「私は都会派」、「私は郊外派」と、それぞれに自分の感性による選択が一番でしょう。ただし、一般的なそれぞれの暮らしに対するメリット・デメリットはあります。いずれのエリアに住むのであっても、メリットを存分に生かし、デメリットをしっかり把握しておくことは大切でしょう。

  • 住宅購入は都会と郊外どちらがいい?

都会と郊外、それぞれどのようなメリット・デメリットがあるのか考えてみましょう。

都会と郊外の定義

東京を例にとると、「郊外」と呼べる範囲は限りなく広範囲に広がっていそうです。人によっても感覚に違いがあるでしょう。最近は新幹線通勤もありの時代です。東京~高崎間の1か月の定期代は101,720円です。時間にして約1時間です。ちょっとした都下のエリアや近隣県のベッドタウンよりも通勤時間は短いこともあり得ます。会社が一定範囲負担してくれるのであれば、そういった暮らしを望む方には十分に考えられる選択肢だと思います。

とは言っても、あまり広範囲だと、焦点が不明瞭になりますので、一旦ここでは都心への通勤時間1.5時間以上の丘陵地と設定しましょう。ただし、いろいろな暮らし方がありますので、比較のために「田舎」についても触れてみたいと思います。

都会と郊外居住、そのメリット・デメリット

一般的には都会のメリットは郊外にとってはデメリットとなり、郊外のメリットは同様に都会のデメリットになるでしょう。都会と郊外の一般的なメリットを考えてみましょう。

【都会のメリット】
・通勤時間が短い
・資産価値が下がりにくい。比較的容易に売却や賃貸など、有効活用しやすい
・医療施設が充実
・音楽会、美術鑑賞、仲間との飲み会など、楽しみが多い
・買い物等が便利
・老後に便利

【郊外のメリット】
・価格が安い
・戸建て住宅も可能
・故郷ができる。近所の友達とそのまま大人になっても付き合えることも多い
・自然環境が良い
・子育てに良い
・マイホームの暮らしを満喫できる
・座って通勤できる

そのほかに、共通して住まいに望む点として、「災害上安全である」、「静かである」、「治安が良い」、「長年住んでいて愛着がある」などが考えられます。

都会に住むなら……ここがポイント

都会の生活の醍醐味はアクティブに暮らせるところでしょう。仕事も仲間との付き合いも趣味も目いっぱい楽しみたい方に向いています。特にいろいろな人との付き合いが好きな方は都会が楽しいでしょう。

都会の暮らしの問題点は子育てです。都会暮らしではおいそれと戸建て住宅は望めません。必然的にマンションが中心になると思います。マンションは戸建て住宅に比較すると、住民構成がどうしても流動的になります。子どもにとって大切なものは故郷です。故郷は建物や土地だけの問題ではなく、そこに住む人々とのつながりが何よりも大切です。

また都心のタワーマンションでの外界と断絶した生活は、子どもの学習能力の育成にはデメリットがあるようです。鳥のさえずりや季節の移ろい、木々の緑や葉の揺らぎ、人々の会話などは五感を刺激して、子どもの健全な育成につながるようです。

通勤時間が短いという大きなメリットにも注意が必要です。短いと言ってもラッシュ時に立って通勤となります。郊外から座って通勤でき、その間に語学やスキルアップの勉強に費やせます。今はサラリーマンでも日々勉強が必要な時代で、都心のいたるところにサラリーマン向けのレンタルデスクのサービスがあるくらいです。ラッシュ時の短い時間でも、勉強する意思があれば別ですが、勉強時間を別途捻出が必要となります。

また、都会のマンションで資産価値を維持したいのであれば、駅近の立地であることが重要です。狭い敷地にぎりぎり建てた駅から遠い小規模マンションが、将来どれほど資産価値を維持できるか疑問です。

郊外に住むなら……こんな点に注意を

郊外に住むのであれば、郊外のメリットを存分に発揮できる環境か否かは重要なポイントです。始発駅で座って通勤できるのでなければ、単に長いだけの通勤時間となります。始発駅となると、相当郊外になる場合もあります。

環境も同様です。首都圏では、相当遠くまで行かないと、「環境が良い」とまでにはなりません。反対に東京は公園が多いので、都心でも公演隣接地は相当静かです。

戸建て住宅に住めるといっても、新築の建売住宅には、「庭」というものがほとんどないのが現状です。私の実家も多摩地区でしたが、売却後は2軒の建売住宅となり、それぞれに庭はほとんどありません。両親が購入当時の周辺は、畑も広がり、のどかな情景でした。まだ単線で都心までの時間も相当かかりました。しかし今では、都心まで1時間足らずで到着し、周辺の環境も大きく変わりました。確かに郊外には違いありませんが、郊外のメリットがあるかと言えば微妙な感じです。

但し、二軒分の敷地であったために資産価値はそれなりにありましたが、現在の1軒分となると都心の立地の良いマンションの方が、資産価値がありそうです。

私は昨年二地域居住を体験しました。田舎の空き家を借りて、小鳥のさえずりで目を覚まし、日々せせらぎの水音や季節で刻々と変化する色とりどりの花々、ゆったりと眺める山々の美しさを堪能し……と、まさに五感が研ぎ澄まされ、仕事もはかどるのには驚きました。

私自身がこれから子育てすると仮定したら……都会の立地の良い、資産価値の高いマンションで暮らし、夏休みは子どもたちを田舎の祖父母の家で生活させられたらと思います。田舎がなければ、田舎の空き家を借りる、夏だけホームステイ先を探す、キャンプをするなど、いろいろ方法もあると思います。

でも人それぞれです。「都会に住むか郊外に住むか」をきっかけに豊かな暮らしとは何かを考えてみませんか。

■著者プロフィール: 佐藤章子

一級建築士・ファイナンシャルプランナー(CFP(R)・一級FP技能士)。建設会社や住宅メーカーで設計・商品開発・不動産活用などに従事。2001年に住まいと暮らしのコンサルタント事務所を開業。技術面・経済面双方から住まいづくりをアドバイス。