2019年第3四半期決算で、Appleは1%の売上高増加を記録した。iPhoneの12%近くの売上高減少をカバーして、マイナスの期間を2四半期に抑えることができた立役者は、ウェアラブル・ホーム・その他の製品の製品部門だった。
サービスよりも驚異的な成長のウェアラブル
ウェアラブル・ホーム・その他の製品部門の売上高は55億2500万ドルで、前年同期から18億ドル増、率にして48%増となった。サービス部門の売上高は114億5500万ドルで12.6%増、金額にして13億ドルだったことから、サービスよりも多くの売上高の増加幅を記録したことがわかる。
ウェアラブル・ホーム・その他の製品部門には、Apple WatchやAirPods、Beats製品を含むウェアラブル製品、Apple TVやHomePodといったホーム製品、そしてApple Pencilやケースなどのアクセサリが含まれる。
電話会議に臨んだTim Cook CEOによると、この中で特に成長したのはウェアラブルデバイスだったそうだ。
Appleに限らず、決算時によく引き合いに出されるのが、米国の企業の年間売上高のランキングであるFortune 500リストだ。Appleは、ウェアラブルデバイスの売上高だけで、Fortune 200企業に相当する規模に成長したと指摘した。
Fortune 500リストの200位付近は、年間157億ドル前後の売り上げ規模に相当する。全米のデパートチェーンNordstromやNetflix、Texas Instruments、PayPal、そしてタイヤのGoodyearなどの大企業が並ぶ。テクノロジー株を一括りにした「FAANG」を構成するNetflixの規模になっているというのだ。
Apple Watchは新規ユーザーの流入が続く
Appleのウェアラブルデバイスは、基本的には「iPhoneユーザーのためのアクセサリ」という位置づけだ。Apple WatchはiPhoneがなければセットアップできないし、AirPodsは引き続き、iPhoneをはじめとしたApple製品で全ての機能を利用することができるよう設計されている。
Apple Watchは過去最高の売上高を記録し、75%が初めてApple Watchを購入したユーザーである、という数字が決算発表の電話会議で明かされた。この「75%」という数字にはさまざまな解釈を加えることができる。
まず、すでに25%のリピーターを抱えるようになった、ということだ。Apple Watch Series 4は、4年目にして初めてデザイン変更が加えられたが、引き続き四角い文字盤で2サイズ展開のスマートウォッチという特徴を維持している。
新デザインやSeries 3で強化されたセルラー通信機能など、Apple Watchの製品力が高まっていることも加味されるが、その一方で、高級機械式時計のように恒久的な価値を帯びるものとして設計されていない点もまた、改めて気づかされる。あくまで、その時々で買い替える前提の「アフォーダブルウォッチ」なのだ。
一方で、75%が依然として新規ユーザーとして購買してる点も注目だ。これは、iPhoneの遺産ともいうべきかもしれない。iPhoneのユーザーベースがApple Watchの潜在ユーザーであることから、まだApple Watchを持っていないiPhoneユーザーが、Apple Watchの売上の大部分を支えている状態が続いていることが分かるからだ。
AirPodsも売れ続けている
Appleは過去数期の決算で、「AirPodsの製造が需要に追いついていない」ことを明かしていた。つまり、作れば作るだけ売れていく状況がいまだに続いているという意味だ。
今回の決算ではそうした文言が聞かれなかったが、ウェアラブル部門の急成長は、Apple Watchの新規ユーザー流入に加えて、AirPodsの好調さが背景にあるのではないか、と考えている。
再びIDCのデータとなるが、2019年5月に発表した2018年第4四半期(2018年10~12月)のデータによると、Appleは1620万台のウェアラブルデバイスを出荷したと発表した。そのなかでApple Watchは1040万台だったとしており、残りの580万台がAirPodsとBeats製品だったことになる。
AirPodsは、2019年5月に新モデルが追加された。付属するケースはQiを用いたワイヤレス充電に対応し、またイヤホンに内蔵されるチップはワイヤレスチップのW1から、ヘッドフォンチップのH1に変更され、「Hey Siri」で音声アシスタントを起動できる機能が追加された。常時マイクをオンにしていてもこれまでとバッテリ消費が変わらないほど、効率がよくなったということだ。
AirPodsでHey Siriが利用できることが大きな訴求をするとは思えないが、2016年にAirPodsを使い始めたユーザーはすでに1年半が経過しており、毎日充電しながら利用するとバッテリーが劣化し始めるタイミングに差し掛かる。そうしたタイミングでの新製品投入は、リピーターを獲得する絶好のタイミングになる。
Apple WatchもAirPodsも、新規ユーザーは依然として旺盛な需要を発揮しているが、同時にすでに買い替え需要の対策に取り組んでおり、効果を上げ始めていることが分かる。
ホーム部門の成長はあるか?
ホーム部門は引き続き、Apple TVとHomePodが主力製品となる。HomePodは最新のiOSで日本語に対応し、間もなく日本で発売されると見込まれる。とはいえ、iPhoneとの結びつきがウェアラブルほど強くないことから、iPhoneユーザーを核とした急成長の恩恵を授かれずにいる。
米国ではApple TV channelsがスタートし、ケーブルテレビ契約をしなくても、スポーツやニュースなどのチャンネルが楽しめる環境が整備され、Apple TVの売上効果を発揮し始めることになるだろう。それを誘発する新製品の投入や既存製品の値下げも、9月に期待して良いのではないだろうか。
ただし、これは米国市場の話で、日本など米国外の国々で同様の戦略をとることは難しい。やはり、世界でほとんど同じ環境で利用されるiPhoneのユーザーを活用した方が、戦略として有効なのだ。
向こう数年の間に、iPhoneと組み合わせて利用する更なるウェアラブルデバイスの登場にユーザーとして期待しているが、Appleとしても「脱iPhoneの出口戦略」を、iPhoneユーザーを活用して考えていかなければならない局面に差し掛かっている。
著者プロフィール
松村太郎
1980年生まれのジャーナリスト・著者。慶應義塾大学政策・メディア研究科修士課程修了。慶應義塾大学SFC研究所上席所員(訪問)、キャスタリア株式会社取締役研究責任者、ビジネス・ブレークスルー大学講師。近著に「LinkedInスタートブック」(日経BP刊)、「スマートフォン新時代」(NTT出版刊)、「ソーシャルラーニング入門」(日経BP刊)など。Twitterアカウントは「@taromatsumura」。