新入社員に仕事を教えていたら、「一応わかりました」「はい、一応は」「一応終わりました」って、一応を連発。結局、ちゃんと理解していないってことかな……。そこで今回は、「一応」の意味と正しい使い方について解説します。
一応の意味
一応は、本来「一往」と書きます。そのため、辞書で引いてみると「一応/一往」と表示されており、「一回」「一度行くこと」という意味も記載されています。
しかしながら、今ではすっかり一応の方を使用するのが一般的となり、「十分ではないが、ひととおり」「ひとまず」「ほぼそのとおりと思われるが、念のために」といった意味合いで用いられています。
一応の使い方と例文
では、具体的にどんな状況で使う言葉なのか、例文とともに見ていきましょう。
「十分ではないが、ひととおり」「ひとまず」の意味で
一応は、「十分であるとは言えないものの、ひととおりのことはやった」「万全ではないが、最低限の条件は満たしてはいるので大丈夫だろう」という状況で用います。
- 一応の決着がついた。
- 一応、人数分の食材は用意できました。
- 引き続き原因解明の調査は必要だが、一応の解決は図られた。
- 一応本人から事情は聴いたが、直属の上司であるきみの意見も聴いておきたい。
「念のために」という意味で
一応は、「念のために」という意味でも用いられます。「ほぼそのとおり(それでいい)と思われるが、念のために○○しておきたい」という状況で、「一応電話してみます」「一応確認取ります」といった使い方をします。
- 一応、傘持って行ったら?
- 資料が完成したから、誤字脱字がないか一応チェックしてくれ。
- 熱はないけど、一応病院に連れていきましょう。
いずれの例文からも分かるように、一応は、多少の不安が残る状況で用いるものになります。
「一応、人数分の食材は用意できました」という言葉の裏には、(もし失敗したり、お客様が増えたりすると足りなくなるかもしれません)という意味が、「一応、傘持って行ったら?」の裏には、(もしかしたら雨が降るかもよ)という意味が含まれていると考えられます。
「食材は十分にあります」「必ず雨が降るから、傘を持って行って」とは断言できない、非常に曖昧な表現であることを覚えておきましょう。
一応を使用する際の注意点と敬語表現
先述のとおり、一応は非常に曖昧な表現であり、「一応完成したので」「一応準備はしたのですが」などと発言すると、相手に「いい加減」な印象を与えかねません。
また、「一応再チェックしてください」「一応本当に予約取れているか確認して」という使い方をする場合には、相手のことを「信用していない」というニュアンスが含まれてしまいます。
そのため、特に、上司や取引先など目上の人に対して用いるのは不適切とされています。
一応の敬語表現
実は、一応には敬語表現は存在しません。目上の人に対して「一応」を用いる場合には、その意味にもある通り「念のため」や「ひととおり」を用いると良いでしょう。
例えば、お客様に契約書を記入してもらった場面で
- 誤りがないか、一応確認させていただきます。
- 誤りがないか、念のため確認させていただきます。
この場合、後者の方が「間違いはないとは思うけれども、万が一のために」というニュアンスが感じられますし、良い印象を持たれるのではないでしょうか。
また、復旧作業が完了したことを上司に報告する場面で
- 一応、復旧作業は終わりました。
- ひととおり、復旧作業は終わりました。
「一応終わった」と言われると、何だか「いい加減さ」が感じられますが、「ひととおり」は始めから終わりまでを表す言葉であることから、いい加減さが和らぐように思います。
また、「念のため」や「ひととおり」自体は敬語表現ではありません。そのため、その後に続く文章で敬語を表現する必要があります。親しい間柄の人には「一応」を用いた文章を、目上の人に対しては「念のため」を用いて敬語表現にした文章を作成すると、こうなります。
- 一応、傘持って行ったら?
- 念のため、傘をお持ちになってください。
- 資料が完成したから、一応チェックしてほしいんだけど。
- 資料が完成しましたので、念のため、目を通していただけますか。
いかがでしょうか。こうして比べてみると、ちょっとした言葉の選び方で、相手に与える印象が左右されるのが分かると思います。ビジネスシーンでは、言葉を正しく選ぶよう心がけましょう。
一応と「一様」の違い
一応は【いちおう】と読むのに対し、「一様」は【いちよう】と読みます。漢字にしろ平仮名にしろ、文字で表す分には違いは明確ですが、口頭では聞き分けることが難しいことから、「一応」と「一様」が同じ言葉であると混同している人も多いようです。
ここで、両者の違いを明確にしておきましょう。
一様とは、「全部同じようすであること」「ありふれていること」という意味で、たとえば、「皆一様にうなずいた」「彼は一様の選手ではない」といった使い方をします。
まれに、「一様確認してみます」「一様、終わりました」という使い方をしている人もいるようですが、これは誤用になりますので注意しましょう。
使わないほうが良い曖昧表現
一応のほかにも、曖昧な表現は多数存在しますが、ビジネスに迷いや誤解が生じることもあるため、ビジネスシーンでは使わない方が良いとされています。
例えば、災害が起きた場合に他県に応援を要請したとします。これに対し、「一応応援を出します」と言われると、形式だけの返答に聞こえますし、「可能な限り(できるだけ)応援を出します」と言われても、「それって何人?」と思いませんか?
また、商品のPRなどで、「このドリンクを1カ月飲み続けたところ、一定の効果がみられました」といったフレーズを耳にすることがありますが、「一定の効果」も非常に曖昧でズルい表現と言えます。どんな効果がどのくらいあったのか、具体的な数値で示してもらいたいところですね。
さらに、時間に関連した曖昧表現としては、「しばらくの間お休みします」「いつもより早めに集合してください」などが挙げられます。しばらくって、1週間? それとも1カ月? 早目にって10分くらい? それとも30分? と迷うところでしょう。
「一応」だけでなく、「そこそこ」「少々」「多少」「かなり」など、自分でも気付かないうちに曖昧な表現を多用している人も多いでしょう。
結果や予定を断言せずにぼかすことができる便利な表現ですが、その分、相手に適当な印象を持たれてしまう言葉でもあります。信頼関係が重要なビジネスシーンではもちろんのこと、日常でも必要以上に多用することのないよう注意しましょう。