外為どっとコム総合研究所の神田卓也氏が2019年7月の為替相場レビューと、今後注目の経済指標やイベントをもとにした今後の相場展望をお届けする。

【ユーロ/円 7月の推移】

7月のユーロ/円相場は120.049~123.349円のレンジで推移し、月間の終値ベースでは約1.8%下落(ユーロ安・円高)した。6月末の米中首脳会談で通商協議の再開に合意したことを受けて123.30円台に上昇してスタートしたが、その後は失速。ユーロ圏の景気が冴えない中、欧州中銀(ECB)が早期に金融緩和へ踏み切るとの見方が広がった。10月末に任期が切れるドラギECB総裁の後任に、タカ派のバイトマン独連銀総裁ではなくラガルド国際通貨基金(IMF)専務理事が内定したことなどもユーロの重しとなった模様。

25日にECBがフォワードガイダンスを修正するなどして将来的な利下げに向けた地ならしに動くと120.00円台まで下落し、1月3日以来の安値を付けた。その後、ひとまずユーロを買い戻す動きも見られたが、31日の米連邦公開市場委員会(FOMC)後に再びユーロ売りが強まった。FOMCは予想通りの利下げを行い、追加利下げに前向きな見方を示さなかった。このためドル買いが強まり、ユーロ/ドルが下落したことからユーロ/円も反落した。

【ユーロ/円 8月の見通し】

7月25日の欧州中銀(ECB)理事会は、積極的な金融緩和を期待した向きにとってやや失望的な結果となった。ECBは、政策金利に関するフォワードガイダンス(先行きの指針)を「2020年半ばまで、現行水準『もしくはそれを下回る水準』にする」として利下げ含みに修正したが、ドラギ総裁は理事会後の会見で「リセッション(景気後退)リスクは依然として『かなり』低い」と述べ、「本日は利下げの議論はなかった」ことも明らかにした。

次回9月理事会での緩和観測は根強いものの、政策金利(預金ファシリティ金利)は既に-0.40%となっており、副作用などの観点から引き下げ余地は乏しい。10月末に予定される英国の欧州連合(EU)離脱=Brexitの影響を睨んで、できれば緩和を温存したいというのがECBの本音だろう。

また、10月末に退任を控えたドラギ総裁がどこまで大規模な緩和に踏み込めるかは不透明だ。中核国であるドイツの景気が一段と冷え込むようなら、緩和観測が再燃してユーロ売り・円買いが活発になる可能性もあるが、そうでなければ一段のユーロ安・円高は見込みにくい。そうした中、8月のユーロ/円は方向感が出にくい相場展開となりそうだ。

【8月のユーロ圏注目イベント】

執筆者プロフィール : 神田 卓也(かんだ たくや)

株式会社外為どっとコム総合研究所 取締役調査部長。1991年9月、4年半の証券会社勤務を経て株式会社メイタン・トラディションに入社。為替(ドル/円スポットデスク)を皮切りに、資金(デポジット)、金利デリバティブ等、各種金融商品の国際取引仲介業務を担当。その後、2009年7月に外為どっとコム総合研究所の創業に参画し、為替相場・市場の調査に携わる。2011年12月より現職。現在、個人FX投資家に向けた為替情報の配信(デイリーレポート『外為トゥデイ』など)を主業務とする傍ら、相場動向などについて、WEB・新聞・雑誌・テレビ等にコメントを発信。Twitterアカウント:@kandaTakuya