関東マツダは板橋本店(東京都板橋区)をリニューアルし、2019年8月3日にオープンする。この店舗はマツダにとって、ブランド訴求を図るための発信・体験拠点という位置づけだ。こういった店舗は首都圏で4カ所目となる。
建物のデザインを監修したのは、マツダで(クルマの)デザインとブランドスタイルを担当する前田育男常務。カーデザイナーが販売店の在り方まで考えるのは珍しいそうだが、どんな思いで取り組んだのだろうか。話を聞いてきた。
ブランドで選ばれる存在を目指して
マツダは「ブランドで選ばれる存在」を目指し、さまざまな施策を展開している。例えば先頃、同社のフラッグシップモデルである「アテンザ」を「MAZDA6」に改名したのも、そういった施策の1つだ。商品名を「ブランド名+数字」(SUVはCX+数字)に統一することにより、ブランドをより鮮明にすることを狙っている。「今は、まだまだ商品や個別の技術などで選ばれていますが、目指しているのは、マツダというブランドで選ばれ続けることです。そういう存在になりたい」。マツダで国内営業を担当する福原和幸常務執行役員は、関東マツダ板橋本店の内覧会でこのように述べた。
板橋本店は広島県出身の建築家である谷尻誠氏と吉田愛氏(両者ともサポーズデザインオフィス所属)がデザインを担当。マツダのデザイン本部がデザインを監修した。クルマのデザイナーが建物のデザインを監修するのは珍しいそうだが、前田常務がこの取り組みを始めたのは6年近く前のことだという。
「2013年に洗足店(東京都大田区)でデザインを監修しました。その時はインテリアだけでしたが、将来のマツダのブランドスタイルを担うような店舗を作れないかということで、色んな人を説得して回りました」
マツダデザイン本部の監修による店舗は、洗足店、目黒碑文谷店(東京都目黒区)、高田馬場店(東京都新宿区)、板橋本店の4カ所。板橋本店が完成したことにより、マツダの首都圏におけるブランド発信拠点ネットワークは完成したそうだ。しかしなぜ、販売店の在り方にまで、マツダのデザイン本部が関わるようになったのだろうか。マツダのクルマがカッコいいとしても、建築についてカーデザイナーは門外漢であるはずだ。前田常務は以下のように説明する。
「マツダの『作品』であるクルマを、いかに美しく見せるか。いかに美しく、色んなお客さまに見てもらえるか。ここまでクルマを作り込んだのだから、そのクルマを『愛でる箱』も、美しいスタイルであって欲しい。そういう思いでスタートしました。クルマをどう見せたらよいかを熟知している我々デザイナーが店舗を監修することは、あながち間違っていないのではないかと思います」
「あとは、将来的にブランドの『様式』を作っていきたいという強い思いもあります。そのためには、大きな箱である販売店のスタイルも非常に重要です。それを作り込むことで、将来の『様式』の方向性も見えてくる。そういう思いで4店舗を手掛けました」
「様式」を作っていきたい。これが、マツダのデザインとブランドスタイルを統括する前田常務の考えだ。その「様式」とは一体、どういうものなのか。
「実は、定義がすごく難しいんです。まだ、一言でいえるようなものは持っていません。それを作っている最中だと思っています。ただ、様式とは、マツダというブランドの生き様そのものがカタチになったものだと思っているので、それには、生き様を定義する必要があります。それを定義するには、なんといったらいいか、まだ、経験が足りないのかもしれません」
「いずれ、一言でいい切りたいと思っています。(マツダの様式は)何かに似ているということはあってはいけない。マツダしか持っていないものであるべきだし、その根底には、マツダに流れているDNAが感じられないといけないと思います」
ブランド発信拠点を整備することには、マツダの様式を確立すること以外に、どんな効果があるのか。前田常務は個人的な印象と断った上で、以下のような考えを示した。
「まず、こういう店でクルマを見て、購入したいというお客さまが圧倒的に増えました。遠くから来店していただくケースも増えましたし、輸入車オーナーの方の来店もすごく増えています。来店客の層が拡がってきている印象です」
「でも、最も大きく変わったのは社員かもしれません。その立ち居振る舞いといいますか、何かを教育したわけではないのですが、箱が変わると人間も変わるのかなと思います。例えば、姿勢が変わったり、仕立てのいいものを着るようになったり、接客態度が穏やかになったり。モチベーションが上がった結果なのか、自信を持って働く社員が増えたような気がします」
海外でマツダの販売店を作るオーナーも、首都圏のブランド発信拠点を訪れて、店舗づくりの参考にすることがあるという。マツダが模索しているのはプレミアムブランドへの道だと思われるが、その方向性を示すのは同社のクルマばかりではない。販売店も、マツダが理想とする自動車ブランドとしての在り方を想像する上では大事なヒントになるのだ。