不当労働や個人情報の流失、不正販売など、企業の不祥事は頻繁にニュースをにぎわせています。今回は、企業経営を健全化するための「コーポレート・ガバナンス」について解説していきます。

  • コーポレート・ガバナンスの意味や、コンプライアンスとの違いを理解していますか?(写真:マイナビニュース)

    コーポレート・ガバナンスの意味や、コンプライアンスとの違いを理解していますか?

コーポレート・ガバナンスの意味

コーポレート・ガバナンス【Corporate Governance】とは、企業を健全に管理することです。

どんなに立派な理念やルール・組織・制度をつくったとしても、実体が伴っていなければ意味がありません。特定のステークホルダーに偏った意思決定や不正行為がおこなわれないように、企業活動をきちんとコントロールする体系がコーポレート・ガバナンスです。

コーポレート・ガバナンスが注目される背景

もともと「ガバナンス」は国の統治を指す言葉でしたが、巨大化・多国籍化が進んだ企業に対しても、コーポレート・ガバナンスが求められるようになりました。

そのきっかけは、1960年代のアメリカにまでさかのぼります。工場からの排気・排液による深刻な公害。製品設計ミスによる死亡事故。雇用時の人種差別など、非倫理的な事態が次々と明らかになり、企業にも適切な統治が必要だといわれるようになったのです。

さらに1980年代からは、粉飾決算などの不正によって利益を損なう投資家からも、透明性の高い企業経営が要求されるようになりました。

日本においても1990年代のバブル崩壊以降、不正な会計処理・ずさんな品質チェック・違法な労働などの不祥事が続いています。

こうした事態の発生は、顧客や取引先・従業員・投資家・地域社会などのあらゆるステークホルダーの信頼を損ないます。不祥事から倒産に至るケースも珍しくありません。

こうした背景のもと、コーポレート・ガバナンスが改めて注目されるようになったのです。

コーポレート・ガバナンスとコンプライアンスの違い

コーポレート・ガバナンスには幾つかの似たような概念・用語があります。「コンプライアンス」もそのひとつです。

コンプライアンスはビジネス用語としては「法令遵守」と訳されます。この法令には、法律や省令だけでなく、倫理や道徳・マナーといった社会規範も含まれます。

企業の外側にあるさまざまなルールに従うことがコンプライアンス。実際にルールを守るために管理体制を運用していくことがコーポレート・ガバナンス。両者はこのように区別できます。

コーポレート・ガバナンスと内部統制の違い

「内部統制」とは、業務の適正化や財務報告の信頼性を高めるための仕組みづくりのことです。業務のマニュアル化や社員教育システムの整備、リスクマネジメントの実施などが内部統制に当たります。

一方、コーポレート・ガバナンスはもっと包括的です。例えば、内部統制が健全に機能しているかどうか、外部有識者などの第三者視点でモニタリングする「監査」もコーポレート・ガバナンスです。

企業に関わる多様なステークホルダーを保護する概念がコーポレート・ガバナンスなのです。

コーポレート・ガバナンスの目的

企業不祥事を防ぐことがコーポレート・ガバナンスの狙いですが、昨今は経営を健全化することによって、企業の社会的価値・投資的価値を向上させるという「攻めのコーポレート・ガバナンス」へと目的が進歩しています。

多様なステークホルダーの要求をバランスよく満たすことは困難な挑戦ですが、「この企業は社会の発展に貢献している」と認められることは、長期的な企業価値向上に大きな役割を果たすのです。

コーポレート・ガバナンスのメリット

コーポレート・ガバナンスが弱い企業では、例えばどのようなことが起こるでしょうか。 経営者が不必要にぜいたくな本社ビルを建てるかもしれません。自分の好きな事業に過剰な投資をするかもしれません。会社にはさまざまなステークホルダーが関わっているにもかかわらず、自分だけの利益を追求してしまうおそれがあるのです。

経営者の暴走を防ぎ、顧客・取引先・従業員・投資家など、他のステークホルダーの利益が守られることがコーポレート・ガバナンスのメリットのひ一つです。

コーポレート・ガバナンスの強化方法

日本では金融庁と東京証券取引所が「コーポレートガバナンス・コード」を取りまとめ、「株主の権利・平等性の確保」や「株主以外のステークホルダーとの適切な協働」「適切な情報開示と透明性の確保」といった各テーマの指針を示しています。

具体的にコーポレート・ガバナンスを強化する方法としては、コンプライアンス強化や内部統制のシステム化、社外取締役や社外監査役の設置、執行役員制度の導入などがあります。株主総会による経営者の解任や損害賠償請求などもガバナンスを強化する仕組みの一部です。

コーポレート・ガバナンスの企業事例

トヨタのコーポレート・ガバナンスの一端を見てみましょう。

同社はまず、「意思決定・監督」役としての取締役と、「業務執行」役としての執行役員を明確に切り分けています。そして社外監査役3人を含む監査役会によるモニタリングや、「サステナビリティ会議」においてガバナンス体制そのものを審議しています。

また、海外有識者による「インターナショナル・アドバイザリー・ボード」や、「労使協議会・労使懇談会」などの各種協議会を通じて、さまざまなステークホルダーの視点から意見聴取・モニタリング・審議が行われています。