楽天モバイルは、10月1日より、国内第4の携帯キャリア事業としてのサービス受付を開始する。久々に新規電気通信事業者がサービスを開始するが、すでに市場は成長から安定へと変化しつつあり、MVNOとの競争も熾烈なものになることが予想される。楽天モバイルのサービス内容と、勝算はどのようなものになるのだろうか。
当面はサービスエリアを東名阪に限定
楽天モバイルでは、1.7GHz帯の電波(バンド3)を使用したLTE-Advanced(4G)通信サービスの提供を行うことを予定している。これは2018年4月に総務省から割り当てられた周波数帯で、楽天の割り当て分は40MHz(送信20MHz、受信20MHz)だ。
バンド3はau、ソフトバンク(旧ワイモバイル)、NTTドコモ(東名阪限定)も利用している周波数帯であり、サポートしている端末は少なくないのだが、楽天は万全を期すこともあってか、対応端末はサービス発表時に同時発表した9機種に限定し、動作検証が終わった機種を随時公開していくとしている。楽天はコメントを避けたが、基本的には国際的な仕様なので、おそらくSIMロックを解除したiPhoneでも利用可能だと思われる。
楽天モバイルのネットワークは当面、東名阪(東京23区内、名古屋市、大阪市、神戸市)エリアに限られるが、auのネットワークをローミングで利用できるため、実質全国で利用できる。ただし、auとのローミング協定は2026年3月までのため、それまでに自社ネットワークを拡大していく必要がある(並行して5Gへの移行も進められると思われる)。
気になる通信速度だが、楽天の発表では、受信時の最大速度が理論値で約400Mbps、ネットワークの遅延は20~30ミリ秒だという。実行速度としては150Mbps程度になるかと思われるが、輻輳著しい3大キャリアや、さらに回線の細いMVNOと比べると、当初はかなり快適な可能性がある。ただし、1.7GHz帯の電波は3大キャリアが使用する800MHz帯と比べると障害物などの影響を受けやすい。当面はauのネットワークを使えるため気付かないとは思うが、特に屋内での利用には、過度の期待はしないほうがいいだろう。
楽天モバイルでは10月1日から来年3月末まで、5,000名の「無料サポーター」を募集し、通信・通話料無料での試験運用を開始する。要はベータテスターの募集であり、この結果を元に基地局の調整などを行う計画だ。
コストダウンの秘密は仮想化とVoIP化
現在、MVNO事業者としてトップシェアを誇る楽天モバイルだが、人気の秘密は楽天カードなど楽天サービスとのシナジー効果(楽天ポイントが携帯料金の支払いに使える)と、縛りなし・最低利用期間や違約金なしの安価な料金プランの両輪によるものだ。
キャリア参入においても、楽天は業界全体に大きなインパクトを与える料金体系を実現できるとしており、筆者の予想ではあるが、現在のMVNOサービスと同等~2割り増し程度の料金プランを提示してくるのではないかと思われる。
ただし、MNO事業者として自社ネットワークを構築するのは、MVNOとは文字通り桁違いのコストがかかる事業だ。特に基地局を設置するための土地の確保や基地局の建設、そしてバックボーンとなる様々なサーバーの構築と維持管理は大きなネックになる。こうした設備強化があるからこそ、MNOは快適なネットワークを実現できているし、通信料金が高いのも正当化されている面がある。
そこで楽天モバイルでは、こうしたサーバー類の大半を仮想化することに成功し、大幅なコストダウンを実現したという。専用の機材を使わず、インテルCPUを搭載した汎用的なサーバーの上で、仮想化したサーバーをソフトウェアとして処理することで、機材にかかるコストを削減し、設定や再起動なども素早く行えるというメリットがある。
それからもう一つ、楽天が低価格を実現できる秘密が「Link」だ。これは楽天モバイルが新たに用意するアプリベースのサービスで、通話やチャット、ファイル送信、ビデオメッセージなどをこの上でシームレスに扱えるものだという。乱暴に言えばLINEの楽天版、と言えるだろうか。Linkを使うメリットとして、楽天はauのネットワークと楽天のネットワーク、またはWi-Fiなどとの間でもハンドオーバー(基地局の切り替え)が発生しても切断されないという点を挙げている。筆者の予想だが、楽天傘下のViberを改良したVoIP&メッセンジャー系のサービスなのではないか、と見ている。
携帯電話網では、データ通信のネットワーク(パケット交換網:PS)と、音声通話のネットワーク(回線交換網:CS)は別に設備が必要になる。実はCSは3Gにしか存在せず、LTEではそもそも回線交換という機能がないため、4G携帯電話は音声通話する際に、一度3Gに切り替える(フォールバック)動作をしていた。現在はLTEで音声をパケットとして扱う「VoLTE」があるが、これも回線交換網側に設備が必要だ。
楽天はそもそも3Gの設備を持たず、自社ネットワーク構築後も、当初はVoLTEの設備も持たない(2020年4月にVoLTE対応予定)。このため、そのままでは音声通話ができないわけだが、VoIPならIP網に設備が置かれるため、ネットワークは楽天でもauでも、他社のWi-Fiでもなんでも、通話ができることになる。接続が1対1になるため、時間課金が必要になる回線交換網と異なり、パケット単位での課金となるため、結果的に定額通話もローコストで実現できるわけだ。
問題は、Linkアプリを通話のメインに据えなければならない点で、OS標準の通話アプリ等が利用できないのは、特にiPhoneユーザーを中心に混乱が起きそうだが、この辺の徹底した合理化や割り切り方は実に楽天らしい、と見ることもできる。またVoIPはインターネット側の混雑等の影響を受けて音質低下や遅延が大きくなりがちだが、そこをユーザーが許容できるかも、一つのポイントと言えるだろう。
結論:楽天モバイルに期待はできるのか?
楽天モバイルについては、基地局の設置が計画よりも遅れたことにより総務省から指導が入ったことや、今回の発表が本サービスの開始ではなく、あくまでテストユーザー募集で、本サービスが最大半年遅れる可能性があるということから、マスコミを中心に落胆・成功に対する疑問というニュアンスの(既存キャリアから見れば安堵の)報道が多く見られた。
ただし、現在は立派に3大キャリアの一翼を担っているソフトバンクも、参入直後は散々叩かれていたものだ。またPHSやイー・モバイル、WiMAXなど、新たな事業者によるサービスが始まるたびに、過度な期待と落胆という、落差の激しい報道が行われてきたことを覚えている方も多いだろう。スタート直前のサービスに対してやたらと高い期待を押し付け、開始直後に叩き落とすのは、この国の報道の芸風といってもいい。さほど気にする必要はないだろう。
筆者は、楽天という企業が何の勝算もなく、これだけの巨大な事業に参入するとは思っていない。当初は問題も起きるかもしれないが、2~3年で十分挽回してくると思っている。それに、現在の3大キャリアのようなクオリティは保てないかもしれないが、例えば料金半分、速度や音質等のクオリティも半分、という選択肢が増えてもいいのではないだろうか(もちろん、楽天モバイルとしては「100%のクオリティを実現するぞ!」と思われているかもしれないが)。いずれにしても、まずは10月からの試験サービスに応募して、その実力をしっかり確認してみたい。