米Appleは9月10日に開催した"By innovation only"イベントで、新型「iPad」、「Apple Watch Series 5」、「iPhone 11」、「iPhone 11 Pro」を発表。サブスクリプション型のゲームサービス「Apple Arcade」とオリジナル番組配信サービス「Apple TV+」の価格と開始日を明らかにした。
今年はiPhone Xの登場から3年目である。iPhoneが刷新されるサイクルが2年から3年以上に延びており、iPhoneの大きな刷新があるとしたら5G対応が実現しそうな来年以降。3年目の今年は成熟したモデルの登場が予想された。表現を変えると「新鮮な魅力に欠けるモデル」だ。そんな年のスペシャルイベントの招待状にAppleが「By innovation only」と記したことについて、BloombergのMark Gurman氏はイベント前に「火曜日 (スペシャルイベント)に対する期待のハードルを著しく引き上げた」とツイートした。そしてイベント後に次のようにツイートしている。
今日(Appleが)見せたものは一つも"innovation only"の期待を満たさなかった。Watch史上最も小規模なアップデート、iPadは少し画面が大きくなっただけ、iPhoneに複数のカメラというのは他のデバイス並みかそれ以下だ。
AppleウォッチャーからBloombergの記者になったGurman氏がそこまで言うのだから、よほど失望したのだろう。でも、本当に"By innovation only"イベントの内容はつまらないものだったのだろうか。なぜAppleは、このイベントを"By innovation only"と呼んだのだろうか?
今の状況は2016年の9月スペシャルイベント後に似ている。iPhone 7シリーズ、Apple Watch Series 2、AirPodsを発表した年で、当時人々の期待はすでに翌年のiPhone Xに向いてしまっていて、2016年は平凡な発表と見なされた。GPSと耐水性能を備えたApple Watch Series 2は、高級ブランド時計市場からヘルス&フィットネスへの路線変更に疑問符が付けられ、AirPodsはiPhone 7からヘッドフォンジャックを無くしたリスクで語られることが多かった。
それが3年後の今どうなっているかというと、Apple Watchはヘルス&フィットネスからスマートウォッチとしての機能を拡大しながら好調に売り上げを伸ばし、ワイヤレスヘッドホンのあるべき使用体験を定義したAirPodsは世界的な大ヒットになって、それによってヘッドホン市場が一気にワイヤレスに移行した。そしてApple WatchとAirPodsを含むAppleの”ウェアラブル、ホーム、アクセサリ”事業は、減速するiPhoneに代わってAppleの成長を支える新たな成長領域の1つになっている。今ふり返ると、つまらなかったと言われた2016年の発表は、翌年のiPhone Xを上回るような"変革"だった。
では、今年の変革の種は何かというと、2003年のiTunes Music Storeや2008年のApp Storeの登場に近い。ただ、一言で表現するのは難しい。そこで、今回はいつものようにキーノートを最初から発表順にふり返るのではなく、いくつかのポイントからキーノートの内容を解説する。