満員電車に慢性的な渋滞。大都会東京は、どこに行っても人で溢れかえっている。道路にクルマ、線路に電車となれば、残るは徒歩だろうか。とは言っても、これからの猛暑の中をビルに囲まれて歩き続けるのは確実につらい。

いつもの新橋駅。いざ銀座線に乗ると、京橋、日本橋と「橋」の付く駅が多いことに気付く。そう、江戸の街は運河で栄えた水運都市で、その名残で橋が付く地名が多いのだ。電車に揺られながら、ふと「昔みたいに水路を船で渡っていけたらいいのになぁ」なんて考えてしまう。

しかし、実はあるんですよ! その水路を利用したタクシーサービスが。

  • 電車もクルマも徒歩もしんどい! そんな我々が行き着いた先は「船」

都会の喧騒から船で逃亡

今回利用したのは、東京の河川で水上タクシーの運航を行っている「東京ウォータータクシー」。同社は、水上タクシー事業用に開発した専用の小型船を保有しており、そのコンパクトな船体を活かしてさまざまなサービスを提供している。

  • 船は定員6名と8名のものをラインアップ

例えば、都内10カ所を区間直行で結ぶ「タクシーサービス」もあれば、観光に特化した数種類の「おすすめツアー」、要望に沿ってコンシェルジュがさまざまな提案をしてくれる「カスタムメイドプラン」なども展開。

中でも、路線バスの水上タクシー版とも言える乗り合いの「ライドシェアサービス」は最もリーズナブル。田町・天王洲・朝潮(晴海)・日の出などを循環しており、お値段は1人あたり500円だという。1区間の所要時間は5~25分。ライドシェアサービスは原則Webからの予約となるが、空席があれば予約なしでも利用できるとのこと。

  • ライドシェアサービスの循環ルート昼の部は、日の出・田町・天王洲・ワールドシティタワーズ(品川)・朝潮をラウンド運航

  • ライドシェアサービスの循環ルート夜の部では、日の出・田町・天王洲・ワールドシティタワーズ(品川)・お台場をラウンド運航

今回は、田町から天王洲を経由して朝潮へ向かい、また田町へ戻るというライドシェアサービスの一部ルートを体験してみることに。ということで、編集担当のY氏とともに乗り場へ。

田町の乗り場は、JR田町駅からほど近い新芝運河沿いに位置している。普段は何気なく歩いている場所が船着場だったとは驚きだ。

  • 田町から水上タクシーに乗船するY氏

いざ乗り込んでみると、その快適さにもう一度びっくり。エアコン完備、トイレやコンセントも用意されており、大きな窓が開放的で気持ちいい。これはもはや住めるレベル。

カップホルダーや簡易テーブルも備えられている上に飲食物の持ち込みも可能なので、友人たちとの宴会はもちろん、船上ミーティングなどのビジネスユースや船上合コンなんかにも活用できてしまう。

  • シートの座り心地も◎

  • 長めの昼休憩をとってランチタイムの行列地獄を回避し、優雅な昼食でリフレッシュするのもアリ

腰に巻くタイプのライフジャケットを装着すれば、デッキに出てもOK。さらに、ポータブルスピーカーを持ち込んで音楽をかけることもできる。

「となれば聴きたくなるのは、長渕剛アニキの『Captain of the Ship』一択でしょう」と編集担当Y氏。「明日からお前が舵を取れ! 」と自分に言い聞かせ、今日のところは操縦スタッフの方にすべてを託す。ヨーソロー。

  • 水面が近く、なかなかのスピード感を味わえる。船は波の影響を受けづらいフォルムに設計されているようで、乗り心地も快適だ

  • 水門がものすごく間近に

  • 船には自転車も積み込めるらしいので、とことん電車から逃れたい方は予約の際に相談してみてほしい

そうこうしているうちに、船は田町から運河を通って天王洲へ。そして、レインボーブリッジを抜けて晴海方面へと向かう。いくつもの橋の下をくぐり、東京モノレールが頭上を走り、野鳥が飛び交う。東京の知られざる表情に思わず心惹かれてしまい、シャッターを切る手が止まらない。

  • 船溜まりの真上を東京モノレールが走る

  • 朝潮(晴海)の乗船場。トリトンスクエアや大江戸線の勝どき駅は徒歩圏内だ

夜のクルージングも東京ならではの魅力が

ライドシェアサービスは、平日は18:00~21:00、土日祝日は昼と夜ともに運航というスケジュールとなっている。また、タクシーサービスやカスタムメイドプランは平日・土日祝日ともに昼と夜に利用可能(月曜はすべて運休)。

ということは、朝の通勤にはまだ利用できないが、退勤には使えるのではないだろうか。ネオン煌めく東京の夜景を水上から眺めつつの帰宅もいいかもしれない。

  • 田町の乗船場は、夜間はライトアップされている

タクシーサービスやカスタムメイドプランなら貸し切りなので、同僚の女性に「よかったら一緒に帰らない? 船、予約してるんだけど」とバブリーな誘い文句をかますこともできちゃうというわけだ。取引先のお出迎えに利用するなんてのもいいだろう。

  • 同僚を誘うことに成功し、終始したり顔のY氏。カスタムメイドプランでは、お台場で屋形船に囲まれたり、巨大なガントリークレーンが動いている様子を見られたり、アトラクションのような楽しみ方もできる

  • 田町の船着場となっている運河沿いの遊歩道に「SHIBAURA CANAL CAFE」というオープンテラスを発見。せっかくなので1杯引っかけてから帰ることに。同店は、5月の連休明け~10月末までの間、月~金曜日とお祭りなどがある日のみ営業しているとのこと(雨天時は休業)

ちなみに気になるお値段は、タクシーサービスが1隻5,000円~(16:20以降は8,000円~)、カスタムメイドプランが1隻チャーター1時間3万円(30分ごとに1万円加算)。タクシーサービスを定員MAXの8人で利用すれば、日中なら割り勘で1人あたり600円ちょっと。スペシャル感のある移動が手頃に楽しめてしまう。

支払いは、事前のクレジットカード決済や指定口座への振り込みの他に、当日精算として各種交通系ICカードの利用といった選択肢も。

  • 運賃はSuicaやPASMOなどの電子マネーでも決済可能。船内に決済端末が備え付けられている

  • カスタムメイドプランの乗降場はこんなにたくさん!

同社は今回紹介したもののほかにも、船体にラッピング広告を施せるサービスや、ドローン撮影を含む空撮ワンストップサービスなど、さまざまな試みを展開している。

  • タクシーサービスでは、田町以外に日本橋や品川、築地なども利用可

2020年の東京オリンピック・パラリンピックに向けて、道路や鉄道などのインフラ整備が進む中、河川の活用の可能性も広がりを見せていくことが予想される。それによって、航路のパターンや各種プランなども随時アップデートされていくことだろう。

8月3日には、JR浜松駅から徒歩9分、ゆりかもめ日の出駅から徒歩4分の位置に、新しい小型船桟橋とターミナルも開業するという。ターミナルには、船の待合所や飲食店、イベント広場を備えた「Hi-NODE」なる施設もグランドオープン。同施設の公式Instagramアカウントをフォローすれば、ライドシェアサービスを1区間無料で利用できるそう。

  • 新たに整備された日の出の桟橋

  • 日の出ふ頭にオープンする「Hi-NODE」外観

正直なところ、毎日のように船を利用するのはコスト的にも時間的にもなかなか難しいかもしれない。しかし、たまの息抜きとして、景色をぼーっと眺めながらの贅沢な移動時間があってもいいはずだ。そして、そのぐらいの心の余裕はなくさずにいたい。

利便性だけではない魅力を持った水上タクシー。移動手段の選択肢のひとつに加えてみてはいかがだろうか。

※価格はすべて税込