米労働省が2019年9月6日に発表した8月雇用統計の主な結果は、(1)非農業部門雇用者数13.0万人増、(2)失業率3.7%、(3)平均時給28.11ドル(前月比0.4%増、前年比3.2%増)という内容であった。以下では、それぞれの項目を点検していく。
(1) 8月の米非農業部門雇用者数は市場予想(16.0万人増)を下回る13.0万人増に留まった。小売業が7カ月連続で減少したことが響いた。また、政府部門が3.4万人増加(来年の国勢調査に向けた臨時雇用2.5万人)して全体を支えたが、その分民間部門の雇用は9.6万人増とやや低調だった。その他、前2カ月分が合計2.0万人下方修正されており、全体的に冴えない内容であった。ただ、3カ月平均の雇用者数は15.6万人増と、前月(13.3万人増)からやや持ち直している。
(2) 8月失業率は前月から横ばいの3.7%となり、市場予想と一致。生産年齢人口(15歳~64歳)に占める労働力人口(労働の意志と能力を有する者)の割合を示す労働参加率が前月から0.2ポイント上昇して63.2%であったことを勘案すれば、良好な結果と言えるだろう。なお、不完全雇用率(やむを得ずパート職に就いている者などを含めた広義の失業率)は7.2%と、約18年ぶりの低水準を記録した前月から0.2ポイント上昇した。
(3) 8月平均時給は28.11ドルとなり、過去最高を更新。伸び率は前月比+0.4%、前年比+3.2%と、いずれも予想(+0.3%、+3.0%)を上回った。前年比の伸び率は前月の改定値(+3.3%)から0.1ポイント減速したものの、13カ月連続で節目の3%を超えており、賃金の健全な伸びが続いている。
米8月雇用統計は、雇用者の伸びが鈍化した一方で賃金の伸びは継続しており、見方によっては「人手不足による賃金上昇圧力」とも読める。しかし、市場の当初の受け止め方は異なっていた。市場は「貿易戦争の影響による雇用の鈍化」を重く見たようで、発表直後には債券買い(長期金利低下)・ドル売りで反応した。世界的な景気後退への懸念がくすぶる中、市場心理は悲観に傾きやすいということだろう。
もっとも、米連邦準備制度理事会(FRB)のパウエル議長が、その後の講演で「米経済は非常に良好で、FRBは景気後退を予想してない」と述べたことが伝わると、米長期金利とドルは持ち直した。結果的に今回の米雇用統計は市場に大きなインパクトを残すことなく、一時的な相場変動要因として消化される格好となった。
執筆者プロフィール : 神田 卓也(かんだ たくや)
株式会社外為どっとコム総合研究所 取締役調査部長。1991年9月、4年半の証券会社勤務を経て株式会社メイタン・トラディションに入社。為替(ドル/円スポットデスク)を皮切りに、資金(デポジット)、金利デリバティブ等、各種金融商品の国際取引仲介業務を担当。その後、2009年7月に外為どっとコム総合研究所の創業に参画し、為替相場・市場の調査に携わる。2011年12月より現職。現在、個人FX投資家に向けた為替情報の配信(デイリーレポート『外為トゥデイ』など)を主業務とする傍ら、相場動向などについて、WEB・新聞・雑誌・テレビ等にコメントを発信。Twitterアカウント:@kandaTakuya