8月8日、楽天が開いた2019年度第2四半期決算説明会では、今年10月に開始予定の自社回線による携帯キャリア(MNO)サービスについて、より具体的な姿が明らかになってきた。
楽天によれば、新サービスは10月1日にまずは「スモールスタート」で始まり、段階的に拡大させていくという。「携帯業界に革命を起こす」と鼻息の荒かった楽天だが、本格展開はいつになるのだろうか。
楽天キャリア開始は「ホップ・ステップ・ジャンプ」
7月31日から横浜で開催した「Rakuten Optimism 2019」では、将来的な5G時代を見据えた構想が語られた。インフラ自体は5Gへの移行を前提に作られているが、10月1日に始まるのは現行世代の4G(LTE)サービスだ。
決算説明会に登壇した三木谷浩史会長兼社長は「ホップ・ステップ・ジャンプでやっていく。まずはスモールスタートから始める」と、具体的なサービス開始のイメージを語った。
スモールスタートの理由として三木谷氏は、安定性への配慮を挙げた。というのも楽天は、自ら世界初とうたう完全に仮想化した携帯ネットワークを導入しようとしている。高価な専用機器は使わず、安価なPCサーバーなどの汎用ハードウェアと、ソフトウェアだけで構成するのが特徴だ。
すでに楽天の自社回線サービスは社員向けに提供しており、「大きな自信はあるが、完全に新しい技術として世界から注目を浴びており、念には念を入れていく」(三木谷氏)と慎重な構えだ。
「携帯業界に革命を起こす」というこれまでの勢いと比べばトーンダウンした感はあるものの、携帯インフラに障害が発生したときの社会的インパクトはたしかに大きい。サービス開始直後に自然災害などが起きる可能性もゼロではない。安定性を重視する姿勢は、妥当なやり方といえるだろう。
三木谷氏の説明によれば、まずは数を限定して始め(ホップ)、その後にオンライン展開(ステップ)、リアル店舗展開(ジャンプ)へと1~2カ月かけて拡大させるという。本格展開は年末から年明けにかけた時期になりそうだ。
安さ以外の魅力を訴求できるか
今回はあくまで決算説明会ということでモバイル事業に割く時間は限られていたが、詳しくは9月上旬の発表会で説明するという。ここではさらに具体的なサービス開始の段取りや、既存ユーザーの移行プランが語られるようだ。
サービス開始まで2カ月を切った形になるが、エリア整備はどうなっているのか。当初の説明では東京23区や大阪市など混雑エリアは自社整備、それ以外はauのローミングを利用する予定だった。だがKDDIによれば東名阪でも地下鉄や主要ビルはローミング対象とのことから、auがカバーする範囲は意外と広くなりそうだ。
東名阪の地上部分は楽天が基地局を整備することになるが、その進捗が遅れているとの指摘が出始めている。この点について三木谷氏は「もう1~2週間早ければとは思っていたが、ある程度の幅を持って進めている」とあくまで予定通りとの姿勢を示した。
サービス開始に向けて料金プランへの関心も高まっているが、三木谷氏はぎりぎりまで手の内を見せない方針を維持している。特に競合するとみられるワイモバイルは、ソフトバンクの宮内謙社長が「楽天の動きを見て新料金プランを出す」と発言するなど、対抗意識をむき出しにしている。
ただ、料金だけでは楽天の魅力は乏しいといわざるを得ない。ワイモバイルなどが同水準の料金をぶつけてくれば、わざわざ楽天に乗り換える魅力は薄れる。インフラに実績があり全国の販売拠点も多い既存キャリアに対抗するのは難しい。
そこで楽天も「安さだけではない」と強調し始めた。そのひとつが完全仮想化ネットワークの特性を活かしたモバイルエッジコンピューティング(MEC)だという。クラウドサービスを提供するデータセンターよりも、ユーザーに近い場所(エッジ)にサーバーを置くのが特徴だ。
楽天は国内に4000のエッジサーバーを配置するとしており、ほとんど遅延のないサービス提供が可能になるという。具体的な例として大規模なオンラインゲームやストレージサービスを挙げている。
10月1日のサービス開始に向けて、まずはエリアや料金に関心が集まっているものの、その後に予定されている本格展開を見据えれば、楽天の自社回線にしかできないユニークな体験を提供できるかどうかが鍵になりそうだ。