老後資金や年金の問題は、今や高齢者だけでなく若い世代にも関心の高いお金のテーマです。「老後資金2,000万円問題」をきっかけに、「公的年金だけに頼らず、自分でしっかり蓄えておこう」と考え始めた人は多いことでしょう。では、現在の60歳以上の人は、どのくらいの貯蓄をしているものなのでしょうか。データを詳しく見ていきましょう。
60歳以上の貯蓄額、平均と中央値は?
「老後資金2,000万円問題」は、今年大きく世間をにぎわせたお金のニュースでしたが、最近では、厚生労働省から公的年金の長期見通しを示す財政検証結果が公表され、こちらも注目を集めています。これによると、現役世代の手取り収入に対する年金受給額の割合(給付水準)は、経済が成長した場合でも令和29年(2047年)に50.8%まで下がり、現在の受給額より2割近く減少するということです。そして、経済が低成長の場合は、50%を割り込むと見込まれています。
充分な貯蓄がなければ、老後生活の頼りは年金のみという人は多いでしょうが、仮にそれさえ現役世代の半分の金額を割り込むとなれば、不安を抱えたままリタイアを迎えることになりかねません。では、60歳以上の高齢者は、どのくらいの貯蓄をしているのでしょうか。
金融広報中央委員会が公表している「平成30年(2018年)家計の金融行動に関する世論調査[二人以上世帯調査]」によると、世帯主の年齢が60歳代、70歳以上の高齢者の金融商品保有額は、以下のようになりました。
<60歳代>
平均…1,849万円
中央値…1,000万円
<70歳以上>
平均…1,780万円
中央値…700万円
このデータによると、60歳代の平均貯蓄額は1,849万円、70歳以上では1,780万円という結果になりました。ただし、中央値では60歳代で1,000万円、70歳以上で700万円とぐっと金額は落ちています。中央値とは、数値を小さい順に並べた時真ん中に来る値のこと。つまり、中央値は平均よりも実情に近い数字と言えます。「60歳代、70歳以上では、平均して1,800万円近くも貯蓄があるのか」と驚いてしまいますが、実際は、貯蓄の多い一部の世帯に平均額が引き上げられているのです。
さらに、このデータは金融資産を保有していない世帯も含んでいます。60歳代では22.0%が、70歳以上では28.6%が金融資産非保有世帯、つまり、全く貯蓄をしていない世帯なのです。収入が公的年金のみで貯蓄がないとすると、思いがけない出費があった時には困る事態となりそうです。
次に、[単身世帯調査]を見てみましょう。世帯主の年齢が60歳代の金融商品保有額は、以下の通りです。
<60歳代>
平均…1,613万円
中央値…500万円
60歳代の単身世帯では、二人以上世帯と比べて平均、中央値ともに貯蓄額が低くなっており、70歳以上の二人以上世帯の金額を下回っています。金融資産非保有世帯の割合は26.7%で、二人以上世帯とさほど変わらない数値となっています。
60歳以上が貯蓄をする目的は
60歳以上の貯蓄について、この調査データを違う角度からも見ていきましょう。「金融資産の保有目的(金融資産を保有していない世帯を含む)(3つまでの複数回答)」からは、60歳以上ではどのようなことにお金がかかるのかが垣間見えてきそうです。上位3位までの回答は、下記のようになりました。
[二人以上世帯]
1位……老後の生活資金(60歳代:75.7%、70歳以上:70.8%)
2位……病気や不時の災害への備え(60歳代:63.7%、70歳以上:68.3%)
3位……とくに目的はないが、金融資産を保有していれば安心(60歳代:20.4%、70歳以上:21.0%)
[単身世帯(60歳代)]
1位……老後の生活資金 59.0%
2位……病気や不時の災害への備え 43.5%
3位……その他 18.2%
二人以上世帯、単身世帯ともに若干の違いはあるものの、老後の生活資金やいざという時の備えのために貯蓄をしている人が多くを占めています。特別な目的がなくても、無収入となったり現役時代より減収したりする老後には、少しでも貯蓄があれば安心という意見も目立ちました。
なお、3位以下の目的としては、二人以上世帯では、「耐久消費財の購入資金」「旅行、レジャーの資金」「住宅の取得または増改築などの資金」のほか、「遺産として子孫に残す」などが挙がりました。単身世帯では、「旅行、レジャーの資金」「とくに目的はないが、金融資産を保有していれば安心」「耐久消費財の購入資金」などが上位でした。
貯蓄の増減はどうなっている?
では、前項のような目的で貯めたお金は、1年後どうなっているのでしょうか。最後に、60歳代と「金融資産残高の1年前との増減比較(金融資産を保有していない世帯を含む)」を見てみましょう。
[二人以上世帯]
<60歳代>
・増えた…14.9%(増えた割合1.8%)
・変わらない…45.7%
・減った…34.1%(減った割合2.2%)
<70歳以上>
・増えた…9.4%(増えた割合1.9%)
・変わらない…54.7%
・減った…31.2%(減った割合2.4%)
[単身世帯(60歳代)]
・増えた…21.2%(増えた割合3.1%)
・変わらない…41.8%
・減った…36.8%(減った割合3.9%)
二人以上世帯、単身世帯ともに、「変わらない」と回答した割合が最も多く、次いで「減った」が続き、いずれも3割を超えています。このうち、「金融資産が減少した理由(金融資産保有世帯のうち金融資産残高が減った世帯)」を抜き出してみました。上位3位は、二人以上世帯では60歳代、70歳以上ともに「定例的な収入が減ったので金融資産を取り崩したから(60歳代:52.7%、70歳以上:44.0%)」「耐久消費財(自動車、家具、家電等)購入費用の支出があったから(60歳代:31.7%、70歳以上:32.1%)」「その他(60歳代:25.9%、70歳以上:25.8%)」の順に多くなっています。
60歳代では、これに次ぎ、「こどもの教育費用、結婚費用の支出があったから」と子どもにかかる支出が金融資産残高減少の理由として挙がっていました。なお、70歳以上では、「株式、債券価格の低下により、これらの評価額が減少したから」が4位に続いています。
60歳代の単身世帯ではどうでしょうか。「定例的な収入が減ったので金融資産を取り崩したから(53.2%)」「株式、債券価格の低下により、これらの評価額が減少したから(24.1%)」「その他(17.1%)」が上位3位で、その次に多い理由は「旅行、レジャー費用の支出があったから」と続いています。
老後にかかるお金を把握して備えよう
今回は、60歳以上の貯蓄額の平均・中央値とともに、貯蓄の目的や貯蓄が減少した理由などをご紹介しました。こうした60歳以上の現状を参考に、生活費だけではなく、他にどのような出費があるのかを把握し、計画的に老後資金を準備しておきたいですね。