金融庁は、ここ数年「貯蓄から投資へ」を掲げNISAやつみたてNISAといった制度を導入してきました。しかし2018年12月末時点での口座数は合わせて約1254万口座。保有は20歳以上で1人1口座ですから、口座開設率は約12%ということになります。

貯蓄から投資が進まない理由のひとつは、多くの人が“投資をすると損しそう”という疑念を持っているからではないでしょうか。そんな気持ちを解消すべく金融庁が策定したのが『顧客本位の業務運営に関する原則』でした。どんなものなのか詳しく見ていきましょう。

投資信託で運用をしている人の半分近くは損している

金融審議会の「老後資金は約2000万円不足する」という報告書が物議をかもし、国会からワイドショー、ネットニュースまで大騒動になりました。

そもそも、この報告書の趣旨は「高齢社会における資産形成・管理」で、年金だけでは生活するのが厳しいことを伝えようとしているわけではありません。預金金利が限りなく0%近い状態を続けている中、NISAやiDeCoといった有利な制度を使って老後のお金を自分で増やすことのススメを説いているのです。

「貯蓄から投資へ」の動きが進まない理由のひとつに、金融商品の売り方への不信感があるといわれます。金融庁がそんな声を受けて2017年3月に制定したのが「顧客本位の業務運営に関する原則」です。

これを定着させるために「投資信託の販売会社における比較可能な共通KPI(重要業績評価指標)」として3つの指標を示し、投資信託の販売会社が自社の数値を公表することを要請。2018年12月末から公表されることになりました。

それをもとに2019年5月8日に金融庁が発表した公表状況によると、なんと証券(対面)会社の50%、主要行などの41%の顧客の損益はマイナス(下図)。

数値を公表した117社の合算ベースで46%の顧客の運用損益率がマイナスという事実がわかりました。まさに“投資をすると損をしそう”という多くの人の気持ちを裏付ける結果になったのです。

そんな中で91%の顧客が利益を出しているのが、投資信託を個人に直接販売する独立系の投信運用会社。投資信託は投資家から集めたお金を運用する会社(=投信運用会社)と、投資信託の販売をする会社(=証券会社や銀行など)が分かれているのが一般的です。

しかし独立系の投信運用会社は、運用する会社が直接個人に販売するため運用方針などについて積極的に情報発信をし、投資方法についても長期の積立投資を勧めているためこのような結果になったようです。

「顧客本位の業務運営」をしているかどうかがわかる?!

金融庁が公表を促している「投資信託の販売会社における比較可能な共通KPI(重要業績評価指標)」は、以下の3項目。

簡単にいうと①は顧客が保有している投信について、購入時以降どれくらいのリターンを得ているかという顧客数の比率。②③は設定後5年以降で預かり残高上位20銘柄についてコストとリターン、リスクとリターンの関係を示すことで、中長期的にどのような実績を持つ商品を顧客に多く提供してきたかがわかる情報です。

もちろん、これだけで金融機関の投資信託に対する営業姿勢がわかるわけではありませんが、これまで全く公開されなかったことから考えれば“見える化”の一歩といえます。

ただし、近年問われるようになったフィデュ―シャリー・デューティー(金融機関が金融商品購入者に果たすべき義務)を重視し「顧客本位の業務運営に関する原則」を採択している金融事業者は1619社あるのに対し、共通KIPを公表しているのは124社しかありません。

公表状況は金融庁が定期的に公表するのに加え、公表している会社は自社のHPにアップしているので(下はセゾン投信の例)確認してみると、投資信託を買うときの金融機関選びの参考になるはずです。

銀行や証券会社が「顧客本位の業務運営」をしているかを第三者機関がチェック 金融機関への評価が厳しくなっていることを受けて、金融庁が情報公開を求めるだけでなく格付会社の格付投資情報センター(略称:R&I)は個人投資家が金融機関を選ぶ際の参考になる指標として「R&I 顧客本位の投信販売会社」を2018年12月から公表しています。

評価の概要は下図の通りですが、この評価は民間の第三者機関が行うものなので金融機関がR&Iに依頼し、公表も依頼者の任意となります。2019年6月時点で、評価が公表されているのは16社しかありません。

投資を行うための金融機関選びは、その後の運用成績に大きく関わる可能性があります。商品に詳しくないと感じているならなおさら“どこで買うか”は慎重に考えましょう。

  • 鈴木弥生

鈴木弥生

編集プロダクションを経て、フリーランスの編集&ライターとして独立。女性誌の情報ページや百貨店情報誌の企画・構成・取材を中心に活動。マネー誌の編集に関わったことをきっかけに、現在はお金に関する雑誌、書籍、MOOKの編集・ライター業務に携わる。ファイナンシャルプランナー(AFP)。