性差別的な広告にクレームが殺到したり、そのクレームに対する批判が相次いだり、「ポリティカル・コレクトネス」をめぐる状況は騒がしくなってきています。ここで改めて、本来の意味をおさらいしておきましょう。
ポリティカル・コレクトネスの意味
オックスフォード現代英英辞典によれば、ポリティカル・コレクトネスは「特定の人々を害する言動を避ける」という原則です。
これは、主に1980年代にアメリカにおいて生まれた考え方で、性別や年齢、肌の色や宗教、身体障害者などを差別するような言葉を避けて、別の言い回しをしようじゃないか、という運動として発達しました。
女性既婚者を示す"Mrs"や未婚者の"Miss"を使うのではなく、"Ms"の称号を用いる。"Black(黒人)"ではなく、"African American(アフリカ系アメリカ人)"と言う。これらが、ポリティカル・コレクトネスに基づく言い換えの一環です。
やがてポリティカル・コレクトネスの動きは日本にも伝わっていきました。
ポリティカル・コレクトネスの具体例
日本におけるポリティカル・コレクトネスの代表例は、職業名の言い換えでしょう。
看護婦や助産婦、保健婦といった女性系名称は2002年に「看護師」「助産師」「保健師」と改められました。男性名詞のスチュワード、女性名詞のスチュワーデスも、「客室乗務員」や「キャビンアテンダント」と呼ばれるようになっています。保育園の保母さんも、今は「保育士さん」です。
ポリコレ疲れと言葉狩り
Googleトレンドで「ポリティカル・コレクトネス」を調べると、2016年11月の検索回数が突出していることが分かります。これは、米大統領選挙の一般投票がおこなわれた月で、ドナルド・トランプの大統領当選が確実となった時です。
選挙費用のほぼすべてを自分の財産から拠出したことで、トランプ大統領はロビイスト(※)という特定集団に配慮する必要のない政治家となりました。 ※政党・議員・官僚などに働きかけることを専門とする人々
移民やマイノリティ、女性に対する攻撃的な発言・政策に支持が集まった背景には、「ポリコレ疲れ」があったのではないかという論調もありました。
実際、ポリティカル・コレクトネスの追求は、度の過ぎた自主規制や表面的な「言葉狩り」を生むおそれがあります。例えば、アメリカではクリスマスの挨拶に「メリークリスマス」ではなく「ハッピーホリデイ」を用いるべきとされてきました。
キリスト教徒でない人も多いのだから、宗教行事的な言葉はいかがなものか、という発想です。(トランプ大統領はメリークリスマスと堂々言っています)。日本でも、古い漫画やドラマのセリフが修正されるなど、歴史的文脈を無視した改変がおこなわれてきました。
広告やCMに対するクレームなどを通じて、「ポリコレ疲れ」は日本でも指摘されるようになってきました。
一方で、「男のくせにそんなこともできないのか」「女なんだから、もう少しかわいい格好でもしたらいいのに」と言われればムッとする人もいるでしょう。
「ポリティカル・コレクトネス」というこんがらがった概念を使い回すよりも、「配慮」という言葉に立ち戻るほうが良いのかもしれません。