乱立するスマートフォンのコード決済に対して、業界団体のキャッシュレス推進協議会が策定した統一コード「JPQR」が、8月1日から実店舗で利用可能になった。
総務省が実施する「JPQR普及事業」によるもので、岩手、長野、和歌山、福岡の各県で申請した店舗に対してJPQRのコードが配布され、実際の利用が始まった。
コード決済は、スマートフォンアプリでQRコードを表示し、店舗のレジで読み取る「CPM(利用者提示型)」と、店頭にQRコードを掲示し、それを利用客のスマートフォンアプリで読み取って支払いを行う「MPM(店舗掲示型)」の2つの方式がある。
コード決済の事業者が何社もサービスを提供しているが、それぞれのコードは独自のもので、特にMPM方式の場合、各サービスごとのQRコードを店頭に掲示する必要があった。
これを統一するのがJPQRで、店頭には1つのJPQRコードを掲示。利用客は使いたい決済アプリでコードを読み取れば、通常通り決済が行える。JPQRは、まずはMPM方式でスタートしており、対応店舗にはJPQRコードが一つ置かれ、その下に対応する決済サービスが表示される。
コード決済は、加盟店にかかる決済手数料が0~1.5%と安価に抑えられており、気軽にキャッシュレス決済に対応できる点がメリットだ。店舗側にとっては、複数サービスが混在し、使うアプリ、入金タイミングなどがバラバラになってしまうというデメリットはあるが、利用客にとっては複数サービスに対応してくれれば、自分の好きな決済サービスを利用できるというメリットがある。
JPQRに参画したのはOrigami、メルペイ、LINE Payなど7社。主力サービスのPayPayがMPM方式では参加していない点が難点ではあるが、主なサービス事業者が参加している。普及事業では、商工会議所や地元銀行が参加して、7社に一括で加盟店申請を行えるというメリットもあり、店舗の負担が軽減されている。
8月1日に取材したのは和歌山県。和歌山市の商工会議所によれば、6月以降に複数回にわたる店舗向け説明会を実施し、200店以上が申請を行って、8月1日時点では十数店舗が利用可能になっているようだ。
申請は一括で行えるが、加盟店審査はそれぞれのサービスが個別に行うため、審査が通るタイミングによって、8月1日に間に合わなかった店舗も多かったようだ。取材当日に書類が送られてきた、という店舗も見かけたので、今後順次店舗が拡大していくものと思われる。
MPM方式では、店頭のQRコードを利用客がスマートフォンで読み取り、合計金額を入力して支払いを実施。その画面を店員に見せることで決済を行われる。やや手順が必要だが、既存のレジを改修しなくても対応できるため、特に小規模店舗で有効だ。
日本には、利益率が低くギリギリの利益で商売をする個店も多く、そうした店舗ではキャッシュレス対応が遅れている。しかし、10月からは消費税増税が実施され、キャッシュレス決済へのポイント還元施策が行われる。
ポイント還元の対応店で購入すると、最大5%のポイントが政府から還元されるため、利用客にとっては、ポイント対応店でキャッシュレスで購入する動機が強まる。
ポイント還元には各店舗が申請を行う必要があるが、特にキャッシュレス非対応の小規模店ではそれに気付いていない例も多い。売上に直接響く可能性がある施策のため、店舗のキャッシュレス対応は急務だ。JPQRの加盟店申請では、各加盟店に対してポイント還元の申請も同時に行えるため、JPQRに対応すれば自動的にポイント還元にも対応できるというメリットがある。
6月22日に、和歌山県でJPQR普及事業のキックオフイベントが実施された当時、PayPayの営業担当者は「和歌山県は開拓の余地が大きい」とコメントしていたが、それから1カ月ほどの間に、宣言通りPayPayは急速に加盟店を拡大している。JPQRがスロースタートの中、PayPayがシェアを拡大しており、今後店舗によってはJPQRとPayPayのQRコードが掲示される、という状況になりそうだ。
とはいえ、国の目標はキャッシュレス決済対応店の拡大だ。JPQRでもPayPayでも、対応することが重要だ。過渡期とはいえ、いくつものQRコードがレジ前に並ぶ姿はあまり自然ではない。それがJPQRとPayPayの2つに絞れるだけでも有効な取り組みになるだろう。
JPQRに対応しても、急に店の売り上げが伸びるわけではないが、それでも対応しないことによる機会損失は、10月以降は特にありえる話であり、店舗側はまずは導入してもほとんど損のないコード決済への対応を進め、ポイント還元の申請を行っておくべきだろう。