Appleは7月31日、2019年第3四半期決算を発表した。売上高は538億ドルで前年同期比1%増となり、過去最高を記録。アナリストの予測を上回る結果となった。今回の決算はAppleにとって、昨今の売上高の下落傾向や、iPhone依存のビジネスの転機になる可能性がある。
iPhoneの売上高に占める比率が50%を割り込む
AppleはiPhoneの成長によって、世界最大の時価総額を誇る企業へと歩みを早めてきた。しかし2019年に入り、世界的なスマートフォン市場の低迷と高付加価値製品の不振によって、AppleのiPhoneビジネスは前年同期比で2桁のマイナスを続けている。
今回の2019年第3四半期決算でもその傾向は引き継がれており、iPhoneは259億8600万ドルと、前年同期比で11.8%減となった。
それでも、下落傾向は収まってきており、Tim Cook CEOは決算発表の電話会議で、Apple StoreでのiPhoneの下取りが昨年の5倍に増えたことを指摘。下取り金額の積み増しによって実質的な割引を提供する施策が成果を上げつつあることを示唆した。
Appleは2019年度の決算から、販売台数を公表しないことにした。スマートフォン市場の低迷が見えている中で、大きくなりようがない数字を公開するメリットが薄れた点がある。
調査会社のIDCによると、2019年第2四半期の世界のスマートフォン市場は3億3320万台で、2.3%の下落となった。Appleは3380万台と、販売台数の面では18.2%の下落だった。4位のXiaomiは3230万台で、ほぼAppleと同じ規模になっている。
販売台数の下落幅よりも売上高の下落幅が小さいことから、平均販売価格は上昇していると考えられる。
iPhoneの売上高の減少が続いているなかで、Apple全体の売上高に占めるiPhoneの割合は50%を割り込み、48%となった。50%を割り込んだのは、2012年第4四半期以来となる。 しかも、iPhoneの売上高が12%近く下落しながら、決算全体では1%の売上高増加に着地した。iPhoneの下落分を他の分野で穴埋めできた、ということを意味する。このことは、2019年第1・第2四半期とは異なる結果だった。
なにがiPhoneの穴を埋めたのか?
Appleの決算を見ると、実はiPhone以外のカテゴリは全て成長を遂げている。
Macの売上高は58億2000万ドルで、前年同期比で10.7%増。iPadは50億2300万ドルで8.4%増、ウェアラブル・ホーム・その他の製品は55億2500万ドルで、前年同期比ではなんと48%増を記録。サービス部門は114億5500万ドルで、前年同期比12.6%増となった。
各カテゴリの中で最大の売上高増加を実現したのは、ウェアラブル・ホーム・その他の製品部門で18億ドルだった。ウェアラブル部門については、次回の原稿で詳しく触れることにしたい。
MacとiPadはiPhoneに比べると、これまで必ずしも堅調な成長を続けてきた分野ではなかったが、顧客のニーズに合わせたラインナップの拡充を昨年から進めてきた。具体的には、まったくの新製品は出てこなかったものの、製品の位置付けや内部的な刷新、価格改定を行った大幅な「テコ入れ」で、売上高に顕著な上昇を与えたのだ。
Macについては、長らく放置されてきたMacBook AirとMac miniを2018年10月に刷新し、2018年5月にはiMacとMacBook Proが新しいプロセッサを搭載して刷新された。また、まだ発売されていないため今回の決算には含まれないが、7月にはMacBook AirとエントリーモデルのMacBook Proが再び刷新され、秋には高性能デスクトップのMac Proが登場する。
iPadシリーズは、2018年10月にTrueDepthカメラを搭載したiPad Proが登場したが、2019年5月にiPad mini、iPad AirがA12 Bionicチップを搭載して刷新となった。iPad Airは、10.5インチiPad Proのボディを使っているのでSmart Keyboardに対応するほか、すべてのiPadラインアップがApple Pencilをサポートすることになった。
細かい製品の刷新を通じて顧客のニーズに合わせながら、購入動機や買い替え動機を誘う製品を設定することにより、iPadとMacは8~11%の高成長を作り出すことに成功した。
あまりに頻度の高い刷新は買い控えを誘うこともあるが、AppleがiPhone以外の製品に対するコミットを示していくことは、プラットホームの信頼性やブランド力を高める面でも効果的に作用している、と考えられる。
秋にリリースされるiPadOS 13とmacOS Catalinaでは、「Project Catalyst」によりiPad/Macアプリの一体開発が可能となり、iPad向けに用意されているアプリがMac向けに登場する環境が整備される。加えて、iPadをMacの拡張ディスプレイとして利用できる「Sidecar」機能も追加される。
iPadとMacのアプリの統合は、アプリ数が大きく増加することが見込まれるMacにとって有利にも見える。だが、MacとiPadを行き来しながら、あるいは同時利用する環境も整備されることから、MacユーザーのiPad新規購入を誘うことにもつながるだろう。
(続く)
著者プロフィール
松村太郎
1980年生まれのジャーナリスト・著者。慶應義塾大学政策・メディア研究科修士課程修了。慶應義塾大学SFC研究所上席所員(訪問)、キャスタリア株式会社取締役研究責任者、ビジネス・ブレークスルー大学講師。近著に「LinkedInスタートブック」(日経BP刊)、「スマートフォン新時代」(NTT出版刊)、「ソーシャルラーニング入門」(日経BP刊)など。Twitterアカウントは「@taromatsumura」。