思いがけない事情で公開が危ぶまれていた草なぎ剛主演の映画『台風家族』が、この作品を観たいと訴えるファンの後押しもあって、9月6日に公開を迎えた。
『箱入り息子の恋』(13)、『ハルチカ』(17)などの市井昌秀監督が12年間温めていたオリジナル・シナリオの映画化した本作は、銀行強盗をして行方をくらました両親の“見せかけ”の葬儀に集まった4兄弟とその家族が遺産分与をめぐって醜くも激しい争いを繰り広げる姿を炙り出すもの。兄弟だからこそ容赦なく炸裂するその剥き出しの感情は傍から見たら滑稽だが、当事者たちにとっては真剣そのもので、昨年7月11日に栃木市藤岡町の撮影現場に潜入したときも、一家の長男・小鉄を演じた草なぎ剛がいままでに見たことのないダメでクズな中年男を生々しい形相で演じている姿を目撃することができた(以下、一部ネタバレを含みます)。
この日の撮影は、10年ぶりに実家に戻ってきた兄弟の骨肉の遺産争いを中村倫也の演じた三男の千尋が盗撮し、全世界に配信していたことが分かる面白いシーン。少し前まで実際におばあさんが住んでいたロケセットの日本家屋もぴったりの雰囲気だったが、気温が40度近くて、カメラが回る本番は扇風機も止めるため、現場はサウナ状態に。全員が汗だくなのが離れたところからでも分かったが、その極悪に環境が草なぎを始め、長女の麗奈を演じたMEGUMI、小鉄の妻に扮した尾野真千子ら出演者のイライラを募らせて、映画的にはいい効果になっていた。
しかも、市井監督は長回しが多く、俳優陣から生の芝居が出てくるまで何度でもテイクを重ねるため、現場はどんどんヒートアップ。千尋の告白を聞いて「オマエ、盗撮していたのか?」と声を荒げる草なぎの声もどんどん迫力が増していったが、何度テイクを重ねても、当然のことながら誰も不平を言うものはない。
それこそ草なぎは、撮影の合間には共演者たちに声をかけて現場の空気をやわらげたり、考え込んでしまう監督をほどよくイジッて緊張をほぐしたりして、座長として現場をさりげなくサポート。だが、カメラが回ると豹変したように汚い言葉で毒つき、千尋の配信が儲かると分かった瞬間に「いいじゃないか、配信続けよう」と絶妙な変わり身の早さを見せ、劇中の人物だけでなく取材陣も驚かせた。
それにしても、この日の草なぎは舌好調で、囲みの取材の場では「このお茶、誰のか分からないけれど、栓が開いてないから飲んじゃおう、僕、このお茶のCMをやっていたから」と言って笑わせたり、市井監督に「草なぎさんと初めてお仕事をされていかがですか?」「小鉄役は僕をあてがきしたんですか?」と自ら質問したりして大暴走! 完成した映画では、その充実ぶりが形になって全開しているのは言うまでもない。
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