「自炊してる?」こう尋ねられると、ちょっとドキッとしませんか?

「たまに料理をすることもあるけど、ほとんど外食ばかり」とか、「食事はコンビニに頼りっぱなし」とか。家で料理をしないことになんとなく後ろめたさを感じながらも「忙しくて、そんな時間も気力もない! 」というのが本音ではないでしょうか。

  • 連日コンビニ通いだというビジネスマンの方も多いのでは?

昨年の11月末、フードライター・白央篤司さんによる新書『自炊力 料理以前の食生活改善スキル』(光文社新書)が出版され、静かな話題を呼んでいます。同著は、いわゆるレシピ本ではなく、食べ物の選び方から始まり、栄養の話から調理のヒントまで、すぐに実践できる“自炊力”を身に着けるためのアイデアがギュッと詰まった一冊です。

「でも、自炊なんて無理」と即座に思った方、ちょっと待ってください! この本が指南する“自炊”とは、「毎日ちゃんと料理しましょう」というお説教めいたものではありません。忙しくても、やる気がなくても、料理が苦手でも大丈夫。むしろ、“自炊”のハードルを下げ、忙しい現代人に寄り添ってくれる、嬉しい内容なのです。

著者の白央さんは、以下のように語っています。

「今、働き盛りの世代には、料理をしないことに罪悪感を持っている方がとても多いんですね。でも、人には向き不向きだってあるし、“疲れているから料理をしたくない”ということは、決して悪いことではないんです。そんなときは、無理をして作る必要はありません。自分を休めてあげることが一番大切です。かといって、人間は生きていくうえで食べることからは逃れられません。ならば、まずはコンビニで食べ物を“選んで買う力”から身につけていきましょう。ただ目についたもの、食べたいものを漫然と手に取るのではなく、栄養バランスを考えて1食を組み立てていけるように。基本的には、『主食』『主菜』『副菜』の3要素で1食を構成するとバランスが取れます。作らずに買うことだって自炊の一歩なんです」

まずは栄養バランスの組み合わせを覚えよう

それではここから、例を見ながら“買う力”について考えていきましょう。

【栄養バランスを整えるため1食で必要な3要素】

■主食:ご飯、パン、麺類
■主菜:肉、魚、大豆製品
■副菜:野菜、キノコ、海藻、またはフルーツ

  • サンドイッチ、サラダ、豆乳をコンビニで購入

例えば、主食にパンを選んだとしたら、豆乳(=主菜)とサラダ(=副菜)を追加する。親子丼やカツ丼などの丼ものなら、副菜が足りないので、野菜入りのスープやみそ汁も一緒にいただく。おでんで1食分とするのなら、ちくわや卵、ウインナーは「主菜」、大根やしらたきは「副菜」にあたるので、そこに「主食」としておにぎりをプラスしてみる。パスタを選ぶなら、具材に肉(=主菜)と野菜(=副菜)が入っているかチェックし、野菜がなければサラダやカットフルーツを合わせましょう。

幕の内弁当など、おかずの品目の多いお弁当を選べば、だいたい3要素が入っているからOK! このメソッドなら、わかりやすく、すぐに実践できそうですね。

この方法は、外食のメニュー選びの際にも応用できます。一例として「富士そば」へ入った場合、そばは主菜の入った「肉そば」などを選ぶ。主食はそばですね。すると副菜の野菜が足りないので、そこにワカメをトッピングする。または「青菜のおひたし」を追加する、といった具合です。

ドイツ流「カルテス・エッセン」でラクして楽しむ

また、同著の中では「カルテス・エッセン」と呼ばれるドイツ流の食事のスタイルも紹介されています。

カルテスは「冷たい」、エッセンは「食事」を意味するそうで、ドイツでは、料理をせずにチーズやハムとパンで1食を済ませる簡単な食事が日常的に取り入れられているのだとか。買ってきたものを並べるだけだって立派な食事になる、というスタンスは忙しい現代人にぴったり。ぜひ取り入れたいところです。「今日はカルテス・エッセンで」というと、言葉の持つオシャレで優雅な響きで、なんだか楽しい気分にもなってきませんか?

  • パンやチーズ、ハム、そしてピクルスなど、火を使わずに食材を並べるだけ。それが「カルテス・エッセン」

将来の健康のためにも“自炊力”を身につけよう

現在はフリーランスのライターとして活動される白央さんですが、以前は会社勤めをされていました。その当時、生活習慣病にかかる先輩方をたくさん目の当たりにしたことが、“自炊力”の重要性を実感するきっかけになったと言います。

「仕事が忙しいと、ほかに楽しみがなく暴飲暴食でストレスを解消しがちですが、そのツケは必ず自分に回ってきます。病気にかかってしまえば医療費の負担も増えるので、経済的な面でも、健康を維持することは大切。そして健康を支えるのは、やっぱり日々の食事なんです」(白央さん)

健康なうちから保険に入るような感覚で、若いうちから自炊力を身につけることの大切さ。最近は、コンビニでもヘルシーなお惣菜の種類が増えてきています。毎日が忙しいなら、料理はしない! と割り切ってもいい。まずは選んで買う力を養うことで“自炊力”の最初の一歩を踏み出しましょう。

取材協力:白央篤司(はくおう あつし)

フードライター。早稲田大学第一文学部卒業。出版社勤務を経てフリーに。日本の郷土食やローカルフードをメインテーマに執筆。郷土料理や日本の食文化をテーマにした講演も各地の学校・図書館等で行なっている。著書に「都道府県をひとつのおにぎりで表すとしたら?」をコンセプトにした写真絵本『にっぽんのおにぎり』(理論社)、各地で愛され続ける飯・麺・汁ものをレシピつきで紹介した『ジャパめし。』(集英社)など。2018年11月末に上梓した著書『自炊力 料理以前の食生活改善スキル』(光文社新書)は発売後すぐに版を重ね、2019年7月現在で4刷となっている。

自炊力 料理以前の食生活改善スキル

「買い物に行き、その場で献立を考えられる」
「食材の質と値段のバランスを考えつつ、買い物ができる」
「買った食材と家にある食材を取り混ぜて、数日間の献立を作り回していける」
「なおかつ栄養バランスを考えられる」
――フードライターの著者は、上記の能力を「自炊力」と名付けた。テレビの料理番組の活用法から正しい買い物のテクニックまで、「自炊をはじめたい」人が今日から取り組める食生活改善法を徹底網羅!


白央篤司 著
光文社新書
定価:800円(税別)
発行年月:2018年11月15日