プロ・アマの製作者が自作した造形物「ガレージキット」を展示・販売する「ワンダーフェスティバル2019[夏]」が、2019年7月29日、千葉県・幕張メッセにおいて開催された。会場ではガレージキット制作に関連するツールの展示や、クリエイターによる講演なども行われて多くの来場者で賑わっていた。
ここでは、ワコムブース内の「デジタル原型ステージ」で行われた、福井信明氏による「空間支配!表現と方法の新体験、VRモデリングとZBrush・液タブとの連携」の模様をレポートしよう。
ZBrushと3Dプリンタで小型ジオラマを作る!
ステージに登壇したのは、『ZBrushCore超入門講座』などの著者で、Pixologic公認ZBrushCoreインストラクターも務めるイラストレーターの福井信明氏。ワンダーフェスティバル(通称:ワンフェス)では2017年より毎回ZBrushを使ったデジタル造形についての講演を行なっており、おなじみの顔となっている。
講演では、まずZBrush(およびその主要機能をリーズナブルな価格で使用できるZBrushCore)と3Dプリンタでデジタル造形を楽しむための基本的な手法が解説された。
福井氏によれば「ZBrushは非常にとっつきやすいソフトで、シンプルな機能だけでもある程度凝った造形物を作ることができる」とのこと。その一例として、廉価版のZBrushCoreでモデリングし、ミマキエンジニアリングのフルカラー3Dプリンタ「3DUJ-553」で出力したヴィネット(小型ジオラマ)が紹介された。同プリンタは透明インクを扱えるのが特徴。ヴィネットは半ば水没した部屋で読書するキャラクターをモチーフにしたもので、部屋を満たす水が透明インクで表現されていた。
福井氏はこのヴィネットの部屋を「ZBrushCoreのなかでも基本的な機能で作った」と語り、実際に会場に用意した端末で手順を説明した。
ポイントは、「積み木感覚で作業する」こと。ZBrushの特徴として「粘土をこねるようにモデリングできる」点がよく挙げられるが、積み木を積むように形を作ることもできる。福井氏は立方体を並べたり、積み重ねたり、複製して移動したり、厚みを変えたりしながら、あっという間に壁のベースを作成していった。
さらに、福井氏はZBrushCoreのダイナメッシュ機能を使いメッシュを細かく分けて質感を与えたり、オブジェクトを均等にコピーする機能を使ってレンガを作ったりしながら、漆喰が剥がれてレンガがのぞいているような壁や、ランダムな木目があしらわれた板の間などを表現。福井氏は「難しい機能を使わなくても、ほんのちょっと工夫するだけでモデルはより良くなる。まずはシンプルな機能を工夫して使って造形を楽しんでみて」とアドバイスした。
VRモデリングで仮想空間に「彫刻」
続いて、福井氏はVRヘッドセット「Oculus Rift S」とコントローラー「Oculus Touch」、VR造形ツール「Oculus Medium」を使い、仮想空間で彫刻するようにモデルを作るVRモデリングの実演を行なった。
VRモデリングの利点は、空間上の位置が直感的に把握しやすく、体を動かすことで視点を変えられるところ。そのため「くるくる手を動かすだけで一気に螺旋状のものを作ることができて、それがおもしろい」と福井氏は語った。
また、仮想空間上でモデルと自分の体を比較しやすいのもポイントとのこと。自分自身の手や腕を参考にしながらキャラクターの腕や指の長さを決めたり、耳や鼻などのパーツのサイズを調節したりできる。服なども仕立て屋気分で襟周りのサイズを決めていくことが可能。髪も、美容師のノリで造形したり整えたりしていくことができるそうだ。
さらに、目の前に等身大のキャラクターが見えているため空想力が働くのもメリットだという。福井氏は「自分の中で物語を描きながら、楽しくものづくりができる」と語りながら、即興でタコと格闘するキャラクターを造形していった。
ちなみにOculus Mediumは、モデリングしたものを3DCGソフトのファイル形式で書き出すことが可能。そのため、同ソフトでざっくりつくったモデルをZBrushで読み込み、より細かい作業が得意なワコムの液晶タブレットでディテールを仕上げて3Dプリンターで出力する、というような連携ができる。
実際にVRモデリングを利用して作成したクジラのフィギュアを紹介しながら、福井氏は「VRモデリングとZBrush、液タブ、3Dプリンタを連携することで、VR空間上で造形したものがそのまま形あるものとして具現化できるところにワクワクする。VRを生かせるかどうかは自分次第。手法として定着するまで様子見するのではなく、今から積極的に取り組んで先駆者になってみては」と締めくくった。