出産を経て職場復帰をする際、「短時間勤務」(時短勤務)の制度を利用する女性は多いと思います。子どもと過ごす時間を増やせるメリットがある一方で、心配なのは給与がどの程度減るのかということではないでしょうか。そこで今回は、短時間勤務中の給与について考えます。

  • 時短勤務にすると給与はどれくらい減るの?

    時短勤務にすると給与はどれくらい減るの?※画像はイメージ

時短勤務とは

短時間勤務制度(時短勤務)は、小さい子どもを育てながら社会復帰ができるよう、育児・介護休業法の改定によって、2009年に設けられました。

フルタイムの正社員であれば、子どもが3歳になるまで、原則として1日6時間の短時間勤務ができます。派遣社員やパートタイマーでも、「1.同一の会社に1年以上雇用されていること」「2.1週間の所定労働日数が3日以上あること」という、2つの条件を満たせば利用することができます。

子育て中の社員にとっては、とてもありがたい制度ですね。

時短勤務中の年収、どれくらい変わる?

一方で気になるのが、時短勤務中の年収がどれくらい少なくなるのかということでしょう。保育料を支払いながらの社会復帰をすることが多いと思われますので、しっかりシミュレーションをしておきたいですね。

まず原則として、働いていない時間については賃金が支払われません。

例えば、フルタイムで1日8時間勤務をしていたとします。そして、時短勤務で1日6時間の勤務をするとしましょう。

その場合の給与は、下記のように計算する企業が多いようです。

  • 時短勤務中の給与計算方法の例

    時短勤務中の給与計算方法の例

仮にフルタイムの基本給が25万円とすると、時短勤務の給与は25万円×120時間/160時間=18万7,500円ということになります。単純に計算すると、フルタイムで働いていた時の給与の3/4ということですね。

また、ボーナスにおいては時短勤務によって働かなかった時間を差し引いて支給する企業が多いです。

仮にフルタイムで1日8時間勤務していた時のボーナスが50万円だとします。時短勤務で1日6時間勤務をした場合のボーナスの額は、先ほどと同じように50万円×3/4=37万5,000円という計算になります。

つまり、時短勤務中の年収は、ざっくりですがフルタイムで勤務していた時の月収とボーナスを合わせた額の約3/4と考えておけばいいでしょう(ただし、基本給には残業代や住宅手当、役職手当などは含まれないとされている企業が多いです)。

時短勤務中は、フルタイムで働いていた時にしていた残業をしなくなることが多いと思われます。フルタイムでバリバリ残業をしていた人にとっては、実際の年収は時短部分以上に減額となる可能性があります。

ところで、時短勤務を選択したことを理由に、実際の勤務時間よりも給与が少なく計算されるのではないかと、心配する人もいるかもしれません。

ここで育児・介護休業法について、簡単に触れておきます。

育児・介護休業法の中に「不利益取扱いの禁止」という規定があります。この規定では、「実際に働かなかった時間については給与を減額してもいいですが、実働時間よりも少なく給与額を計算するのは違反ですよ」ということが定められています。

先ほど、時短勤務中は残業をすることが少なくなる場合が多いとお伝えしましたが、もし残業をした場合は、その分もきちんと支払われるので安心してくださいね。

社会保険料はどうなるの?

毎月給与から天引きされている社会保険料は、「標準報酬月額」に保険料率をかけて計算されています。先ほど計算したように、時短勤務をすると給与が少なくなりますね。では、社会保険料も安くなるのでしょうか。

実は、職場復帰から3カ月の間は安くなりません。この期間は、産休に入るまでの標準報酬月額をもとに、社会保険料が決められているからです。

しかし「育児休業等終了時報酬月額変更届」を日本年金機構に提出することで(会社を通じて提出する場合が多い)、復職後3カ月の給与をもとにした標準報酬月額へ改定されます。結果として、4カ月目から社会保険料は安くなります。

年金の受け取り額は減ってしまうの?

毎月の保険料の負担が減るのはうれしいですが、ここで気になるのが将来もらえる年金も減るのでは? ということでしょう。

本来、給与から引かれる社会保険料が減るということは、将来もらえる年金額が減るということです。しかし、時短勤務で年収が減った上に、将来もらえる年金まで減ってしまっては困りますね。そのため、年金額を算定する特例措置として「養育特例」があります。

「養育特例」とは、3歳未満の子どもを持つ厚生年金保険加入者を対象とする制度で、養育期間の従前標準報酬月額のみなし措置のことをいいます。特例措置の手続きをすることにより、給与から天引きされる保険料は下がったままで、将来の年金額は養育期間に入る前の標準報酬額で計算されます。結果として、産休前の給与をもとにした年金額を受け取れることになります。

ただし、この制度を利用するには、本人が申し出る必要があります。手続きは、会社を通じて「厚生年金 保険養育期間標準報酬月額特例申出書」を日本年金機構へ提出する形となるでしょう。必要な書類は、戸籍謄(抄)本または戸籍記載事項証明書と住民票です。

ちなみに、この制度を知らずに「申請をしていなかった……」という人は、2年以内であれば申請ができますので、まだ間に合う人はぜひ手続きをしてくださいね。

安部智香

女性のためのお金の総合クリニック「エフピーウーマン」認定ライター 安部智香ファイナンシャルプランニングオフィス代表、 ファイナンシャルプランニング技能士2級、AFP(日本FP協会認定)、一種外務員資格 短大卒業後、証券会社に勤務。在職中は資産運用のアドバイスを担当。結婚退職後は、証券会社在職中に得た知識を活かし投資による資産形成を行っていたが、周りの主婦の大半は投資の方法を知らないことに気付く。そのため、「もっとお金のこと、家計のこと、資産運用のことを伝えたい」という思いで個人事務所を立ち上げる。個別相談、執筆業務、マネーセミナー講師として活動中。著書は「幸せなお金持ちになるマネーレッスン♪」(パブラボ)