“令和初”となる「写真甲子園2019」(全国高等学校写真選手権大会)は「写真甲子園2019、和歌山の神島高校が史上初の3連覇!」で報じたとおり、和歌山県立神島高等学校の3連覇で幕を閉じました。
今回は、記者が取材した「令和初の写真甲子園」について、ステージごとの詳細レポートをお届けします。
「共存」のテーマが難題だったファーストステージ
昨年の第25回大会より、テーマに加えて「色指定」という課題が課されるようになりました。7月31日のファーストステージはカラー指定で、テーマが「共存」。かなり漠然としたテーマでありましたが、撮影1は東川町と美瑛町にまたがるダム湖・忠別ダム周辺、撮影2は東神楽町と旭川市にある旭川空港周辺というロケーションで、各チームがテーマを考えながらの撮影に挑みました。
テーマの「共存」という言葉は、かなりイメージが固定されやすく、高校生たちにとって難題だったことがうかがえます。ファースト審査会で提出された8枚の組写真も、やはり「自然と人との共存」というイメージにとらわれた作品が多かったように感じました。
そんなファーストステージで記者が気になった作品は、北関東ブロック代表・新島学園高等学校(群馬県安中市)の「生きていくために」です。8枚通して見ると荒削りな感じは否めないのですが、3枚目の子どもの裸の写真には、審査会場からも思わず感嘆の声が上がりました。子どもが裸になって遊ぶ姿はなかなか目にする機会が少なくなった昨今、元気よく生き生きとした姿を写したこの写真には、ノスタルジーを感じた人も多かったようです。
モノクロ指定で人々の営みを写し取ったセカンドステージ
翌8月1日はセカンドステージとして、美瑛町(撮影3)と上富良野町(撮影4)へ。テーマは「いとなみ」で、モノクロ指定です。どちらの撮影も「まちなか撮影」と題し、両町の市街地を徒歩で被写体を探しながらの撮影となりました。
人物撮影をメインにするチームが大半を占め、それぞれ「仕事」をテーマに据えたり、これからの北海道を担う子どもたちの生き生きとした姿をとらえたりしていました。
そんなセカンドステージで異彩を放ったのが、北海道岩見沢高等養護学校(北海道岩見沢市)。3年連続5回目の出場となった今回、同校の特色である抽象画のような作品がファーストステージでは鳴りを潜め、審査員からは消化不良との講評がありました。セカンドステージの作品は、自分たちらしさを追求して独特の世界観を8枚の組写真に表現し、審査員からも高い評価を得ることができました。
「北海道のいい人、いいところ」がテーマのファイナルステージ
最終日のファイナルステージ(撮影5)は東川町の市街地での撮影となりました。夜のファイナル公開審査会では、全ステージから8枚の作品をセレクトするため、すでにテーマに基づいた作品を撮り終えているチーム、足りない写真を求めて早朝から奔走するチームなど、各チーム思い思いの時間を過ごしていました。そして、10時にすべての撮影が終了。残すはセレクト会議とファイナル公開審査会、表彰式を残すのみとなりました。
ファイナルステージで記者が印象に残った作品は、沖縄県立浦添工業高等学校(沖縄県浦添市)の『穏やかな時間』。歴代の写真甲子園に出場した沖縄のチームは、カラーの色使いが非常に上手でした。そんな先輩方が築いてきた沖縄の“カラー”を見事に踏襲しつつ、作品タイトル通りの優しく穏やかな視点が現れた作品となっていました。結果は準優勝でしたが、「優勝した神島高校とは僅差だった」という審査員の講評がよく分かる作品だったと思います。
審査委員長・立木義浩氏が見た「写真甲子園2019」
表彰式の終了後、審査委員長を務めた写真家の立木義浩氏が報道陣の囲み取材に応じ、今回の「写真甲子園2019」について総括しました。
立木氏によると「今回は非常にレベルが高かった。ブロック審査会を採用してから、各チームの気合の入り方が違う。特に、和歌山の神島高校などはしっかり練習してきて、何を撮るか決めたら“どう撮るか”に腐心して撮影に臨んでいる」とコメント。写真は経験が重要で、しかも短い時間で撮影しなければならない写真甲子園では、日々の練習は怠ることができないとのことでした。
そのうえで「頭で考えたものに近づけようとするチームが多い。本当は現場で感じたものを身体で受け止めて撮影するほうがずっとまともなはずなのに、それをやらない。それはリスクがあると思っている。現場で何も感じることができなかったらどうしようというのが怖いのだと思う」と立木氏は指摘します。
立木氏が高く評価した作品は、神島高校のセカンドステージで提出されたこの1枚。
立木氏によると「これ、ノーファインダーで撮ったっていう。26年間で選手の口からノーファインダーという言葉を聞いたのは初めて。新鮮で強烈な写真」とのことでした。また、立木氏が神島高校に1票を投じた理由として、ファイナルステージを1枚を挙げました。
「ほうきを持った女性が茫然と外を見ている感じが、生活を尊重している中でふとため息をつく瞬間がある。そういう片鱗が写っているのが凄いと思った。(神島高校は)3日間、精度の高い作品を提出してきた」と高く評価していました。
今回の写真甲子園2019は“令和初”という新しい時代になって、大会がどのように変わっていくのかということにも注目をしてきました。大会も26回を数え、レギュレーションや大会運営も成熟してきた写真甲子園。出場チームの大会への挑み方も、ある程度の予定調和ができている印象を受けました。
“写真”が身近になった現在、作品に対する評価も普遍化しつつあります。写真甲子園でも、競技での作品に対する評価が定まってきているため、テーマに合わせて技巧を凝らすことで高い評価が得られる傾向があります。ただ、全国の高校生たちが北海道を初めて訪れて、その大自然やおおらかな人柄に触れた感動が作品に込められているかどうか。新しい時代になって、この写真甲子園というイベントの原点に立ち返り、高校生たちの新鮮な感動が表現された作品こそが求められているのではないかという印象を受けた今年の写真甲子園2019でした。