杏が主演を務める日本テレビ系ドラマ『偽装不倫』(毎週水曜22:00~23:00)で、スペイン料理屋・HolaHolaのアルバイト店員役・高野恵梨香を演じている夏子(22)。丈(宮沢氷魚)に一目惚れし、鐘子(杏)の恋敵的な重要な役割を果たす彼女にとって、女優は夢にも思わない職業だった。
『偽装不倫』の直前、「人生の財産」になるような転機が夏子に訪れる。5月から6月にかけて上演された、伝説のロックバンド・ビートルズの創世期を描いた舞台『BACKBEAT』。A.B.C-Zの戸塚祥太が主演を務め、夏子は紅一点ヒロインのアストリッド・キルヒヘル役に抜てきされる。
大好きな読書を断ってまで挑んだ『BACKBEAT』がくれたもの。引っ込み思案だった幼少期を時々思い出しながら、夏子はその「恩返し」のために前進し続けている。
■『BACKBEAT』千秋楽の大号泣秘話
――撮影お疲れ様です。ドラマの反響はいかがですか?
メッセージをくださる方がたくさんいて、友達からも「見たよ」と連絡が来ます。実は、スペイン料理屋でバイトをしていた経験があるんですが、友達はそんなところも面白がって観てくれているみたいです(笑)。現場では、一度テストでやってみて、監督からの指示を頂きながら進めています。
恵梨香は、すごくピュアな恋をしている女の子です。回を重ねるにつれて、鐘子さんと敵対関係になっちゃうんですけど、言葉に悪意のない素直な子です。「恋敵」という立場では敵対関係なんですけど、お店に来てくれるのでなんだかんだでビールを出すみたいな(笑)。鐘子さんに嫉妬をしつつ、そこは店員とお客さんの関係性を保っています。
――インスタには「恵梨香のバンダナはひとつひとつヘアメイクさんが手作りで作ってくれているのです。毎週注目してもらいたいポイント」という秘話も。
バンダナはほぼ毎回変わっています。ヘアメイクさんがオリジナルで作ってくださったバンダナで、何本も作ってきてくださるので、ぜひそこにも注目してほしいです。
――MEGUMIさんとの共演シーンが多いですね。どのような方ですか?
今回、初めてお会いしました。すごくステキな方で、前室でもたくさんお話してくださって、私たちはラブコメ要素を担っているので、「テンポ良くやりたいね」と。MEGUMIさんは最近ホットヨガをはじめたそうで、私を勧誘してくださいました(笑)。
――気分転換も大切ですね。夏子さんはかなりの読書家と聞きました。
本を読むのがすごく好きで、空いている時間やお休みの日は本を読んで、別の世界に行って気持ちをリフレッシュしています。本は、小さい頃から好きだったんですけど、さらに最近ハマっているのは……5月から6月まで舞台があって、その間に本が全く読めなかったんです。その反動で……。
――『BACKBEAT』ですね!
3カ月ぐらい、舞台にずっと集中していました。
――それは初めての舞台だから?
そうですね。確かに余裕がなかったというのもあります。
――舞台で夏子さんを知った方で、ドラマを観ている方も多いみたいですよ。
本当ですか!?
――私のSNS独自調査なんですが。
なんとなんと(笑)。うれしいです。
――3カ月読書を我慢したかいがありましたね。
私、SNSに弱いので(笑)。すごくうれしいです。
――インスタの文章からも、得るものが大きかったことがすごく伝わりました(「毎日毎日、不甲斐なくて悔しくて悔しくて楽しかった信じられないくらい素敵な人に恵まれて全員に助けてもらいました」)。
本当に……やっている時も悔しかったですし、今振り返っても「もっとできることがあったんじゃないか」と思ってしまいます。この3カ月は、女優という仕事にとってもそうだし、自分の人生で振り返ったときでも後々、大きな出来事だったというか。本当に自分の人生の財産になるような時間。私にとっては、初めて見る世界でした。
――その世界、初日と千秋楽では全く別の景色だったんじゃないですか?
舞台は“ナマモノ”と言いますが、本当にその通りで。初日はド緊張でしたし、「どうしよう」「どうしよう」と落ち着かなくて、毎日同じことを繰り返していると分からなくなることもあったり、千秋楽が近づくにつれて悲しくなってきたり。3カ月の間で、本当にいろいろなことを経験させてもらえました。
――千秋楽の前夜はどのようなお気持ちでした?
うれしかったです。悪い意味ではなく、「ようやくこれが最後」。私にとって32回公演は長く感じて、途中で終わりが見えない時もあったんですけど、千秋楽の前日はちょっとだけうれしい気持ちもありました。
――千秋楽のカーテンコールも格別だったでしょうね。
大号泣でした。もちろん寂しくて、悲しくて。3カ月本当につらかったので、そういうことを思い出しての涙でもありましたし、その3カ月を乗り切れたんだという達成感から来る涙でもありました。自分の拠り所ができたというか。あんなに向き合ってくれた人がたくさんいるんだから、その方々に恩返しをしなきゃいけない。そう強く思いました。
お客さんはもちろん、演出家の方も本当に熱い方で。3カ月間、諦めずに最後の日まで稽古してくださいました。共演者の方も、経験豊富な方たちばかりだったので、私のことを見ていてイライラすることもたくさんあったと思いますが、最後までちゃんとアドバイスくれて、優しくしてくれて……。私以外のキャストが全員男性だったんです。10歳ぐらい年上の方ばかりで、ちょっと心配だったんですけど、「おはよう」「おつかれ」とかそういうあいさつだけでも本当にうれしかったです。
――インスタに「また皆んなに会いたいから、会わせてもらえるようにすべきことを私はしなくてはなりません」と書いたのも、そういう思いからだったんですね。
現場ごとで感じていたことですが、『BACKBEAT』ではより強く感じました。みんなに会わせてもらいたいし、何者でもない自分とこうやって一緒に仕事をしてくれた方に恩返ししたいという気持ちは常にあります。
■「夏子」の由来と感謝
――もともとはフリーのモデルとして活動されていたそうですね。
今は休刊中なのですが、『SEDA』という雑誌で、事務所には所属せずに編集長が専属モデルとして面倒を見てくださって。その後に、今の事務所に声を掛けていただいて、所属することになりました。
――『SEDA』以前はモデルとして活動されていたんですか?
サロンモデルを少しする程度でした。
――人生設計も随分変わりましたよね?
本当に、まさかまさかです(笑)。自分が演技をするなんて、思ってもみなかったです。女優の夢も全くなくて。人前に立つことも、人に見られることも苦手で。わりと一人でずっといたいタイプでした(笑)。今でも、自分に向いてないことをしているなぁと思いつつ……。
――なぜ、苦手なことに挑戦し続けてるんですか?
一度、この感動を味わってしまったら楽しくて……。こんな仕事をするなんて、1年前の自分でも考えられなかった。人生って面白いなぁと思います(笑)。今はやれることをどんどんやっていきたいです。
――もう1つインスタで印象的な投稿がありました。「両親から一番最初にもらった夏子という名前は私にとって一番の贈り物です!」という、ご両親への感謝のメッセージです。
見ての通り、「夏の子」です(笑)。「夏子ってステキな名前だね」と知人に褒められて、すごくうれしかったんですよね。念のため、両親に由来を確かめておこうと思って、「夏子って夏に生まれたから夏子なんだよね?」と聞いたら、「そうだよ」と言われ、「男だったら、ナツオだったよ」と(笑)。家族みんなサーフィンをするので、「夏に生まれたから夏子だ」みたいな単純な理由ではあるんですが、私はすごく好きな名前です。「子」がつく名前は学校の先生と私ぐらいで。小さい頃は、「古臭い名前だなぁ」と思っていたんですが、ほかにいないですからね。
そんな夏が大好きな親も、応援してくれています。誰よりもびっくりしてるはず(笑)。教室で手も挙げられなかった娘が、こうして人前に立つ仕事をしているわけですから。
■プロフィール
夏子
1996年9月3日生まれ。東京都出身。雑誌『SEDA』専属として本格的にモデルとして活動をはじめ、その後も数多くの雑誌に登場。2016年、フジテレビ系『世にも奇妙な物語』で女優デビューすると、『明日の約束』(17)、『トレース~科捜研の男~』(19)などのドラマに出演。今年5月から6月まで上演された舞台『BACKBEAT(バックビート)』では、初舞台にしてヒロインという大役を務めた。現在、二兎社公演43『私たちは何も知らない』(11/29~12/22・東京芸術劇場シアターウエスト)を控えている。