東京2020オリンピックのメダルをデザインした川西純市さんが、7月25日に都内で会見を行なった。公表されたメダルデザインのテーマは「光の環 - Myriad Circle - 」。会見では、メダルデザインのエピソードやデザインに込めた想いが川西さん自身の口から語られるとともに、リボンやケースのデザインについても説明が行われた。

  • メダルデザイン記者会見の場には、(左から)東京2020大会入賞メダルデザインコンペティション審査会座長・宮田亮平氏、東京2020オリンピックメダルデザイナー・川西純市氏、東京2020組織委員会副事務総長・古宮正章氏らが登壇

421作品の中から選ばれた川西さんのデザイン

2020年東京オリンピック開幕のちょうど1年前にあたる7月24日、東京2020大会入賞メダルデザイン審査会は、東京2020オリンピック入賞メダルのデザインを発表した。審査会は、著名なメダリスト、デザイナー、アートディレクター、弁護士ら11名および造幣局のオブザーバー2名の計13名で構成されている。

  • 東京2020大会入賞メダルデザイン記者会見の様子

  • 発表された東京2020大会入賞メダルデザイン

金属の立体造形の専門家として審査会座長を務める宮田亮平氏は、デザイン公募において「平面造形だけではなく、立体造形の制作実績を有するデザイナーやそれを志す学生」を求めたと説明。

2017年12年には421作品がエントリーされ、そのうち平面デザインの提出を求められたのが214作品。一次審査で3作品に絞られ、立体デザインを評価する二次審査で川西さんの作品が選出された。

宮田氏は川西さんの作品を「どんな角度から見ても、確実にその輝きが感じられるような多面性のある造形」と評価した。

  • 川西さんの作品について語る宮田亮平氏

通知電話に「酔いがさめてしまった」川西さん

川西純市さんは、大阪芸術大学出身のサインデザイナー。「サイン」とは、駅や病院の案内標識や案内図、店舗の看板やトイレのマークなど、人々の生活に必要な情報を具体的で分かりやすい造形で示したものを指す。

デザイン事務所「SIGNSPLAN」の代表として、公共空間や医療機関、オフィスや商業施設等のサイン計画、空間デザインを手掛けてきた川西さん。公益社団法人日本サインデザイン協会(SDA)の常任理事や、大阪デザイン団体連合(USD-O)の理事も務めており、まさにサインデザインの専門家と言える。

2018年の夏にメダルデザイン採用の通知電話が入った際は、審査の期間を忘れていて、くつろいでお酒を飲んでいたそう。川西さんは「電話が来てまったく酔いがさめてしまいました。応募できるだけでもありがたいなと感じていましたし、たくさんの人が応募しているし無理だろうなと思っていたので」とその驚きと喜びを笑顔で語った。

  • デザイン採用の通知電話を振り返り笑顔を見せた川西さん

応援や想いを“光”として表現

川西さんは「光と輝き」「アスリートのエネルギー」「多様性と調和」の3つをメダルデザインの要素として挙げ、この3つの要素が1つになって“光の環”というコンセプトを作ると述べる。

「最初は平面上でスケッチを描いて考えていまして、月桂樹の葉の形をぐるっと回してみたり、アスリートの努力をダイヤモンドの原石と捉えたり色々しているうちに、だんだん手をつなぎ合っているような形が出来てきて、1つのサークルのようなものが自然に浮かび上がってきたんです」

こうして、地球という1つの円の中心にロゴマークが入り、その周りの様々な方向から光を受けるというデザインが作成された。この光は、様々な人の応援や想いを表しているという。アスリートがメダルを持った時、光が反射して色々な方向に散らばっていき、その光が誰にでも届くことを想定してデザインしたそうだ。

  • 光の環をデザインしたメダルと川西さん

また、宮田氏は今回のメダルを「川西さんのデザインのすばらしさも含め、これは単なるメダルではなく、芸術品、工芸品の趣がある」と表現。放置しておくと黒くくすんでしまう銀と銅には「古美」があり、逆に輝きが保たれる金メダルの表面は異なる“荒らし”を加えて美しさを表したと述べ、「このような世界観を持てる日本人のすばらしさがこのメダルの中に含まれている」と説明した。

リボンデザインとケースデザインにもこだわり

メダルデザインの発表に合わせて、メダルのリボンデザインとケースデザインも発表された。

リボンには再生ポリエステル素材を使用。藍(あい)と紅(くれない)の2色を用い、日本らしい市松模様を表現した東京2020大会のコアグラフィックをあしらった。祝祭感とともに多様性と調和を表しているという。またリボンの裏面にはシリコンで凸加工が施されており、金は1つ、銀は2つ、銅は3つがプリントされ、触るだけでメダルの種類が分かるそうだ。

  • リボンも日本らしい色と模様で彩っている

  • リボン裏面のシリコンの凸加工でメダルの種類が分かる

ケースには国産のタモ材を使用し、木目を活かして藍色で塗装され、すべて日本の工芸技術を用いて手作業で作られている。中心にはくぼみがあり、リボンをつけたままきれいに収納可能。また、蓋には磁石が内蔵されており、蓋を開いた状態でもメダルを飾ることが可能だという。さらに選手が講演などに持ち運びやすいよう、外箱と巾着袋も用意されている。

  • 蓋を開いた状態で飾って置けるメダルケース

  • メダルの裏側にはリボンを収納できるくぼみも

東京2020オリンピック入賞メダルは、「都市鉱山からつくる! みんなのメダルプロジェクト」で集められたリサイクル金属によって作られている。まさに、国民が協力して作り上げたメダルと言えるだろう。

2020年東京オリンピック開幕まで残り1年を切り、メダルデザインが発表され、ついに世紀の祭典の開催が現実味を帯びてきた。