ソユーズMS-14宇宙船が無人で飛んだわけ

ロシアはソユーズ2の打ち上げを重ねる一方で、ソユーズ宇宙船の打ち上げだけは、信頼性を重視し、依然としてソユーズFGを使い続けてきた。しかし、いよいよソユーズ宇宙船の打ち上げもソユーズ2でおこなうようにし、旧式のソユーズFGを退役させることを計画。2014年からプログレス補給船を載せた打ち上げ試験をはじめ、着々と準備を進めてきた。そして今回、初めてソユーズ2.1aでソユーズ宇宙船が打ち上げられることになった。

ただし、今回は安全性を考え、ソユーズ宇宙船は無人で打ち上げられた。ソユーズ宇宙船が無人で飛ぶのは、1986年の「ソユーズTM-1」以来、じつに33年ぶり。またISSに向かうソユーズ宇宙船が無人で打ち上げられるのは史上初となる。この背景には、2015年にソユーズ2.1aを使ってプログレスM-27Mを打ち上げた際、両者の適合性に問題があり、プログレスが損傷し、打ち上げが失敗に終わったことがある。そのため、慎重に慎重を期して、まずは無人で試験打ち上げをおこなうことになったのである。

今回の試験における"目玉"のひとつは、緊急脱出システムの試験である。じつは、ソユーズ2.1aでそのままソユーズ宇宙船を打ち上げると、緊急脱出システムが誤作動し、起動してしまうという問題があった。

というのも、ソユーズFG以前のソユーズ・ロケットは、機体のロール制御(前後軸まわりの回転)はおこなわず、打ち上げ前に発射台が回転することで姿勢を決め、その位置のまま、自身は回転せずに飛んでいた。一方ソユーズ2からは自身が回転するロール制御が取り入れられ、これによりロケットの制御性が向上したが、ソユーズFGではロール制御をおこなっていなかったという経緯から、緊急脱出システムがロール軸まわりの変化を検知すると、「異常が起きた」と判断し、緊急脱出をおこなうようプログラムされていた。そこで、ソユーズ2.1aに合わせて誤作動しないようソフトウェアに改修が加えられ、今回の打ち上げで本当に問題がないか、試験がおこなわれることになった。

今回の試験を踏まえたうえで、ソユーズ2.1aによる有人打ち上げは、2020年の春に予定されている「ソユーズMS-16」宇宙船から始まる予定となっている。

また、今回のソユーズMS-14には、新しい航法システムと姿勢制御システムも搭載され、その試験もおこなわれる。この成果は開発中の新型無人補給船「ソユーズGVK(Soyuz GVK)」の設計にいかされる。これまで有人宇宙船はソユーズ、無人補給船はプログレスと名前が分けられていたので、"無人補給船のソユーズ"というのはやや紛らわしいが、ソユーズGKVはソユーズMSをベースにした補給船で、従来のプログレス補給船とは異なり、ISSに物資を送り届けるだけでなく、ISSで生まれた成果物などを地球に持ち帰ることができる能力をもつ。初打ち上げは2022年に予定されている。

このほか、無人であることをいかし、いつものソユーズ宇宙船よりも多い、約660kgの補給物資を搭載し、ISSへ送り届ける。

ミッション期間は約2週間の予定で、9月6日にISSから離脱し、7日にカプセル部分が地球に帰還する予定となっている。

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    組み立て中のソユーズMS-14とソユーズ2.1a (C) Roskosmos

ヒューマノイド型の遠隔操縦ロボット「フョードル」

前述のような経緯から、今回のソユーズMS-14には人間の宇宙飛行士は乗っていないものの、その代わりにロボットの宇宙飛行士が乗っている。

"彼"の名前は「フョードル(FEDOR)」。ロシアではよくある男性の名前でもあり、また"final experimental demonstration object research"の頭文字をつなげた名前でもある。この名前は、ロスコスモスのドミートリー・ロゴージン社長が名付けたものである。

フョードルは人間の代わりに、宇宙をはじめ、危険な場所での活動をおこなうことを目指したロボットで、自律行動のほか、地上などからヘッド・マウント・ディスプレイ(HMD)と操作アームを使って遠隔操縦することもできる。指を一本単位で動かすことができ、非常に器用な動作も可能としている。

もともとはロシア緊急事態省が、災害などにおける救助活動用に開発を始めたもので、その応用として宇宙ロボットとして活用されることになった。なお、救助用ロボットには「アヴァター(Avatar)」という名前が、宇宙ロボットもフョードル以外に「スカイボットF-850(Skybot F-850)」という正式名称がある。

宇宙飛行士の作業の代替を目指したロボットは、米国や日本などでも開発されているが、フョードルはなんといってもその"コワモテ"な顔が印象的である。「まるでターミネーター」と呼ばれることもあるが、実際に銃を持って撃つこともできる。

フョードルはISSのなかに入って過ごしたのち、ソユーズMS-14宇宙船とともに9月7日に地球に帰還する予定となっている。今回はあくまで試験だが、将来的は宇宙飛行士が宇宙空間に出ておこなう船外活動などを代替することを目指している。

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    試験中のフョードル (C) Roskosmos

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    ソユーズMS-14に乗ったフョードル (C) Roskosmos

出典

https://www.roscosmos.ru/26693/
Soyuz MS-14 mission to the ISS
Soyuz MS-14 - finally delivers Skybot humanoid robot to Station at second attempt - NASASpaceFlight.com
Space Station - Off The Earth, For The Earth
FEDOR (@FEDOR37516789)さん / Twitter