東京メトロとプログレス・テクノロジーズは8月30日、導入に向けた最終検証を行っている視覚障がい者向け駅構内ナビゲーションシステム「shikAI(シカイ)」のメディア体験会と導入検証の報道公開を有楽町線辰巳駅・新木場駅で行った。

  • 視覚障がい者向け駅構内ナビゲーションシステム「shikAI」の報道公開を実施(写真:マイナビニュース)

    視覚障がい者向け駅構内ナビゲーションシステム「shikAI」の報道公開を実施

今回の報道公開は第1部・第2部に分けて実施。辰巳駅で行われた第1部のメディア体験会では、「shikAI」を実際に使用し、視覚障がい者がアプリを利用してどのように目的地にたどり着くかを報道関係者らが実体験した。

■視覚障がい者向けに最適化されたスマートフォンで案内

「shikAI」はアプリを起動後、スマートフォン(今回はiPhoneを使用)のカメラで床面に貼られたQRコードを読み取り、そこで得られた情報をもとにスマートフォンが音声を発し、どの方向に何m歩けばいいか、視覚障がい者に説明するしくみになっている。

  • 「shikAI」システム概要(東京メトロ提供)

  • メインメニュー(東京メトロ提供)

  • ナビゲーションメニュー画面(東京メトロ提供)

  • 目的地選択画面(東京メトロ提供)

  • 目的地選択画面(東京メトロ提供)

実際に筆者も東京メトロ社員の説明を受けながら、「shikAI」で床面のQRコードを読み取り、どう歩くのか試してみた。

「まずは駅事務室まで行ってみましょう」と言われ、アプリの最初の画面を提示された。視覚障がい者用のアプリは一般のアプリと違い、画面を単純にタッチするのではなく、2回のタッチやスワイプなどを駆使して操作するようになっている。

「駅事務室」を選択し、点字ブロックの上を歩いたところでQRコードを読み込んだ。曲がる方向を音声で発したが、早口で少し聞き取れない。「視覚障がい者には、これくらいの速さの音のほうがむしろ聞きやすいんです」とのこと。左へ曲がる、ということがようやくわかった。

左へ曲がり、改札手前に。ここでもQRコードを読み取り、音声を発して改札であることを示す。改札を通過し、また歩くと、再度QRコードを読み、「右へ曲がります」と言われる。駅事務室までの距離を伝えられ、その通りに歩く。途中の方向転換も音声で示され、目的地に到着した。視覚障がい者がアプリを床面にかざし、スマートフォンを持って情報を読み取らせつつ、目的地へと向かうようになっている。

  • 体験会の会場となった辰巳駅

  • 床面に貼られたQRコード

  • サイズは1辺9cmの正方形

  • 東京メトロ職員から説明を受けて使用する

  • 改札前にもQRコードが

  • ナビゲーションを受けて目的地に到着

  • シンプルなナビゲーションメニュー

  • 辰巳駅の出入口

  • 駅出入口からホームまでQRコードでナビゲーションできるようになっている

体験を終えた後、駅の出入口まで歩くと、各所にQRコードが貼られている。駅の出入口から、点字ブロックとQRコードを見ながら歩いていくと、視覚障がい者がどのように歩けば改札に、そしてホームにたどり着けるか、わかるようになっていた。

■新木場駅で視覚障がい者が「shikAI」を使ってみた

メディア体験会の後、有楽町線新木場駅へ移動し、第2部の「shikAI」導入検証が行われた。実際に視覚障がい者がアプリと白杖を持ち、どのようにホームに着き、電車に乗るか、そして辰巳駅に着いて電車を降りた後、どうやって改札を出るか試し、報道関係者向けに公開することになっている。

  • 導入検証の会場となった新木場駅

  • QRコード手前の段差が少し気がかり

  • 視覚障がい者が実際に「shikAI」を使用する

新木場駅では、駅の出入口からホームに至るまでQRコードが貼られていた。視覚障がい者の方は階段を上ったところから改札前で直角に曲がり、ポケットから交通系ICカードを出す。タッチした後、改札を通る。点字ブロックの上を歩き、白杖で床面の様子を探りつつ、アプリを操作し、ホームへと降りていった。

乗車専用の2番ホームでは、弱冷房車である9号車の扉の前に立った。これら一連の動きをQRコード読取りと音声案内で行っている。

やがて東京メトロ10000系の列車が入線し、扉が開いた。視覚障がい者の方は、白杖でドアの開閉状況やホームとの段差を確認しながら車内に入り、優先席に座った。

  • 点字ブロックの上を歩いていく

  • 白杖とスマートフォンを駆使して改札を通る

  • 乗車位置までのナビゲーションも可能だ

  • 降車後も「shikAI」を利用して移動

  • スマートフォンでQRコードを読み取りながら移動する

  • 改札を出る

新木場駅を発車し、次の辰巳駅に着いたところで下車。ホームに立つとアプリを操作し、降車位置からエスカレーターにまでたどり着く。エスカレーターを降り、音声案内で何度も方向転換しながら改札を出た。

■実際に「shikAI」を使用した感想は?

「shikAI」は、新木場駅のホームまでの動きと辰巳駅での改札までの動きをしっかりとナビゲートすることができた。ところで、なぜこのようなアプリが生まれることになったのだろうか。

東京メトロは2016年12月、「Tokyo Metro ACCELERATOR 2016」でプログレス・テクノロジーズの提案を最終審査で通過させた。同社の提案は、東京がすべての人々にとって安全でやさしい街にする、視覚障がい者でも安全に暮らせるフラッグシップ都市の実現をめざすものだった。

一方、視覚障がい者の現状として、誘導用ブロックと白杖だけでは行先を明確に案内できず、とくに不慣れな駅では迷いやすく、不安を感じている人が多いというものである。しかし近年、スマートフォンの音声読み上げ機能、文字の拡大・白黒反転機能、カメラ機能やそれらを生かしたアプリの普及により、視覚障がい者にとってスマートフォン利用は当たり前になっている。

このことから、スマートフォンと音声案内を利用したナビゲーションサービスにより、視覚に障がいを持った人にも安心して鉄道を利用できる環境を整備する可能性が見えてきたという。2017年から実証実験を開始し、2018年にはQRコードを導入して、辰巳駅で駅構内の移動のシステム検証を行った。今回の導入検証では、実際の利用を想定した実用性が検証されている。

ちなみに「shikAI」とは、日本語の「視界」と、このシステムを成立するのに欠かせないAIをかけ合わせて命名したものである。

「shikAI」を使用した視覚障がい者の方によると、「指示が聞き取れなくて戻ったりもしたが、リピート機能があって聞き直せるのがよい」「アプリがあったほうがわかりやすい」「白杖だけよりも安心感があります」とのことだった。

  • プログレス・テクノロジーズの小西祐一会長(写真左)と東京メトロ企業価値創造部の工藤愛未主任(同右)

「shikAI」を担当したプログレス・テクノロジーズの代表取締役会長、小西祐一氏は、「現段階でAIは使っておらず、枯れた技術を組み合わせている」とした上で、「可能であればAIを組み込みたい」と話している。QRコードを使用した理由として、「コストの安さ」と説明していた。

このアプリは現段階で、駅から乗車し、降車してから駅を出るところまでフォーカスしている。実用化に向けた検証が進み、視覚障がい者の利便性のために何が必要か、実用性を高めることが求められている。