ソフトバンクが、夏の音楽フェス「FUJI ROCK FESTIVAL 2019」の会場で5G通信を活用した「5Gプレサービス」を実施した。フェス期間中、5Gを使って会場内のライブカメラ映像を配信したり、VRを使って東京・六本木と会場内を接続する試みが行われた。今後も、同様のプレサービスを実施し、来年(2020年)の本サービス開始を前にノウハウを蓄積していく。
次世代のモバイル通信として開発が進められる5Gは、海外では一部で本サービスが開始されているが、日本では2020年の東京五輪に合わせて本サービスがスタートすることが計画されている。それを前に、携帯各社は5Gの実証実験を開始しており、今回ソフトバンクが実施したのは「5Gプレサービス」と位置づけられる。
ソフトバンクによれば、今回の実証実験は「不特定多数が5Gを利用できるサービス」。これまでは、限られた人にのみ一時的に公開してきた5Gの実証実験だが、不特定多数に提供することで「プレサービス」としているそうだ。
今回のサービスでは、会場内の各ステージ付近に設置した8台のカメラ(取材時は接近する台風の影響を考慮して1台を取り除いたため、7台のカメラ)からの映像を、5Gスマートフォンが受信して、それをコンテンツサーバーからインターネット経由で配信するというもの。入場ゲートから近いソフトバンクブースにモニターを設置し、来場者がステージの混雑状況を確認できる仕組みを構築した。
カメラからコンテンツサーバーまで有線で映像を伝送し、それを5Gスマートフォンから5G用移動基地局に向けて、5G電波を使って伝送。基地局からは有線でインターネットを経由して伝送する、という仕組みだ。5Gの電波自体は、基地局との距離に応じて数m~200mほどと、それほど遠距離の伝送は行っていない。
とはいえ、新潟県・苗場にあるFUJI ROCK FESTIVALの会場は山間部で、森と山に囲まれながら大量の人が行き交うという特殊な環境。そういった場所で5Gのテストが行えるのは、ノウハウの蓄積に重要だという。
インターネット経由で別のコンテンツサーバーに配信された映像は、会場内でほぼリアルタイムでモニター側に表示。さらにFUJI ROCK FESTIVALの公式アプリ上では、静止画としても確認できるようになっていた。実際、来場者がモニターを確認して、お目当てらしきステージが「まだ空いている」と確認している声が聞こえて、一定の役割は果たしていたようだ。
もう一つが、ソフトバンクブースで実施されたVRコンテンツ「FUJI ROCK’19 EXPerience by SoftBank 5G」。これは、YouTubeで配信されていたライブ映像を、会場内のVRヘッドセットで受信して視聴しつつ、自身をアバターとして会場でライブを体験しているようなコンテンツを提供するというもの。
東京・六本木で開催の「テレビ朝日・六本木ヒルズ夏祭り SUMMER STATION」でも同じコンテンツが提供され、苗場と六本木でVRを体験しているユーザー同士がアバターと音声で交流する、といったことも可能になっていた。
ブースには5Gスマートフォンが設置されていて、PCと接続してUSBテザリング。5G基地局から受信した映像を、PCからWi-Fiルーター経由でVRヘッドセットに配信する仕組みとなっていた。USBテザリングとPCを用いたのは、最も安定性が高かったからだという。
試用したところ、配信は安定しており、YouTubeのライブ映像を受信しつつ、六本木から接続したアバターと「ハイタッチ」ができるほどの低遅延で、なかなか面白い体験。オリジナルTシャツを配布するということもあって、1日100人以上が参加していたそうだ。実際の利用者からは好評のようで、「実際にフェスは行きたいけど、海外などどうしても行けないフェスで利用してみたい」という声も聞かれた。
今回のプレサービスは、総務省による5G周波数帯の割り当て以前から企画されていたものだ。よって、ソフトバンクに対して正式サービス用に割り当てられた周波数帯とは異なり、3.7~3.8GHz帯を利用。さらに700MHz帯のLTEをアンカーバンドとして組み合わせるという、NSAでのプレサービスとなっていた。スマートフォンはソニーとシャープのテスト端末で、通信速度などのスペックは非公表だったが、「理論値通りの数字は出ている」そうだ。
5Gは高速・大容量・低遅延といった特徴を備える次世代通信だが、単にそうしたスペックにとどまらず、「5Gでライフスタイルをアップデートする。をテーマにサービスを提供したい」とソフトバンクは語り、今後も随時プレサービスを提供しながら、2020年の本サービスに向けて準備を進めていく考えだ。