ANA(全日本空輸)の長距離国際線のフラッグシップ機である「ボーイング 777-300ER型機」の機内が、8月2日の羽田空港~ロンドン・ヒースロー国際空港線(NH211便)からリニューアルされる。

7月11日に行われた発表会において、新機内の様子が公開されたので紹介したい。

  • ファースト、ビジネスクラスを中心に機内リニューアルが図られた「ボーイング 777-300ER型機」(写真:マイナビニュース)

    ファースト、ビジネスクラスを中心に機内リニューアルが図られた「ボーイング 777-300ER型機」

隈研吾氏がデザインを総合監修

"Inspiration of Japan"と銘打ち、2010年に国際線の機内を刷新して以来、今回約10年ぶりの仕様変更となる。

ANAの代表取締役社長 平子裕志氏は、「これまでもお客様からは好評だったが、9年経ってデザインもさすがに古くなった。技術革新などで取り巻く環境も変わったため、根本から見直すことにした」と説明。

  • 機内の刷新の背景や概要を説明する、ANAの代表取締役社長 平子裕志氏

    機内の刷新の背景や概要を説明する、ANAの代表取締役社長 平子裕志氏

新仕様は、建築家の隈研吾氏が総合監修を務め、英国のデザイン会社・acumen(アキュメン)がデザインを担当し、ファーストクラス(8席)とビジネスクラス(64席)を中心に、"日本らしさ"を意識した空間が演出されている。

  • 建築家の隈研吾氏はデザインのポイントと、そこに込めた思いを語った

    建築家の隈研吾氏はデザインのポイントと、そこに込めた思いを語った

プライバシーを重視した座席設計

ファーストクラス、ビジネスクラスともにプライバシーを重視したシートを導入しているのが特長だ。同社航空機としては、ビジネスクラスで初めて全席に扉を設け、ブース状の設計にすることでプライバシー性を強化した。

また、座席の向きを前後一列ずつ交互に向かい合わせに配置することで、シート幅が従来よりも約2倍となり、面積は約1.3倍に広がった。一部座席では、隣接する席との間にある可動式のパーティションを開放することでペアシートのようにも利用できる。

シート前方には、4K対応の24インチモニターを装備。各シートには、USB電源や、ユニバーサルAC電源の差し込み口を備えた、ミラー付きの収納ボックスも設けられるなど、「まるで自宅にいるかのように過ごしてほしい」という思いを込めて「THE Room」と名付けられたとおり、自宅の個室のような感覚で機中の旅を快適にアシストしてくれる。

  • 「THE Room」と名付けて一新されたビジネスクラス。全席扉を設けた個室で、座席の前後の向きが交互に配列されているのも特徴

    「THE Room」と名付けて一新されたビジネスクラス。全席扉を設けた個室で、座席の前後の向きが交互に配列されているのも特徴

ファーストクラスも同様に、全席にドアを備えた個室型の設計。特徴的なのは、和式建築の格子戸を彷彿させる引き戸式の扉で、隈氏いわく「開け閉めしても空間を邪魔せず、音も静かで、現代から見てもよくできた技法」で、和のテイストと機能を両立させたとのことだ。

  • ファーストクラスは、「THE Suite」の名のもとに、ホテルのスイートルームのような空間を機上で実現した。日本の格子戸をイメージした扉でプライバシーを確保する

    ファーストクラスは、「THE Suite」の名のもとに、ホテルのスイートルームのような空間を機上で実現した。日本の格子戸をイメージした扉でプライバシーを確保する

  • 日本の格子戸をイメージした扉

    日本の格子戸をイメージした扉

周囲の壁やシートなども全体的に木目調で、和紙を意識した壁紙のデザインや、窓の内側に蛇腹状に電動で開閉できる和紙のシェードを設けるなど、和のテイストに溢れるインテリアにまとめられている。

  • ファースト・ビジネスクラスの窓は、内側に和紙を使用した電動式のシェードも備えられている

    ファースト・ビジネスクラスの窓は、内側に和紙を使用した電動式のシェードも備えられている

  • 壁面の壁紙は和紙のデザイン

    壁面の壁紙は和紙のデザイン

  • ギャレー(機内食の準備をする場所)のシェードも和紙のデザイン

    ギャレー(機内食の準備をする場所)のシェードも和紙のデザイン

スイートルームのような空間

機内エンターテイメント向けには、4K対応の43インチ大型モニターを採用。モニター前やシート脇にはマガジンラックやハンガーラックなど機能別に分けられた収納スペースを備え、食事用と読書用に最適な色温度に切り替えられる照明を導入するなど、「THE Suite」と名付けられたように、まるでホテルのスイートルームで過ごすような空間が提供されている。

なお、航空機での4K対応モニターの採用は世界初とのこと。

  • ファーストクラスのモニターは、シート幅いっぱいの43インチ大型モニターを採用

    ファーストクラスのモニターは、シート幅いっぱいの43インチ大型モニターを採用

  • 木目の家具調のデザインで、照明にもこだわりがあり、まさに自室のようなリラックスした空間を提供

    木目の家具調のデザインで、照明にもこだわりがあり、まさに自室のようなリラックスした空間を提供

  • サイドテーブルなどビジネスクラスのシートまわりの装備品も充実。4K対応の24インチモニター横には、USB電源や、ユニバーサルAC電源の差し込み口を備えた、ミラー付きの小物入れも

    サイドテーブルなどビジネスクラスのシートまわりの装備品も充実。4K対応の24インチモニター横には、USB電源や、ユニバーサルAC電源の差し込み口を備えた、ミラー付きの小物入れも

  • 読書灯と食事用に切り替えられるLEDライトを採用した、ファーストクラスのシートの両サイドの照明

    読書灯と食事用に切り替えられるLEDライトを採用した、ファーストクラスのシートの両サイドの照明

ファースト、ビジネスクラスともに、サイドテーブルの下部に埋め込まれた、シートコントローラーを導入。ふとんやシートクッションは、寝具の西川の研究機関が開発した"Sleep Tech"技術をベースにした、体圧を効率的に分散する効果のある特殊立体構造ウレタンや、保湿力が高い高級羽毛布団を採用している。

  • ファーストクラスのシート。寝具の西川の研究機関が開発したシートクッションは、ベッドのように快適

    ファーストクラスのシート。寝具の西川の研究機関が開発したシートクッションは、ベッドのように快適

  • ファーストクラスもビジネスクラスも臨席と間を隔てるパーティションは可動式

    ファーストクラスもビジネスクラスも臨席と間を隔てるパーティションは可動式

  • 間仕切りを下げれば、ツインルームのようにも利用できる

    間仕切りを下げれば、ツインルームのようにも利用できる

ビジネスクラスには、乗客が自由にワインなどの飲み物を取り出せる冷蔵機能を備えバーカウンターを設置。エントランスエリアなども含め、和紙のデザインを取り入れるなど、日本らしいインテリアデザインや空間演出が機内全体的に施されている。

  • ビジネスクラスに設置されたバーカウンターも落ち着いた和のテイスト

    ビジネスクラスに設置されたバーカウンターも落ち着いた和のテイスト

  • 照明のシェードもよく見ると和紙のモチーフ

    照明のシェードもよく見ると和紙のモチーフ

  • ビジネス・ファーストクラスエリアのラバトリーも和のテイスト

    ビジネス・ファーストクラスエリアのラバトリーも和のテイスト

プレミアムエコノミー(24席)とエコノミー(116席)は、4月26日に就航した「ボーイング 787-10型機」と同じシートの仕様を採用。プレミアムエコノミーが15.6インチ、エコノミーが13.3インチのモニターを備え、各席にAC電源とUSB電源を装備している。

座席ごとにファブリックのデザインが3パターン異なるシートをランダムに配しているのも特徴だ。

  • プレミアムエコノミーとエコノミークラスは、4月26日に就航した「ボーイング 787-10型機」と同じ仕様

    プレミアムエコノミーとエコノミークラスは、4月26日に就航した「ボーイング 787-10型機」と同じ仕様

  • 座席ごとにファブリックのデザインが3パターンに異なるシートがランダムに配置されている

    座席ごとにファブリックのデザインが3パターンに異なるシートがランダムに配置されている

8月2日の羽田-ロンドン線への導入以降は、ニューヨーク線への展開を検討しているとのこと。以降も2020年から2021年にかけて順次拡大していく意向だそう。

機内空間の制約をプラスに

隈氏は国内線ラウンジの監修も手掛けたが、いずれも和を意識した空間演出は同じで、「木の質感を生かす、日本的な優しい光を作る点などいろんな点で共通点がある」と話す。

一方で「飛行機はそもそも空間の容量が限られている。例えば建築の天井などが全然違うが、それが逆にインティメイトな空間を作るうえではプラスに働いた。素材も飛行機ならではの制約があるなかで、非常によい質感のパネルや布地、カーペットなどが見つかり、今までの飛行機にはない、優しい質感のものが実現できた。質感をぜひ楽しんでほしい。世界中の皆さんにANAの機内の中で日本の良さを体験してもらいたい」と語った。