容疑者の言い分に「どうも釈然としないなぁ」と刑事がひと言。刑事ドラマを見ていると、そんなシーンをよく見かけますが、皆さんは「釈然としない」ってどういうことなのかご存知でしょうか。本稿では、釈然としないの正しい使い方についてお話しします。
釈然としないとは
はじめに、「釈然」という言葉について調べてみました。釈然は【しゃくぜん】と読みます。「とける、しこりをときほどく」といった意味の漢字【釈】と、状態を表す漢字【然】から成るもので、「すっきりするさま」「心にわだかまりのないさま」という意味になります。
「釈然としない」は、釈然とした状態ではないことを表していますので、頭の中や心が「すっきりしない」「モヤモヤする」「わだかまりがある」状態の時に用いる言葉になります。
釈然としないシーンと例文
では、具体的にどんなシチュエーションが「釈然としない」のか、幾つか事例を挙げてみましょう。
二股彼氏にフラれた理由
たとえば、恋愛ドラマによくあるシーンから。二股をかけていた恋人に「私とあの子、どっちにするかはっきりして!!」と迫ったら、「きみは僕がいなくても生きていけるけど、あいつは僕がいなきゃダメなんだ。だから、きみとは別れることにするよ」と告げられたとします。
彼女からすれば「えっ!? なんで私は大丈夫なわけ?」と、まさに釈然としない気持ちになりますね。
家事・育児分担における夫婦喧嘩
共働き世帯によくあるもめ事といえば、家事育児の分担ですね。「私もフルタイムで働いているのに、どうして家事は全部私なの?」という妻の問いに対し、「おまえの方が年収が低いんだから当然だろ」と返す夫。
逆に、「保育所の送迎、なんで毎日オレなんだよ」という夫に対し、「あなたが送迎した方が、周りから『いい旦那さんねぇ』って言われるんだからいいじゃない!」と返す妻。
釈然としないまま、日々、仕事との両立に奮闘されている方も多いのではないでしょうか。
ビジネスシーンで
ビジネスシーンの場合では、たとえば、個人情報が流出した理由を尋ねたところ、「セキュリティ体制は万全だったので、まさか流出してしまうとは。まったく想定外でした」と言われたらどうでしょうか。「万全じゃなかったから流出したんでしょ」と、思わずつっこみたくなりますね。
こういった状況を文章に表すと、このようになります。
- 彼の言葉に釈然としないまま、別れることにした。
- 確かに私の方が稼ぎは少ないけど、やっぱり釈然としない。
- 釈然としないものの、今日も子どもたちと楽しく保育所に向かった。
- 社長の謝罪会見に釈然とせず、更なる説明を求めた。
釈然としないの類語と、「腑に落ちない」との違い
ここで、「釈然としない」に似た表現をいくつかご紹介しましょう。
- 附に落ちない:納得できない、合点がいかないさま
- 解(げ)せない:理解できない、納得できないさま
- 疑念が残る:疑いや迷いが残ったままの状態
- 違和感がある:しっくりしない感じ
- 受け入れ難い:真実を受け止めることが難しいさま
- 合点がいかない:納得がいかない、承知できない
中でも、「附に落ちない」という言葉は、「釈然としない」と同様に否定表現でもあることから、意味も使い方も同じだと思われがちですが、両者には明確な違いがあります。
その違いは、話(理由や事情)を聞いたかどうかです。「理由を聞いてもなお、納得できない」「事情は分かったものの、どうもスッキリしない」のであれば、「釈然としない」を用いるのが正解です。
一方「附に落ちない」は、話(理由や事情)を聞いていない段階で用いるもので、「理由を聞いたら納得できそう」「事情が分かればスッキリするだろう」という状況で使用するのが正解です。
では、両者の違いを例文で見ていきましょう。
- 釈明会見が行われましたが、どうも釈然としませんね。
- 会見が開かれないことには、なぜこうなったのか附に落ちません。
- 事情を聴いても、やっぱり釈然としない。
- 事情を聴かないことには、理由が不明ゆえ腑に落ちない。
このように、事情を聴いた後に「腑に落ちない」が続くことはありません。両者の違いを理解し、正しく使い分けましょう。
釈然としないの注意点と敬語表現
釈然としないは、他者の話に対して「納得できない」「同意できない」という意志を示すもので、基本的には相手を不快な気持ちにさせてしまう言葉になります。また、敬語ではないため、目上の人に対して用いる言葉としては不適切です。
では、釈然としない気持ちを上司に伝えたい場合には、どのような表現が正しいのでしょうか。
釈然としないの敬語としては、「承服致しかねます」が正解です。承服とは、「主張や説得の旨を承って、もっともだと思いそれに従うこと」という意味の言葉で、それを否定する語「致しかねる」を足した言葉になります。
また、釈然としないは相手の言い分を全否定するものではなく、一部分ひっかかる点がある、なんとなくは分かるけど明確に理解できていない心情を示すものであるため、「承服できません」と言い切るよりも、「致しかねる」を用いた方が、より「釈然としない」に近い表現になるでしょう。
働いていると、完全に納得できないことも多いと思いますが、そんな時、「なんだかモヤモヤするなぁ」「どうもスッキリしない」なんて言葉では、少々軽く受け止められてしまうように思います。
ましてや上司がそんな口調では締まりませんね。ビジネスシーンでは、「釈然としない」「承服致しかねます」を用いるようにしてみてはいかがでしょうか。