ふるさと納税を、地域支援のために役立てる取り組みが全国で進められている。トラストバンクは26日、自然災害で困っている生産者を救った事例を紹介した。福井県坂井市にある梨農園「近ちゃんふぁ~む」では、2018年に相次いで発生した台風で約8,000個の梨が落ちてしまった。同農園の生産量の3割にもあたる大きな被害だったという。そこで取られた起死回生の策とは、一体どんなものだったのだろうか?
被害が甚大に
坂井市は福井県北部にある人口92,000人の都市。梨農園「近ちゃんふぁ~む」は、そんな坂井市三国町で昭和55年に近藤美香氏の祖父が開園した。育てているのは「幸水」「豊水」の2種類。台風による大きな被害を受けたのは、昨夏のことだった。まず8月23日に台風20号が福井県を直撃する。農園では家族総出で枝を固定するなどの作業に追われたが、努力もむなしく約2,000個が落下してしまう。坂井市からは「ふるさと納税の返礼品にしてはどうか」と提案もあったが、まだ収穫前の味のついていない梨だったので、すべて廃棄せざるを得なかったという。
それから2週間も経たないうちに、今度は台風21号が直撃する。このとき落下した梨は約6,000個。近藤氏は当時のことを「農園を見に行くと、これまで経験したことのない様相でした」と振り返る。台風20号、21号による被害総額は約80万円にものぼった。
台風21号の被害を受けて、農園ではすぐに坂井市に事情を説明した。すると落ちた梨のうち、傷が少ないものをふるさと納税の返礼品として提供することが決定。さらにトラストバンクとも協力し、即座にふるさと納税サイト「ふるさとチョイス」に商品が掲載されたという。「梨は鮮度が命なので、時間との戦いでした。こちらから連絡して、すぐに掲載いただけたので感謝の気持ちでいっぱいです」(近藤氏)。
2日間限定で販売を開始した80セットは当夜のうちに完売した。寄付者からも「1日も早い復興をお祈りしています」「台風に負けずに頑張ってください」といった温かいコメントが寄せられたそうだ。近藤氏は「1年の間、愛情をかけて育ててきた梨。廃棄せず、食べてもらえて良かった」と安堵の表情を浮かべる。
ところで落下した梨のうち、返礼品として全国の寄付者の元に届けられたのは、傷の少ない状態の良い約1,800個のみだった。では傷はあるけれど、状態の良い残りの梨はどうしたのだろうか?
梨の落下被害の事情を聞いて、坂井市に協力を申し出る市内の事業者があった。Patisserie Sourire(パティスリー スリール)の西坂英晃氏だ。同社では通常営業の終了後、持ち込まれた梨を痛む前にピューレにして、パックにつめて冷凍保存する作業を深夜まで続けたという。これが後日、梨を絶妙な隠し味にした、福井県産 若狭牛のミンチを使った「美梨カレー」の開発へとつながっていく。この美梨カレーは現在も、コシヒカリとのセットで坂井市のふるさと納税返礼品として絶賛提供中だ。
筆者も試食の機会を得た。辛さは中くらいで、とても濃厚で深みのある味わい。なるほどルーに溶け込んでいるのだろう、梨の味はしない。しっかりした味付けで、これならご飯が何杯でも進むだろう。あっという間に完食してしまった。なおトラストバンクでは期間限定で、有楽町にあるふるさとチョイスCafeでもこの美梨カレーを提供する。気になった方は足を運んでみると良いだろう。
ふるさと納税を通じて、生産者の危機を救っただけでなく、地域の事業者とコラボした商品まで誕生することになった福井県の事例。農園の近藤氏は「今後も、地域の方々と協力してコラボ商品も開発していけたら」と意欲的に話していた。
記者説明会の後、近藤氏にさらに詳しい話を聞いた。家族で経営している農園とあり、収穫の人手が足りない。そこで母親は当初、落ちた梨より通常の収穫を優先した方が良い、との考えだったという。しかし落ちたとは言え傷も少なく、状態が非常に良い梨がたくさんある。それを放置して腐らしてしまうのは「あまりにもショックだった」(近藤氏)。そこで姉妹は手分けして、落ちた梨の選別作業に取り掛かった。
作業は夜を徹して行われ、朝の6時までかかったが、その甲斐もあり10時には出荷できる状態の80セットが用意できた。その先は既述の通り、14時にはふるさとチョイスのサイトに掲載され、同夜のうちに完売している。
「自然災害の心配ばかりしていては、心がもたないんです。今回、こうした仕組みがあることがわかったので、生産者としても少しだけ心に余裕が生まれました。知っているだけでも違う。ほかの生産者の方とも、情報を共有していけたらと思っています」(近藤氏)。
ちなみに最初は反対だった母親は、無事に80セットが出荷された後でさえ、美味しく食べてもらえるのか心配が尽きなかったというが、寄付者から温かい応援コメントが寄せられた段階で、ようやくホッとできたとの話だった。