設計手順

オペアンプをコンパレータとして設計する手順は、単純化すると次の2つの設計ステップになります。

  • 分圧抵抗またはリファレンス電圧を使ってスレッショルド電圧を設定する
  • ここで述べた設計要件をすべて満たすオペアンプを選択する

図8に、反転コンパレータとして構成された「TLV9062」を示します。このデバイスには入力クランプ・ダイオードがなく(オペアンプがコンパレータとして動作するための必須要件)、レール・ツー・レール入出力の機能があり、スルー・レートは6.5V/μs、過負荷回復時間は200nsです。

  • オペアンプ・コンパレータ

    図8:「TLV9062」を使用したコンパレータ・アプリケーション

反転コンパレータのトポロジでは、入力信号(VIN)をオペアンプの反転ピンに接続し、スレッショルド電圧(VTH)をオペアンプの非反転ピンに接続します。この構成では、入力信号がスレッショルド電圧より小さいとき、オペアンプの出力は正の電源電圧(V+)であるHighに遷移し、入力信号がスレッショルド電圧より大きいときは、負の電源電圧(GND)であるLowに遷移します。

分圧抵抗(R1とR2)および電源電圧(V+)により、この設計のスレッショルド電圧が設定されます。スレッショルド電圧は以下の式で求められます。抵抗R1とR2により、スレッショルド電圧が中間電位に設定されます。

  • スレッショルド電圧の算定式

アプリケーション波形

入力信号として0~5Vの三角波形を使用し、コンパレータの動作を検証します。三角波形では入力信号がゆっくりと変化するため、出力がどこでHighからLowまたはLowからHighへ遷移するかが判別しやすくなります。図9に、入力信号(黒線)と出力信号(赤線)の波形を示します。注目して欲しいのは、入力信号が2.5Vのスレッショルド電圧をまたいだ後の出力の遷移です。

  • オペアンプ

    図9:入力電圧に対するコンパレータ応答(伝搬遅延を考慮済み)

図10は、図9の出力信号の立ち上がりエッジと立ち下がりエッジの部分を拡大したものですが、スルー・レートが回路のタイミングに与える影響が分かります。「TLV9062」がLowからHigh(またはHighからLow)に遷移する時間は、そのスルー・レートにより約1μsかかります。

  • オペアンプ

    図10:立ち上がりエッジ(左)と立ち下がりエッジ(右)

まとめ

コンパレータとして構成されたオペアンプは、専用のコンパレータに比べて低コストでPCBの占有面積が少ない代用品となります。ただし、期待する性能を確実に得るには、次の主な4つのオペアンプ特性を考慮する必要があります。

  • 入力差動クランプ・ダイオード
  • 入力同相モード電圧
  • スルー・レート
  • 過負荷回復時間

オペアンプは、入力クランプ・ダイオードのないものにする必要があります。そうでないと、過電流が入力を流れ、デバイスの損傷につながるおそれがあります。また、入力同相モード電圧範囲を超えないようにしなければなりません。もし超えた場合は、位相反転などの望ましくない影響が生じる可能性があります。最後に、タイミング・エラーを防止し、回路の読み取り精度が下がらないように、出力信号の遷移時間にスルー・レートと過負荷回復時間も考慮するようにします。これらの特性がそれぞれ回路性能に与える影響を理解することで、高精度のしっかりとしたシステムを設計できるでしょう。

参照

TIプレシジョン・ラボ: オペアンプ・ビデオセミナー(日本語吹替、日本語字幕)
・技術記事(英語) "Op amps used as comparators – is it okay?"

著者プロフィール

Tim Claycomb
Texas Instruments
汎用オペアンプ部門
アプリケーション・エンジニア