Appleは昨年のWWDC18で、「Siri Shortcuts」と呼ばれる機能を披露した。アプリがこの仕組みに対応することによって、アプリ内の特定の画面や機能を、ユーザーの好きな言葉で呼び出せる機能だ。

例えば、旅程を管理するアプリ「KAYAK」で次の出張の日程に対し、「サンフランシスコ出張」という声のラベルを付けることで、Siriに「サンフランシスコ出張」というだけで旅程をすぐに開ける。あるいは、ヤフーの乗換案内アプリの運行状況に「電車」というラベルを付けておくと、ひとことで運行状況がチェックできる。

  • WWDCで披露された「Siri Shortcuts」

加えて、AppleはiOS 12に「Shortcuts」アプリを用意し、iPhoneのシステムやサードパーティーを含むアプリの機能を呼び出したり、組み合わせたりして、タスクをワンタッチで行うことができる簡単なプログラミング環境を用意した。

例えば、「今いる場所から自宅に帰るまでにかかる時間を地図アプリで調べ、その時間を家族にメッセージする」という2つのアプリにまたがる操作を、ワンタップで実現できる。あるいは、より複雑なプログラムを組めば、飲んだ飲み物の種類や量を選ぶと、自動的にヘルスキットにカフェイン摂取量を記録できる。

オートメーションをオススメする

これらをSiriから呼び出すことで、先述のSiri Shortcutsとともに、実はSiriにユーザー好みの操作を覚えさせることができるようになっていた。

しかしAppleも、こうした環境を用意したからといって、ほぼプログラミングと同じショートカットやオートメーションをこぞって作るようになるとは考えていなかったようだ。 そこでiOS 13のShortcutアプリには、ユーザーの行動や振る舞い、アプリ活用から、オートメーションをオススメしてくれる機能がついた。

ユーザーがあらかじめショートカットを用意していなくても、職場にいる時にマップで自宅までの経路検索をして、家族にメッセージを送る、という行動を繰り返していた場合、オートメーションの提案が表示され、ちょっとしたカスタマイズでショートカットを設定できるようになる。

Appleによると、100以上のトリガーを見ているという。先述の位置情報や時間帯、アプリの機能利用に加えて、CarPlayの接続、Wi-Fi接続なども利用する。そのデバイスがどんな状況で使われているのか、お互いの関係性を活用しながら、ユーザーのパターンを見出すそうだ。

当然こうしたパターン検出とオートメーションの提案も、Appleはデータを収集しておらず、iPhoneの中で処理される。そうした仕組みをiOSに持たせている、ということだ。

聞かれる前に役に立つSiri

iOS 13でのSiriの進化のポイントとしては、よりプロアクティブにユーザーの役に立つようこだわっているという点だ。つまり、Siriに声で何かを尋ねたりする前に、先回りしてユーザーが必要な情報や、忘れていそうなことを提示する、という機能だ。

例えば、メールのやりとりをしていて、その署名の情報を登録したり変更するオススメをする。カレンダーへの予定の追加を提案する。PodcastやSafariで見ていたWebページ、サードパーティーアプリでいま見そうなものを、先回りして画面に表示してくれるようになる、といった具合だ。

その中でもユニークな機能は、リマインダーとメッセージの連携だ。

iOS 13では、リマインダーアプリ自体が大きくアップデートしている。例えば、リマインダーアプリに「妻に夕食で必要な買い物を聞く」というタスクを登録していたとする。そのうえでメッセージアプリで妻とのスレッドにメッセージを送ろうとすると、「妻に夕食で必要な買い物を聞く」というタスクが通知として表示される。こうして、妻からの買い物のリクエストを忘れずに尋ねられるわけだ。

そのほかには、すでにGoogleマップでも実現してきた機能だが、こちらも機能が大きく向上したマップアプリで、地図の上にカレンダーやリマインダー、Walletに登録されているチケットの日時の情報を表示するようになる。

Siriは着実に進化しているが、おそらくAppleが用意したSiriの賢さをすべて生かせるユーザーは希(まれ)ではないか、と思う。

Appleが想定するように、あらゆる情報をiPhoneに集め、常にiPhoneをアクセスデバイスとして活用するようにならなければ、せっかくSiriが100以上のトリガーを用意して行動パターンを検出しようと網を張っていたとしても、なかなかそこにかからないからだ。

それでも、iOS 13では、Siriに何かをおすすめされるチャンスは増えていくことになるはずだ。そのときにユーザーが何をすればいいのか、あるいはもっとSiriを役立てるためにどうすればよいのか、という点は、Appleももう少し頭をひねらなければならないポイントかもしれない。

著者プロフィール
松村太郎

松村太郎

1980年生まれのジャーナリスト・著者。慶應義塾大学政策・メディア研究科修士課程修了。慶應義塾大学SFC研究所上席所員(訪問)、キャスタリア株式会社取締役研究責任者、ビジネス・ブレークスルー大学講師。近著に「LinkedInスタートブック」(日経BP刊)、「スマートフォン新時代」(NTT出版刊)、「ソーシャルラーニング入門」(日経BP刊)など。Twitterアカウントは「@taromatsumura」。