通勤などによる都心の交通混雑を緩和しようと、首都圏にオフィスを構える23社が参加しているテレワーク実施の取り組み「TDMテレワーク」(7月22日~9月6日)。7月23日には、子連れ社員が都内のカフェに集まり仕事をする「子連れテレワーク」の実証実験が行われた。子どもと一緒にいながらにして業務はスムーズに進むのか、在宅勤務との違いは? 実験に参加した子連れワーカーに聞いてみた。
「小4の壁」の打開策として
実証実験には、TDMテレワークに取り組む企業の社員10名とその子ども10名(小学生6名、乳幼児4名)が参加。都内のカフェに集まり、一斉にテレワークを行った。店内では、大人が仕事に向かう中、子どもも夏休みの宿題やお絵描きなどに集中。店内に適度な緊張感が漂っていたのが印象的だった。
このうち、小学4年生の娘と参加していた40代の女性に参加理由を聞いてみた。
「夏休み中の娘を学童保育に預けられず、1人で留守番させるのが心配で」。
学童保育の利用対象は小学6年生までだが、定員不足などの理由から、小学3年生までしか受け入れていない地域も多い。この女性は今年の夏休みから、子どもを学童保育に預けられなくなり、悩んでいたという。
「子連れテレワークは初めてですが、私は仕事、娘は宿題と、集中できていいですね。在宅勤務だとお昼ごはんを作らなくちゃと家事が気になってしまうけれど、今日はカフェでランチもしていけるのでありがたいです」。
娘さんも、親子で一緒に過ごせてうれしそう。感想を聞いてみると「一緒に宿題ができるので寂しくない。ママの働く姿はかっこいいです」と答えてくれた。
外に出て子連れで働くメリット
男性の参加者にも話を聞いてみた。
「子どもがいる中での在宅勤務では、どうしても子どもに目がいきがちで、仕事モードへの切り替えが難しいのですが、外出して行う子連れテレワークでは、親子ともに目の前のことに集中できます」。
そう答えてくれたのは、保育園年長の娘を持つ30代の男性だ。妻は職業上、突発的な休みを取りづらいため、普段から子どもが病気になると、在宅勤務を活用しているという。ただし、仕事モードへの切り替えが難しいようで、実証実験では、子どもを連れて外で仕事をすることのメリットを感じていた。
「平日は帰宅が遅いため、どうしても子どもの寝顔しか見れません。平日の昼間にこうやって子どもの顔を見ながら仕事でき、かつ自分が仕事をする姿を見てもらえるのはいいですね」。
来年から子どもが小学校に上がるので、特に夏休み中は積極的に子連れテレワークを導入していきたいと話していた。
仕事がスムーズに進まなくても……
生後7カ月の乳児を抱っこしながら仕事をしていた30代の女性も、普段から子連れでの在宅勤務は活用しているという。
「娘は体調を崩しやすく、保育園をうまく利用できないことも多いので、柔軟な勤務体制があることは助かっています」。
多くの保育園では預け始めの時間に制限がある。例えば、午後に子どもの体調が回復しても、午後からは保育園で子どもを預かってもらえないというケースの場合、子どもが健康であったとしても出社できない。その点、子連れの在宅勤務が認められているおかげで、保育園を利用できなくても、仕事ができるそうだ。
「ただ、仕事ができるのは子どもが寝ている間や機嫌のいいときに限られてしまいます」。
この女性が勤務する企業の担当者によれば、お願いした仕事が問題なく進んでいれば、勤務時間や働き方の違いはあまり大きな問題にならないとのこと。社員数が30名程度と少ないことで、目が行き届きやすく、実現できているそうだ。「勤務時間に対して給与を支払う」という考え方の企業では、導入が難しい面もあるのかもしれない。
業務の見える化など、課題をシェアして解決へ
子連れテレワークの実証実験を企画したアトラエ広報の南香菜絵さんは、今回の実験で子育て社員が交流することで、子連れテレワークのノウハウ共有につながることを期待しているという。
「セキュリティ問題の解消方法や、業務の見える化をどうしていくかなど、課題をシェアして解決策を共有していきたい」。
南さんによれば、子連れが可能なワーキングスペースは増えてきているとのこと。在宅で子どもと向き合いながら仕事を続けていると、うつうつとした気分にもなりがちだ。この実証実験によって「子どもの預け先がなくても働ける」「子連れテレワークがつながりづくりのきっかけになる」といったことも、社会に訴えていきたいと話していた。
実証実験中は、子どもがぐずって親に甘えたり、授乳の時間が必要だったりと、仕事がスムーズに進まない状況も垣間見えた。しかし、子連れテレワークができれば、家族の事情でまったく仕事ができないという状況は回避できるし、少しでも仕事を前に進めることができる。また、子どもの年齢が上がれば上がるほど、子連れでの勤務は支障が少なくなるようにも見えた。働き方の選択肢の一つとして、活用できる企業がもっともっと増えていくことを期待したい。