各流の能楽師らによって構成される能楽協会と日本能楽会は7月31日、東京2020 NIPPONフェスティバル共催プログラムとして、「東京オリンピック・パラリンピック能楽祭」を開催することを発表した。

12日間行われる公演では、視覚・聴覚障害者や訪日外国人、児童らも楽しめるよう、ICT(情報通信技術)も活用しつつ能楽の魅力を発信していくという。

  • 能楽協会と日本能楽会によって行われる「東京オリンピック・パラリンピック能楽祭」

オリンピックはスポーツの祭典であると同時に「文化の祭典」

1964年の東京オリンピック大会で10日間にわたって行われた「オリンピック能楽祭」が、56年の時を経て東京2020で再び開催される。能楽協会と日本能楽会は、過去に負けない規模の能楽祭を実現すべく、手を取り合って5年ほど前から能楽祭に向けて動きつつ、バリアフリー化などさまざまな試みを行ってきたという。

会見では、能楽作品のひとつである「船弁慶」の仕舞も行われ、厳粛とした空気の中、能の持つ幽玄の世界の一端を感じることができた。

  • 能面・能装束などをつけず、紋付き袴姿で見せ場の部分を舞う「仕舞(しまい)」

  • 「船弁慶」の一幕、平知盛の怨霊が源義経に襲いかかる場面を舞った観世銕之丞さん

能楽協会の観世銕之丞(かんぜ てつのじょう)理事長は「オリンピックはスポーツの祭典であると同時に、文化の祭典でもあります。普段ご覧にならない方や海外の方も能楽に触れられるよう、気持ちを込めてきました。日本のユニークな文化であるところの能、狂言を盛り上げて次の世代につなげていきたいと思います」と、オリンピック能楽祭への想いを語る。

  • 能楽協会理事長 九世 観世銕之丞さん(中央)

日本能楽会の粟谷能夫会長は「実は私も前回のオリンピックで楽屋働きとして参加しました。その当時は西洋文化が押し寄せており、日本文化が下火になっていましたが、オリンピックを機会に日本の文化を再発見しようという機運で、若いお客様がたくさんいました。今回も若い人にアピールしていかなければならないなと思います」と1964年大会を振り返った。

  • 日本能楽会 会長 粟谷能夫さん(中央)

12日間行われる「東京オリンピック・パラリンピック能楽祭」

「東京オリンピック・パラリンピック能楽祭」は、オリンピック期間である2020年7月27日~31日、8月3日~7日の10日間、パラリンピック期間である8月28日、9月4日の2日間、計12日間にわたって開催される予定。チケットの発売日や料金は2020年の年明けをめどに発表が行われるという。

会場は、各競技場からのアクセスも良好な国立能楽堂(東京都渋谷区千駄ヶ谷)。単独公演が多い能や狂言において、12日間にわたる連続公演は稀なケース。また、子どもたちに能の面白さや楽しみ、すごさを体験してもらうべく、実際に能面をつけて動いたり、楽器に触れて音を出してみたりするプログラムも予定しているとのこと。

東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会の古宮正章副事務総長は、「能、狂言の底流には平和や多様性、共生という、オリンピック・パラリンピック精神につながるものが入っていると理解しております。ぜひそういう面でも、世界に対して能や狂言の持つ精神を発信していただければと思っています」と挨拶を述べた。

  • 東京2020組織委員会 副事務総長 古宮正章さん

東京2020の開会式・閉会式のチーフ・エグゼクティブ・クリエーティブ・ディレクターという大役も務める野村萬斎さんは、「身体がいくつかあると大変楽だなといつも思いますけれども、お役目をたくさん頂戴しつつ、なんとか全部をこなせればと考えております。7月24日が開会式で、7月27日には三番叟の役を頂戴しました。第一日の大事な演目でございますので、いいスタートダッシュを切らせていただけるように、土日は休ませていただこうと思います」とコメント。

  • 東京2020開会式・閉会式の総合演出と能楽祭を掛け持つ野村萬斎さん

ICTを活用した新時代の能楽も実施

会見においては、能楽祭の発表とともに、能楽協会と富士通のパートナーシップ契約締結の報告も行われた。能楽協会と富士通は、ファンやチケット、会場へのアクセスを管理するシステム、デジタルマーケティングのほか、エンターテインメント性を高める新たな視聴体験やバリアフリー対応をICTによって提供。ICTを活用して能楽の魅力を国内外へ発信し、新たなファンの獲得を目指すという。

技術例として挙げられたのが、振動と光によって音を感じられるデバイス「Ontenna」と、超小型プロジェクタによって網膜に直接映像や英語字幕を投影する「RETISSA Display」だ。

  • 音の大きさに合わせてデバイスが光と振動を放つ「Ontenna」

  • レーザー光で網膜上をスキャンし網膜に直接映像を投影する「RETISSA Display」

7月31日、発表に先立って行われた「ESSENCE能~見どころ! ぎゅっと凝縮・能楽アンソロジー~」では、「Ontenna」を使ったバリアフリー対応の公演を実施。合わせて、解説時手話通訳や字幕配信、展示パンフレット、視覚障害者向け副音声や舞台触図、触ることのできる能面展示などが試みられた。

8月4日には「RETISSA Display」による多言語対応の公演も開催。東京2020大会ではさらなるICT活用を進め、多くの方に能楽の魅力を発信していく狙いだ。

  • 富士通株式会社 執行役員常務 阪井洋之さん

富士通の阪井洋之執行役員常務は「東京2020大会では国内外からたくさんの方が訪れます。この機会を活かし海外のお客様にも子どもたちにも能楽の魅力を感じていただければ。富士通はテクノロジーによってこれからも伝統芸能を支えてまいりたいと思います」とアピールした。

  • 握手を交わす観世銕之丞さんと阪井洋之さん