熱海の海原と街を望むリゾートホテル「星野リゾート リゾナーレ熱海」。ここには、海と青い空を眺めながら読書が楽しめる「ソラノビーチ Books&Cafe」がある。
約600種の本が並ぶ本棚には、どんな本が並んでいるのだろうか。"リラックス"を追求した空間で読まれる本の選び方は? 選書担当者の石丸智浩さんに聞いてきた。
"憧れ"にひたる読書空間
――これだけ蔵書が充実しているリゾートホテルというのも珍しいと思うのですが、リゾートにおける本の役割をどのように捉えていらっしゃいますか?
「Books&Cafe」は”本でくつろぐリゾートライフ”をコンセプトに、リゾナーレ八ヶ岳で生まれました。今は熱海、八ヶ岳、トマムのリゾナーレ※で展開されています。
リゾート施設なので、アクティブに過ごせる体験コンテンツもたくさん用意しているのですが、「日々の喧騒から逃れて非日常を感じたい」という方に向けて、リラックスの要素の一つとして、読書を提案しているんです。
リゾナーレ熱海のBooks&Cafeでは、"ここに来たら必ずリラックスできる"と思ってもらえる空間になるよう、こだわりのドリンクや本を置いています。
※「大人のためのファミリーリゾート」をコンセプトに、洗練されたデザインと豊富なアクティビティを備えた西洋型リゾートブランド
――リラックスの手段として本を位置づけていらっしゃるのですね
海が見える空間なので、本がなくてもリラックスはできると思うのですが、せっかくここで本を読むのなら、どんな内容のものがいいだろう……と考えて選書しています。
「こういう理想的な暮らしがしたいな」とか「こういう旅行がしたいな」といったように、ここで読書をした方が”憧れ”の気持ちをふくらますことができるような本を選んでいます。
リラックスするには「趣味を深める」「考えなくても読める」本
――具体的には、どのようなジャンルの本を置いていますか?
アウトドア、天体、旅行、カフェ、アルコール、風景、料理、ガーデニング、デザイン、建築……などにジャンル分けできると思います。
また家族連れの方へ向けて、絵本やママさん向けの本も置いています。季節のたしなみや和菓子など、日本をテーマにした本も特に年配の方に人気です。
――どうしてこういったジャンルを選んでいるのでしょうか
「旅に来たから読みたい」「考えなくても読める」本が多いと思うからです。それから、日常に直結するものよりも、日常でマストではないけれど「趣味を深める」ようなジャンルの方が、リラックスにつながるような気がしています。
――普段はお仕事をしている利用者の方も多いと思うのですが、ビジネス書は置かないんですか?
難しい内容のものは置きません。営業の仕事をされている方であれば話し方、プレゼンをされる方であれば見やすい資料の作り方というように、普段は仕事に直結する内容の本を選びがちだと思うのですが、ここではそういうものは、あえて置かないようにしているんです。
ただ、結果的に仕事につながるような、概念的な本は置いています。例えば松下幸之助さんの『人生と仕事について知っておいてほしいこと』は、ここでとても読まれている本の一つです。
――旅行や風景をテーマにしたものなど、写真が楽しめる本も多そうですね
目で見て楽しいのと同時に、「次にここへ旅してみたい」「読んでいるだけで旅している気分になる」という視点も大事にしています。
熱海市は"東洋のモナコ"と言われているのですが、ここに来ると「日本じゃないみたい」と思ってくれる方もいらっしゃるんですよ。読書とカフェから臨む風景で、さらなる非日常感も楽しんでいただきたいです。
選書における「絶対に外せないポイント」は?
――棚に置く本は石丸さんが全て決めているのですか?
他のスタッフから意見をもらうことはありますが、基本的には一人で発注しています。開業からずっと試行錯誤を繰り返してきて、ようやく棚が落ち着いてきたな、と感じているところです。
――試行錯誤ということですが、失敗したなと思う瞬間もあったのですか?
ここでは本の販売もしているのですが、「売れるだろうな」と思って仕入れたものの、売れ行きがあまりよくなかったり、お客さまアンケートで「このジャンルの本が少なかった」とご指摘をいただいたりすることもありました。
例えば、子ども向けの本の中でも「小学校高学年向けの本が少ない」とか、ジャンルの偏りが出てきてしまうことも。指摘をいただいた点は十分に調査をして、棚づくりに生かしています。
店内を見回っていると、風景の本は没頭して読んでいる人が多いなとか、コーヒーやワインの知識を深める本はよく読まれているなとか、気づくことがたくさんあります。ゲストから教えていただくことは多いですね。
それから、お気に入りの本屋さんに置かれている本を参考にすることもあります。その本がカフェにマッチしていれば、仕入れることもあります。
――本を選ぶときに大切にしている基準、絶対に外せないポイントはありますか?
三つあります。一つは「デザイン」。表紙を見せて置いたときに、空間として違和感がないかどうかを見ています。
二つ目は「楽しい気持ちになれること」。気持ちが暗くなるような本は置いていません。
三つ目は「日常を思い出さないこと」。思い出すとしても「自分の暮らしにこういうものを取り入れたら、もっと素敵な暮らしになるだろうな」と思える内容の本を選んでいます。
――リラックスしたいとき、自分で本を選ぶときにも参考になりそうです
そうかもしれません。それから、あまり文字数が多くなくて、ビジュアルで楽しめる本、自分の好きな分野の本を選ぶといいかもしれないですね。
例えば僕はコーヒーが好きなので、コーヒーの専門誌を定期購読していますが、やっぱりリラックスできますよ。その専門誌はデザインもすごく良いので、疲れているときは、好きなドリンクを飲みながら、パラパラと流し読みするだけでも楽しい気持ちになれます。
石丸さんが選ぶ、休暇中にリラックスできる本3冊
――最後に、ビジネスマンに向けてオススメしたい「休暇中にリラックスするための本」を教えてください!
個人的な趣味になってしまいますが、伊坂幸太郎さんが大好きで……まず、『チルドレン』(伊坂幸太郎)をオススメしたいと思います。家裁調査官のお仕事の話なのですが、ほっこりするストーリーになっていて、フィクションとしてリラックスしながら読める小説です。入り口がお仕事なので、仕事脳から完全に抜けられない方でも、読書の世界に入りやすいと思います。
二冊目は、僕が大学生の頃に読んで影響を受けた、高橋歩さんの『Adventure Life ~愛する人と、自由な人生を~』という本です。高橋さんが夫婦で世界一周をした体験を綴ったエッセイで、世界中の写真と、ご夫婦で訪れたからこそ紡げるストーリーが楽しめます。
「仕事を辞めて旅に出たいなぁ」という憧れ、持っている人は多いと思うんですよね。この本を読むと旅に出た気分になれるし、「自分ももしかしたら憧れを叶えられるかも!」って不思議と思えてきますよ。
最後は、星野道夫さんの『旅をする木』です。アラスカという大自然の写真と星野さんの言葉がつづられています。この本を読むと、人生って何だろう、生き急いでいたのではないか、もうちょっとゆっくり、どんと構えて生きていってもいいのではないか……と思わされます。日々の生活の中で、ちょっと立ち止まるきっかけが欲しいという方にオススメです。
このカフェのように海を臨める環境はなかなか難しいかもしれませんが、緑があって、日の光がある場所、お気に入りのイスがある場所など、ご自身の居心地の良い場所を探して、読書を楽しんでみてくださいね。