ダイエット中、甘いものやこってりしたものは控えているのに、どうしてもスイーツやジャンクフードが食べたくてたまらなくなるときがないだろうか。女性の場合、そのようなケースは生理前に訪れていることが少なくないかもしれない。結果としてリバウンドを繰り返し、いつまでたってもやせられない――そういった悩みを抱えている女性もいるだろう。

実際、「生理前は太る」とよく言われているが、いったいなぜ生理前に太るのだろうか。ホルモンと食欲の関係や効率的なダイエット法について、産婦人科専門医の船曳美也子医師にうかがった。

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生理前に太る理由

生理は約4週間(25~38日)を一つのサイクルと考え、その周期は「卵子が育って排卵するまでの時期」(生理後1~2週間)と「排卵してから次の生理までの時期」(生理約2週間~3週間後)に大別できる。

生理周期の後半、すなわち、排卵から次の生理までの2週間は、卵巣から分泌されるプロゲステロン(黄体ホルモン)によって太りやすくなる時期と考えられている。その理由は2つに大別できると船曳医師は話す。

「1つは、むくみです。プロゲステロンは身体の血管外の組織、つまり皮下の細胞に水をためやすくなります。それにより黄体期の体重は、2~4kg増加してもおかしくありません。2つ目は、プロゲステロンによる食欲増加です。特に、炭水化物や脂肪を摂(と)りたくなります。また、プロゲステロンは、感情や気分のコントロール、精神の安定に深く関わる神経伝達物質『セロトニン』を減少させるため、甘いものなどでストレス発散したくなります」

ホルモンと食欲の関係

このようにホルモンと食欲は密接な関係を持っている。船曳医師によると、エストロゲン(女性ホルモン)とプロゲステロン、さらに男性ホルモンという3つのホルモンが脳の食欲中枢に大きく関与しているという。

「エストロゲンは脳の満腹中枢を刺激するため、すぐお腹いっぱいになりますし、お腹が減ったときに出る飢餓ホルモン『グレリン』を感じにくくします。プロゲステロンはその逆で、脳の食欲中枢を刺激するため、お腹がすきます。特に脂肪や炭水化物を摂(と)りたくなりますし、セロトニンを減らすのでストレスを感じやすくなり、さらに甘いものを欲しくなるというわけです」

なお、月経周期とは関係ないが、男性ホルモンも食欲を亢進し、頻回に少量を食べたくなる。ストレスがかかると、それに対抗しようとしてストレスホルモン「コルチゾール」が分泌されるが、これは男性ホルモンの分泌も促してしまうとのこと。

生理前半がやせやすい理由

上述のように満腹中枢の刺激と飢餓ホルモンへの感受性の低さから、エストロゲンが分泌される時期がダイエットには適していると言える。時期で言えば、生理周期の前半、すなわち月経から排卵までの2週間だ。

「この期間はエストロゲンだけが分泌されるため体重が落としやすいです。特に排卵直前の最も妊娠しやすい時期は、食欲も最も低下する時期にあたります」

体重に関係する要素を「食欲」「代謝」「水分貯留」の3つだとすると、その増減は下記の表になる(※上段が生理前半、下段が生理後半)。

食欲 代謝 水分貯留
減る 増える 減る
増える (運動をすれば)増える 増える

太りやすい時期におすすめの食べ物

太りやすい時期は、生理前2週間のプロゲステロン分泌の時期だということがわかった。この時期はホルモンのせいで脂肪や糖質へ手が伸びやすくなるが、無理は禁物で食べ方を工夫すればいいという。

「1回あたりの食事量を少なくして、一日分の量を6回程度の食事回数に分けて摂ってください。少量の食事を摂ることで、満腹中枢を満たす『頻回小食ダイエット法』がこの時期には適しています。また、この時期に不足しやすいセロトニンを補うため、カカオ含有率の高いチョコレートやチーズ、ナッツを摂るように意識しましょう。ごはんもOKですが、必ず1回分は少量にして、頻回に食べてください」

プロゲステロンはエネルギー消費を亢進するので、有酸素運動をするのもよい。早朝の朝日を10分浴びるとセロトニン分泌が増えるため、朝の散歩かジョギングがこの時期には最適な運動と言えそうだ。

やせやすい時期におすすめのダイエット方法

「エストロゲン分泌時期は、塩分が薄くても血液のバランスが整う時期なので、味は薄味にして食事量をいつもの8割程度にしてみましょう。ただ、カロリー制限のしすぎは注意してください。1日600kcal以下は入院が必要です。激しい運動は特にせず、『薄味でバランスよく小食を心がける』のがこの時期のダイエットに効果的だと覚えておきましょう」

※写真と本文は関係ありません

取材協力: 船曳美也子(フナビキ・ミヤコ)

1983年 神戸大学文学部心理学科卒業、1991年 兵庫医科大学卒業。産婦人科専門医、生殖医療専門医。肥満医学会会員。医療法人オーク会勤務。不妊治療を中心に現場で多くの女性の悩みに耳を傾け、肥満による不妊と出産のリスク回避のために考案したオーク式ダイエットは一般的なダイエット法としても人気を高める。自らも2度目の結婚、43歳で妊娠、出産という経験を持つ。2014年、健康な女性の凍結卵子による妊娠に成功。出産に至ったのは国内初とされる。著書に、「婚活」「妊活」など女性の人生の描き方を提案する著書「女性の人生ゲームで勝つ方法」(2013年、主婦の友社)、女性の身体について正しい知識を知ってもらえるよう執筆した「あなたも知らない女のカラダ―希望を叶える性の話」(2017年、講談社)がある。En女医会にも所属している。

En女医会とは
150人以上の女性医師(医科・歯科)が参加している会。さまざまな形でボランティア活動を行うことによって、女性の意識の向上と社会貢献の実現を目指している。会員が持つ医療知識や経験を活かして商品開発を行い、利益の一部を社会貢献に使用。また、健康や美容についてより良い情報を発信し、医療分野での啓発活動を積極的に行う。En女医会HPはこちら。