7月の第4週が終わって、ようやく夏ドラマが出そろった。新作ドラマの初回視聴率では、『サイン―法医学者 柚木貴志の事件―』(テレビ朝日系)の14.3%、『監察医 朝顔』(フジテレビ系)の13.7%、『ノーサイド・ゲーム』(TBS系)の13.5%、『ボイス 110緊急指令室』(日本テレビ系)の12.6%、『Heaven? ~ご苦楽レストラン~』(TBS系)の10.8%、『凪のお暇』(TBS系)の10.3%、『偽装不倫』(日テレ系)の10.1%と7作が2桁を突破(すべてビデオリサーチ調べ・関東地区)。

録画視聴やネット視聴の多い現在では、2桁突破だけでも十分な結果と言えるが、視聴率と面白さは別問題。夏ドラマで本当に質が高くて、今後期待できるのはどの作品なのか? 今期もドラマ解説者の木村隆志が俳優名や視聴率など「業界のしがらみを無視」したガチンコで、2019年夏ドラマ16作の傾向とおすすめ作品を挙げていく。

2019年夏ドラマの主な傾向は、「[1]苦戦の夏、原作探しに奔走するドラマ班 [2]深夜ドラマへの熱量は増す一方」の2つ。

  • 『凪のお暇』(左から中村倫也、黒木華、高橋一生)

傾向[1] 苦戦の夏、原作探しに奔走するドラマ班

今夏最大の特徴は、「プライム帯の新作ドラマにオリジナルが0」であること。漫画が4作、小説が3作、韓流ドラマが3作、ノンフィクションが1作と、計11作すべてが“原作アリ”の作品となった。

これは在宅率が低く視聴率獲得が難しい夏という季節を踏まえた安全策だが、それにしても「オリジナル0」は過去に記憶にないほど異例の事態。漫画、小説、韓流、ノンフィクションとまんべんなく選ばれているところが、「各局のプロデューサーが、いかに原作となりうる質の高いコンテンツを探しているか」を象徴している。その意味では、“プロデューサーの目利き対決”と言えるかもしれない。

ちなみに過去の夏をさかのぼっていくと、昨年は4コマ漫画原作の『義母と娘のブルース』(TBS系)と韓流ドラマ原作の『グッド・ドクター』(フジ系)がヒット。2017年は一度完結したはずの『コード・ブルー ―ドクターヘリ緊急救命―』(フジ系)を復活させ、『黒革の手帖』(テレ朝系)を再びリメイクしてヒット。

2015年には池井戸潤の小説が原作の『花咲舞が黙ってない』(日テレ系)、2014年には13年ぶりに復活させた『HERO』(フジ系)、2013年には社会現象となった池井戸潤の小説が原作の『半沢直樹』(TBS系)、2012年には14年ぶりに復活させた『GTO』(フジ系)、2010年には漫画原作の続編『ホタルノヒカリ2』(日テレ系)が、それぞれ視聴率トップを獲得するなど、安全策で結果を得てきた歴史がある。

今年もその歴史を踏襲した戦略なのだろうが、民放各局がそろって原作探しばかりしていたら、オリジナルを制作するスキルが落ちてしまいかねない。各局1作は「結末が読めない」「原作の制約を受けない」などのメリットを持つオリジナルを手がけて、ドラマの多様性とクオリティを守っていきたいところだ。

  • 『べしゃり暮らし』(左から浅香航大、堀田真由、小芝風花、寺島進、渡辺大知、徳永えり、間宮祥太朗、駿河太郎、矢本悠馬、尾上寛之)

傾向[2] 深夜ドラマへの熱量は増す一方

プライム帯が無難な安全策ばかりになる一方、深夜帯のチャレンジはますます盛んになっている。

岡田惠和の『セミオトコ』(テレ朝系)、森下佳子の『だから私は推しました』(NHK)と、実績十分の大御所脚本家がオリジナルを手がけるほか、シングルマザー3人のヒューマンミステリー『わたし旦那をシェアしてた』(読売テレビ、日テレ系)も意欲十分のオリジナル。

さらに、ムロツヨシ、古田新太、田中圭がそろい踏みし、映画監督の内田英治が全話の脚本・演出を手掛ける『Iターン』(テレビ東京系)。劇団ひとりが連ドラ初演出に挑み、臨場感たっぷりの漫才シーンを連発する『べしゃり暮らし』(テレ朝系)。

いずれも、作り手のこだわりが随所に感じられるなど、夏らしい熱量が伝わってくる上に中毒性が高い。昨年大ヒットし、まもなく映画版が公開される『おっさんずラブ』(テレ朝系)の再来を狙っているのだろう。前期も深夜帯の『きのう何食べた?』(テレ東)が熱量たっぷりの制作スタンスで、プライム帯の作品を差し置いて最大の話題作となっただけに、二期連続のヒットドラマが誕生しても驚かない。

  • 『監察医 朝顔』(前列左から山口智子、上野樹里、時任三郎、後列左から平岩紙、板尾創路、中尾明慶)

  • 『ルパンの娘』(前列左から瀬戸康史、深田恭子、渡部篤郎、後列左から栗原類、小沢真珠、大貫勇輔)


これらの傾向を踏まえた今クールのおすすめは、『だから私は推しました』。アラサーOLと地下アイドルをシンクロさせた脚本から、ミステリー仕立ての演出、アイドルユニットのディテールまで、「今最もエネルギッシュなドラマ枠」と言える“よるドラ”らしい挑戦的な姿勢が光る。

「制作現場の熱さ」という点では、『べしゃり暮らし』も負けていない。劇団ひとりが手がける漫才シーンは、まるで若手芸人を見るような勢いと粗さがあり、漫画原作らしい善悪の輪郭が立ったキャラ設定も効いている。

その他のおすすめは、夏休みの時期にぴったりなテーマとムードに、魅力的なキャストをなじませた『凪のお暇』。原作漫画に重さを加えた改編に覚悟を感じる『監察医 朝顔』。振り切ったコメディながらスタイリッシュな映像美を併せ持つ『ルパンの娘』の3作。

「視聴率や先入観だけで判断して見ない」というのはもったいないだけに、TVerや各局のオンデマンドなどで、チェックしてみてはいかがだろうか。

【おすすめ5作】
No.1 だから私は推しました(NHK 土曜23時30分)
No.2 べしゃり暮らし(テレ朝系 土曜23時15分)
No.3 凪のお暇(TBS系 金曜22時)
No.4 監察医 朝顔(フジ系 月曜21時)
No.5 ルパンの娘(フジ系 木曜22時)

■著者プロフィール
木村隆志
コラムニスト、芸能・テレビ・ドラマ解説者、タレントインタビュアー。雑誌やウェブに月20~25本のコラムを提供するほか、『週刊フジテレビ批評』などの批評番組にも出演。取材歴2000人超のタレント専門インタビュアーでもある。1日のテレビ視聴は20時間(同時視聴含む)を超え、ドラマも毎クール全作品を視聴。著書に『トップ・インタビュアーの「聴き技」84』など。