Appleは今回のWWDC19で、Appleとしてのコンピュータの最高峰となるMac Proを披露した。同時に、iPadをよりコンピュータらしく使うことを目的に、iOSからiPadOSを独立させた。

  • 破格の性能を誇る高性能デスクトップ型Mac「Mac Pro」

これによって、Appleのコンピューティングの基本は、300ドルから1,000ドル以下で5種類をラインアップするiPadが核となった。同時に、Macについては、1,000ドル以上でより自由に発展させる道筋がついたことになる。

そうしたiPadを主体としたコンピューティングの再構築と、Macをより自由に飛躍させるアイディアから、Appleのコンピュータの近い将来像を予測してみた。

自社チップやFace IDでWindows PCと差異化

Macについては、やはりWindows PCとの違いをいかに際立たせるかが重要となる。その手法としては、Appleの自社チップがキーとなる。

現在、A10に近い性能を持つT2チップが新しい世代のMacに採用されているが、このチップが進化していくことで、今後ニューラルエンジンを備え、機械学習処理を担うようになることも考えられる。例えば、A12 BionicをベースとするTシリーズのチップが作られれば、秒間5兆回の機械学習処理を実現するニューラルエンジンが手に入る。

  • 最新のiPhone XSなどに搭載されているA12 Bionicチップは、秒5兆回もの機械学習処理が可能

このことは、ディスプレイ付きのMacを中心として、iPad ProのようにFace IDを備えることは既定路線といえるのだ。

2018年の段階で、Mac miniやMacBook Airという最も安い価格帯の製品にまでT2チップが入り、ディスクコントロールや暗号化、起動時のセキュリティだけでなく、ビデオエンコードの高速化にも寄与するようになった。

その一方で、フラッシュストレージとハードディスクを組み合わせたFusion Driveやハードディスクの存在が残るiMacだけ、T2チップが搭載されていない状況が続いている。

初代Macintoshの登場から35周年となる2019年、Macintoshオリジナルのスタイルであるディスプレイ一体型コンピュータの系譜を継ぐiMacを、新しいデザインで発表するには絶好のタイミングといえる。

その際は、ハードディスクを排除してフラッシュストレージを基本とし、FaceTime HDカメラをTrueDepthカメラに置き換え、高い処理性能のスタンダードを用意するといった刷新は、ぜひ取り組むべきだと考える。

  • 最新のiPhone XSなどに搭載されているTrueDepthカメラ

MacBook Proについても、パネルサイズがひとまわり大きい16インチモデルの登場が噂されるようになった。ディスプレイには液晶に代わり有機ELが用いられることになるだろうが、こちらもやはりFace IDを搭載するモデルが登場することになるだろう。

Mac35周年の今年、「iBook」が復活か

MacとiPadの棲み分けについて指摘した中編「新OSでiPadとMacの棲み分けが変わる」では、「MacとiPadの環境をそろえていく」という言葉を紹介した。iPad(とiPhone)にあって、Macにない機能をできるだけなくしていくという観点から考えても、MacにFace IDが入らないことはあり得ないのだ。

そう考えていくと、こちらもよく耳にする「MacにARMベースの自社開発チップを載せていく」というアイディアは若干遠のいたようにも見える。しかし、似たようなデバイスの登場には可能性が残る。

繰り返し、デバイスとしてのMacとiPadの融合はないと指摘されてきたが、iPadがより強化され、結果としてMacの高い性能を追求しようとすれば、モバイルデバイスとしては最高のパフォーマンスを発揮するAppleのAシリーズチップがMacにそぐわないことになる。

どちらかというと、キーボードとタッチの両方に対応してiPadOSを搭載する「新しいデバイス」のほうがイメージに合う、と筆者は考えている。「iBook」のような名前を冠したARMベースのノート型デバイスはどうだろう。

iBookという名前は、iMacのポータブル版としてノート型Macに用いられていた。しかし、インテル製CPUへの移行に伴ってノート製品のブランドが「MacBook」に統一され、その後電子書籍サービスとして「iBooks」が長らく用いられてきた。

ところが、サービス強化の一環で「iBooks」は「Apple Books」へと名前を変えた。こうして「iBook」という名前は、再び何にも使われていない「空いている名前」となった。Macではない新しいノートブック型デバイスに、この名前を用いる準備は整っている。

前述の通り、MacとiPadでアプリやできることをそろえていく前提があるため、ARMベースのノートブック型デバイスがMacに劣る性能しか発揮できない、というわけではないだろう。

今年の夏以降、MacやiPadにまつわる動きは引き続き注目していく必要があるだろう。

  • 9月に開かれる恒例のスペシャルイベント、今年は新型iPhone以外にも注目製品が多くお披露目されそうだ

著者プロフィール
松村太郎

松村太郎

1980年生まれのジャーナリスト・著者。慶應義塾大学政策・メディア研究科修士課程修了。慶應義塾大学SFC研究所上席所員(訪問)、キャスタリア株式会社取締役研究責任者、ビジネス・ブレークスルー大学講師。近著に「LinkedInスタートブック」(日経BP刊)、「スマートフォン新時代」(NTT出版刊)、「ソーシャルラーニング入門」(日経BP刊)など。Twitterアカウントは「@taromatsumura」。