューすると、「面白い方だというのは分かってたんですけど、こんなに話をしてくれるんだ!と思うくらい、いろんなエピソードが聞けたんです」と撮れ高があったそうだ。

だが、なかなか手応えがつかめなかったという阿部ディレクター。依頼の内容は「ギターの練習を見守ってほしい」「真顔で過ごさせてほしい」「“夢日記”を読んでほしい」など、共感することが難しいものばかりで、「なにもしないでただ撮っているだけで番組ができるのだろうかという不安と、取材相手やその場で起こっていることを理解しようにも全然追いつかない状態がずっと続いていたんです」と、その理由を語る。

そこから、「こちらが100%理解して『こういうものです』と提示するのではなくて、人によっていろんな捉え方があると思うので、分からないところも含めて視聴者の皆さんに投げかけることで、面白く見てもらえるほうがいい」と、考え方を切り替えたそうだ。

一方で、依頼者の気持ちを少しでも理解しようと、阿部ディレクター自身も、今回の取材中に「レンタルなんもしない人」を利用してみた。依頼内容は「部屋が汚くなっていたので、誰かが来ることで掃除したい」というもの。「カメラを回していたので、自分が撮られているのをめちゃくちゃ意識しちゃって、放送では使えなかったんですけど、ふと気づくとレンタルさんの存在感が部屋の中で消えているんです。それはすごい感覚だなと思いました」と、その後の取材に役立ったという。

  • 依頼者(左)とともにベネチアンマスクをつけるレンタルさん (C)フジテレビ

■「自分の匂いを確認してほしい女の子」の衝撃

今回の取材でさまざまな依頼に密着したが、その中で特に印象に残っているのは、最後に出てくる「自分の匂いを確認してほしい女の子」だそうだ。「彼女の悩みを聞いて、『こういうことだったのか!』と納得して、自分の頭の中で『サンサーラ』が流れました(笑)」と、エンディングテーマが勝手に脳内再生されるほどの衝撃を振り返る。

今回、レンタルさんに密着して、自身に何か変化があったかを聞くと、「以前は、『自分は31歳独身で、非リア充で冴えない毎日を送ってるな…』なんて思いながら街を歩いてたんですけど、レンタルさんを通じていろんな依頼者の方を見て、人間って本当に多様なんだなと思ったんです。『周りの人はみんな理想の生活を送ってるんだろうな…』って勝手に思っていたのが、『実はどんな人も悩みを抱えていろんな人生があるんだ』と気づいて、周りを見る目が変わった感覚がすごくあったんです」とのこと。

それは、レンタルさん自身も感じたことで共感し合ったそうだが、「レンタルさんが本当になにもしない、フラットで真っ白な存在だからこそ、依頼する人たちの内面がより映し出されるということもあるのかなと思います」と、その効果を分析。この感覚は、今回の番組を見たらきっと伝わってくるだろう。

レンタルさんへの密着で「共に過ごした思い出深い夏になりました」という阿部ディレクター。「依頼者の声だったり、レンタルさんの思考だったりから、今の時代の新しい空気感みたいなものを感じていただきたいです」と見どころを語った。

なお、今回のナレーションを担当するのは、俳優の柄本時生。当初は、依頼者目線で女性のナレーターを想定していたそうだが、「レンタルさんと依頼者の中間くらいの立ち位置で見ている感じがいいなと思って、同世代の男性の方ということでお願いしました」と起用の狙いを明かし、「どんな感じになるのか、想像がつかないところも楽しみにしていたんですが、予想以上に良かったです!」と絶賛している。