外為どっとコム総合研究所の神田卓也氏が2019年8月の為替相場レビューと、今後注目の経済指標やイベントをもとにした今後の相場展望をお届けする。

【ユーロ/円 8月の推移】

8月のユーロ/円相場は116.538~120.708円のレンジで推移し、月間の終値ベースでは約3.0%下落(ユーロ安・円高)した。トランプ米大統領による対中関税第4弾の表明(1日)や、米財務省による中国の為替操作国認定(6日)など、米中貿易戦争の影響からユーロ弱含み・円強含みで推移。

独の財政緩和や伊の政局不安後退はユーロにとってポジティブ要因となったが、肝心のユーロ圏景気が冴えず、欧州中銀(ECB)の9月利下げ観測が高まる中ではユーロの反発余力は小さかった。なお、米中が相互に関税賦課を発表(23日)すると、26日は116.50円台まで下落して2017年4月以来、約2年4カ月ぶりの安値を付けた。

【ユーロ/円 9月の見通し】

9月のユーロ/円相場にとって最大の注目イベントは、12日の欧州中銀(ECB)理事会だろう。ドイツでは、国内総生産が4-6月期に3四半期ぶりの前期比マイナス(-0.1%)を記録したほか、8月消費者物価指数も7カ月ぶりに前月比で低下(-0.2%)するなど、経済の減速傾向が顕著となっている。ユーロ圏最大の経済規模を誇るドイツの景気後退はECBの金融緩和観測を高めやすい。

こうした中、ECBが12日に政策金利(預金ファシリティ金利)を10bp(0.1%)引き下げることは確実視されており、利下げ幅が20bp(0.2%)になるとの見方も根強い。その他、量的緩和(QE)の再開も合わせて打ち出すとの期待もある。ECBがユーロ圏の景気支援に向けて大規模な金融緩和に動くと見られる中、9月上旬のユーロは上値が重いだろう。ただ、12日のECB理事会の決定が、市場の期待に対する「満額回答」とはならないリスクも残りそうだ。

実際に、クノット・オランダ中銀総裁はQE再開に否定的な見解を示しており、オーストリア中銀の新総裁であるホルツマン氏は利下げ自体にも反対する考えを示している。市場の緩和期待が強すぎるがゆえに、中途半端な緩和措置ではユーロ安は進みにくいと見られ、むしろユーロが反発する可能性さえあるだろう。

9月のユーロ/円相場のもうひとつの注目点は引き続き米中貿易戦争であろう。9月1日に両国が追加関税を発動するなど、戦況はエスカレートしているが、9月中の閣僚級通商協議の再開も模索している模様。関連報道に一喜一憂しやすい相場環境が続きそうだ。

【9月のユーロ圏注目イベント】

執筆者プロフィール : 神田 卓也(かんだ たくや)

株式会社外為どっとコム総合研究所 取締役調査部長。1991年9月、4年半の証券会社勤務を経て株式会社メイタン・トラディションに入社。為替(ドル/円スポットデスク)を皮切りに、資金(デポジット)、金利デリバティブ等、各種金融商品の国際取引仲介業務を担当。その後、2009年7月に外為どっとコム総合研究所の創業に参画し、為替相場・市場の調査に携わる。2011年12月より現職。現在、個人FX投資家に向けた為替情報の配信(デイリーレポート『外為トゥデイ』など)を主業務とする傍ら、相場動向などについて、WEB・新聞・雑誌・テレビ等にコメントを発信。Twitterアカウント:@kandaTakuya