自分で老後資金を準備する年金制度である個人型確定拠出年金「iDeCo(イデコ)」。税金面で大きな優遇があること、2017年からは会社員や公務員の人も含め原則として誰でも加入できるようになったことで、始めようと思っている人が多いのではないでしょうか。
しかし、iDeCoに加入して積み立てをするだけではすぐに税の優遇は受けられません。勤務先や税務署に所得税の申告を行ってはじめて、そのメリットを受けることができます。では、どんな手続きが必要なのでしょうか。会社員でも確定申告をしなければならないのでしょうか? iDeCoで上手に税のメリットを得るための手順をご紹介します。
iDeCoの最大のメリットは「税負担の軽減」
60歳まで所定の金額を積み立てて運用し、その結果を公的年金の上乗せとして老後に受け取るiDeCo。老後の資金を準備する方法はほかにもありますが、iDeCoの活用において最も魅力的なのが、税負担が軽くなることです。iDeCoで老後資金を積み立てることで、条件を満たせば、所得税が軽減されます。
これは、iDeCoで積み立てた掛金の全額を、税額を計算する元になる所得から差し引くことができるためです(小規模企業共済等掛金控除)。税額計算の元になる所得が、iDeCoで積み立てた掛金の額だけ小さくなることで、その年の分の所得税と住民税が安くなります。
たとえば、iDeCoで月々2万円の積み立てをすると、年間の積立額は24万円です。所得税率が20%、住民税率10%なら、30%にあたる7万2,000円分が、その年の分の所得税と住民税(翌年度に課税される)から軽減されるのです。つまり、実質的には16万8,000円を支出して24万円分の積み立てをしていることになります。節税効果は、iDeCoで積み立てる金額が多いほど、また所得税率が高いほど大きくなります(ただし積み立てられる金額には上限があります)。
では、こうした税の軽減を受けるにはどのような手続きが必要なのでしょうか?
会社員・公務員は確定申告不要、年末調整で申告しよう
税負担を軽くするための手続きは、基本的に会社員や公務員であれば「年末調整」、個人事業主などは「確定申告」で行います。つまり、すべての人で必ず確定申告が必要なわけではありません。
会社員や公務員は原則として年末調整で所得税の申告をするため、確定申告は不要です。iDeCoをしている場合も、年末調整の際、iDeCoで1年間に積み立てた掛金額の証明書を提出すれば、勤務先で税の軽減を考慮して年末調整してくれます。
提出するのは「小規模企業共済等掛金払込証明書」という書類で、iDeCo制度を管理する国民年金基金連合会から届きます。初回の掛金を払い込んだ月によって、おおむね毎年10月~翌年1月に届くようです。ここに、iDeCoで今年中に積み立てた金額や、12月末までの払込予定額が記載されています。1年間分の積立額を、その年の所得税の計算で差し引ける仕組みになっています。
また、年末調整ではあわせて「給与所得者の保険料控除申告書」という書類も提出しましょう。これは生命保険や地震保険に契約している人が、年末調整で生命保険料控除や地震保険料控除を受けるための書類です。
同じ用紙に記載されている「確定拠出年金法に規定する個人型年金加入者掛金」という欄に、1年間で積み立てた掛金額を記入します。用紙は毎年11月頃に勤務先で配布されるので、記入したら「小規模企業共済等掛金払込証明書」と一緒に勤務先に提出します。
なお、給与天引きでiDeCoの掛金を積み立てている場合には、上記の書類を提出しなくてもiDeCoによる所得税の控除が年末調整に反映されます。
公務員・会社員でも確定申告が必要なケースは?
ただし、会社員・公務員・アルバイトなどで会社が年末調整をしていても、そのタイミングに「小規模企業共済等掛金払込証明書」を提出しそびれると、年末調整ではiDeCoによる税の軽減を受けられません。そんなときは、自分で確定申告をしましょう。
確定申告書の書き方は基本的には自営業の人と同じですが、「確定申告書A」という書類を使います。ここで、iDeCoで1年間に積み立てた金額を記入します。
また、年末近くになってiDeCoを始めた場合には、年末調整への反映が間に合わないことがあります。その年の初回の掛金拠出(積立額を出した月)が11月以降の場合には「小規模企業共済等掛金払込証明書」が12月中旬以降に届くため、年末調整されないことがあります。確定申告をして所得税の軽減をしましょう。
年収103万円以下で所得税がかからなければ確定申告は不要?
扶養の範囲内で働くなどで年収103万円以下の人も、確定申告は不要です。iDeCoの税の優遇は所得税が軽減されるものですので、そもそも所得税がかからない人は軽減も受けられないのです。
ただし、パートの年収が103万円を超えていて所得税がかかる場合、iDeCoを積み立てることでその掛金の額だけ所得控除を受ければ、それだけ税の計算上での所得が低くなります。その結果、税の負担がゼロになることはあります。
この場合はiDeCoをしていることによる「小規模企業共済等掛金控除」の申告が必要です。パート先で年末調整をしていれば、年末調整のときに申告しましょう。または、確定申告をしましょう。
自営業は収入と合わせて確定申告が必要
自営業者やフリーランスの方は、自分で毎年の所得を税務署へ確定申告します。その際に、iDeCoによる小規模企業共済等掛金控除を適用して税額を計算、申告、納税しましょう。
確定申告は、自営業者向けの「確定申告書B」という申告書を記入します。その際に、国民年金基金連合会から届く「小規模企業共済等掛金払込証明書」に記載の掛金額を、控除額として所得から差し引いて税額を計算します。
申告期限内(毎年2月16日~3月15日頃)に申告書と「小規模企業共済等掛金払込証明書」を提出し、申告書に書いた税額を納めます。
源泉徴収などですでに納めた税額のほうが高い場合には、払い過ぎた税額が戻ってきます。iDeCoをしたことで小規模企業共済等掛金控除を利用した結果還付されることもあります。所得税の還付金は、毎年4~5月頃に指定の口座に振り込まれます。翌年度には、住民税でも軽減額が反映されます。
iDeCoの掛金を忘れずに申告して、所得税を安くしよう
このように、iDeCoで積み立てた掛金の金額は、年末調整や確定申告で申告することで所得税の軽減を受けることができます。年末調整で書類を提出したり、初めて確定申告をしたりするのは、ハードルが高く感じるかもしれません。しかし、iDeCoは60歳まで積み立てを続けられるもの。ずっと続ければ、税の軽減効果は人によっては数十万円~数百万円になることもあります。iDeCoの税制メリットを上手に生かして、効率的に老後資金を準備しましょう。