日本マイクロソフトは2019年8月20日、新しい会計年度となる2020年度(2019年7月1日~2020年6月30日)の経営方針を説明する記者会見を開催した。同社は、過去に注力してきたインフラやパッケージソリューションから、ビジネス変革を実現するDX(デジタルトランスフォーメーション)に舵を切ってきたが、その流れは新年度の注力分野「お客様の業種業態に最適な支援の推進」「モダナイゼーションの加速(ITインフラの最新化)」「クラウド&AI人材の育成」からも分かるように、さらに加速させている。

なお、日本マイクロソフト 代表取締役 社長 平野拓也氏は、2019年8月31日をもって社長を退任し、日本マイクロソフト特別顧問およびMicrosoft, VP for One Microsoft Partner Group, Global System Integrator Businessに着任。今回の会見では、後任となる新社長の名前は明かされなかった。

  • 日本マイクロソフト 代表取締役 社長 平野拓也氏

2020年度における事業戦略の基盤として、日本マイクロソフトは「デジタルフィードバックループ」を掲げた。データ収集や連携、蓄積したデータから洞察を得るビジネス成果の改善を通じて、顧客とつながるチャネルシフト戦略の実現や、従業員のエンパワー、製品の変革、業務の最適化を実現するというものだ。それを具現化するために、前述した3項目に注力する。

  • 2020年度に注力分野の背景にある「デジタルフィードバックループ」

1つ目の各業種業態に対する支援と、3つ目のクラウド&AI人材育成は割愛するが、2つ目のモダナイゼーションの加速は読者諸氏の仕事環境にも影響しそうなので、少々深掘りしてみたい。

具体的な施策として掲げたのは、「『2025年の崖』からの脱却」「ミッションクリティカルシステムのクラウド移行」「サポート終了製品からの移行」の3つ。2025年の壁は、経済産業省が2019年3月に発表した「DXレポート」で言及され、年間12兆円の経済損失が発生するとされている。日本マイクロソフトは「労働人口の減少やIT人材不足の状況下でも、我々がやるべきことがある」(平野氏)と述べ、既存インフラのクラウド化推進やコモディティ化によって、顧客の負担を軽減する提案を行っていく。その提案が、以下のクラウド移行だ。

日本マイクロソフトは、SAP ERP(基幹系情報システム)ソリューションの保守サービスが2025年に終了することを引用しつつ、専門チームを用意して対応すると語った。さらにサポート終了は他社に限らず、自社のWindows Server 2008/2008 R2やWindows 7のサポート終了も目の前にある。日本マイクロソフトは2019年6月時点で、約871万台のPCがWindows 7のまま、コンシューマー市場で動作していると予測した。Windows 7がサポート終了を迎える2019年1月14日時点でも、約681万台の端末がWindows 7を使い続けるという見通しを明らかにしたが、今回の記者会見では新たな施策は語られなかった。

会見終了後、関係者に本件を尋ねたところ、「Windows XPのサポート終了は社会大きな影響を及ぼした。慎重に対応したい」と語っている。前述の「サポート終了製品からの移行」は主に法人市場を対象にしているが、日本マイクロソフトの予測を考えると、Windows 7サポート終了直前には何らかの施策を打ってくるのではないだろうか。

また、コンシューマー向けPC施策に関しては、新大学生のPC需要や教育市場における文教PC需要を見込む。2019年7月に発表した「Microsoft School Dashboard」(*)など、多角的な戦略でPC市場の振起を目指している。

(*)Office 365による統合されたID環境と、Dynamics 365を活用したデータ基盤の導入によって、教育ビッグデータ活用の基盤を目指すソリューション

  • 日本マイクロソフトが注力するエンタープライズ分野の1つに「ゲーミング」が含まれる

先ほど割愛すると述べた各業種業態に対する支援には、ゲーム業界が含まれる。具体的には、ゲームパブリッシャーやゲーム開発会社、ホスティング事業者を対象にしたエンタープライズ分野のため、コンシューマー市場が即時変化することはない。

2019年5月発表のMicrosoftとソニーの戦略的提携に関しても、「今後はMicrosoft Azureを活用したゲームやコンテンツのストリーミングサービスを通じたソリューション共同開発、Microsoft AI技術をソニーのコンシューマー製品に採用するかどうかの検討、半導体分野ではインテリジェントイメージセンサーの共同開発検討を行う」(平野氏)とした。

また、Microsoftは2018年1月に、クラウド型ゲームの構築や運用を目的としたバックエンドプラットフォームプロバイダーのPlayFabを買収した(現在はAzure PlayFabとして提供中)。2018年はObsidian EntertainmentやDouble Fine Productionsといったゲーム開発企業を買収し、Xbox Game Studiosの体制を強化している。

2019年5月にMicrosoftが開催したBuild 2019では、注力分野として、Microsoft Azure、Dynamics 365、Microsoft 365、そしてゲーミングと明言した。先ごろ、日本マイクロソフトは「ゲームAIの進化と歴史」と題した記事を公式ブログで発表し、ここに関係者の説明を加えると、Microsoftは着々とゲーム市場に対する施策準備を行っており、日本市場でも今後何らかの変化が生じるだろう。このあたりは正式な発表や進捗があったタイミングで、改めてお伝えしたい。

阿久津良和(Cactus)