過熱する中国における超小型ロケット開発競争
中国が新型かつ、商業化を目指した超小型ロケットの打ち上げに成功したのは、7月の北京星際栄耀空間科技(以下、星際栄耀)による「双曲線一号(Hyperbola-1)」ロケットに続いて、2例目となる。
さらに、失敗した打ち上げも含めれば、この10か月のうちに4機の超小型ロケットがデビューしている。
2018年10月には、北京藍箭空間科技(藍箭航天、英語名Landspace)が「朱雀一号」というロケットを打ち上げた。ただ、1段目や2段目の飛行は正常だったものの、3段目の燃焼中に姿勢制御系にトラブルが起き、打ち上げは失敗に終わっている。
朱雀一号は全長19m、3段式の固体ロケットで、高度200kmの地球低軌道に300kg、高度500kmの極軌道に200kgの打ち上げ能力をもつ。また同社は、液体酸素とメタンを推進剤とする「朱雀二号」の開発も進めている。朱雀二号は低軌道に2~4tほどの打ち上げ能力をもつ。
今年3月には、北京零壹空間科技(零壹空間、英語名One Space)が、「OS-M1」というロケットを打ち上げている。しかし、打ち上げから45秒後に誘導航法装置の問題が発生し、失敗に終わった。OS-Mは高度300kmの地球低軌道に205kg、高度500kmの太陽同期軌道に112kgの打ち上げ能力をもつ。さらに、ブースターを装着するなどして打ち上げ能力を高めた、OS-M2やOS-M4といった派生型の開発も進んでいる。
そして今年7月25日、星際栄耀が打ち上げた双曲線一号が衛星の軌道投入に成功。中国において、超小型ロケットが衛星の打ち上げに成功したのは初めてであり、さらに民間資本で開発されたロケットの成功も初めてとなった。同社はさらに、液体酸素と液化メタンを推進剤とし、より大型で、そして再使用可能な「双曲線二号」や「双曲線三号」の開発も進めている。
今回の捷竜一号の成功は、これに続く、中国にとって2機目の超小型ロケットによる衛星打ち上げの成功となる。もっとも、民間企業である星際栄耀などとは異なり、中国航天科技集団や中国運載火箭技術研究院は国有企業であるため、同じ括りには収めにくい。
一方で、今回挙げた以外にも、中国では数十社が超小型ロケットの開発に挑んでおり、ベンチャーも老舗の国有企業もこぞって超小型ロケットの分野に挑んでいるということは、それだけ大きな可能性があることの表れでもある。
"中国版スペースX"は誕生するか
その背景にあるのは、ひとつは小型・超小型衛星のブームである。近年、電子部品の小型化などにより、質量100kgから数kg級の小型・超小型衛星の開発が盛んになっている。そして、そうした衛星を使ったサービスも次々に編み出され、世界中でビジネス化の動きが活発になっている。
一方で、小型・超小型衛星を打ち上げる手段は限られており、大型ロケットで大型衛星を打ち上げるときの空きスペースに相乗りしたり、他社も含めた小型衛星を多数載せて一度に打ち上げたりといった方法が主流である。しかし、それでは自分が希望する日時や軌道に打ち上げることは難しい。そこで、小型・超小型衛星を1機から数機単位で、それも手頃な価格で打ち上げられる専用のロケット、超小型ロケットが待ち望まれている。
その先鞭をつけたのは、米国のロケット・ラボ(Rocket Lab)が開発した「エレクトロン(Electron)」で、これまでにすでに7機の打ち上げに成功し、計30機以上の衛星を宇宙へ送り出している。米国ではさらに数社が打ち上げ間近といわれており、さらに日本でも、インターステラテクノロジズやスペースワンといった企業が、超小型ロケットの開発に挑んでいる。
その流れは中国も例外ではなく、研究機関から企業、大学までが数多くの小型・超小型衛星を開発している。さらに、今回打ち上げられた天啓をはじめ、地球観測衛星コンステレーションの「吉林一号」や、極地の観測に特化した「三極リモートセンシング衛星ネットワーク観測システム」、通信衛星コンステレーション「鴻雁」、宇宙インターネット衛星「行雲プロジェクト」など、小型・超小型衛星を使ったコンステレーション(衛星群)の構想がいくつも立ち上がっている。
つまり、中国国内だけに限ってもかなりの需要が眠っており、国有企業からベンチャーまで、いくつもの企業が超小型ロケットの開発に挑んでいるのもうなずける。
もっとも、中国に限らず他国でもいえることだが、生き残れる企業は限られるだろう。たとえ小型・超小型衛星のブームがこのまま続いたとしても、数十社ものロケットが必要というほどではなく、いずれは淘汰され、数社しか残らないのではないか。その意味では、超小型ロケットの開発競争が過熱しているのは、それだけ待ち望まれているからというよりは、他社に先駆けて実用化し、シェアを獲得するためといえよう。
一方、藍箭航天や星際栄耀などが、超小型ロケットだけでなく中型、大型ロケット、宇宙旅行用の宇宙船などを開発していることからは、いくつかの企業にとって超小型ロケットはビジネスの本命ではなく、通過点、あるいは踏み台とみなされているふしが伺える。おそらく、小型ロケットの「ファルコン1」から出発し、いまや世界一の宇宙企業へと成長した、米国のスペースXをモデルにしていると考えられる。
したがって、昨今の中国において超小型ロケットの開発が過熱しているのは、中国の国内外で小型衛星ブームがあることもひとつだが、より大局的には、宇宙ビジネスにおいて世界の覇権を狙っているとみなすべきだろう。
現在米国は中国に対し、衛星を含む武器や関連技術の輸出規制(ITAR)を設けており、たとえば米国製部品を使った衛星を、中国のロケットで打ち上げることはできない。こうしたなか、中国は自国内の需要に加え、開発途上国などへの衛星やロケットのセット輸出などといった道を模索し、そして成果を出している。
今後、こうした動きがどう推移し、そして"中国版スペースX"が生まれ、成長することになるのかどうかに注目である。
出典
・http://calt.spacechina.com/n689/c15703/content.html
・http://calt.spacechina.com/n482/n498/c14639/content.html
・China successfully conducts first launch of Smart Dragon-1 small satellite launch vehicle - NASASpaceFlight.com
・Jielong-1 maiden launch - Jiuquan - August 17, 2019 (04:11 UTC)
・https://news.ifeng.com/c/7pDNyAOdHwe