だが、従来のシステムでは、作業の効率化を進めるためのシステム改善に時間がかかったり、訪問先の安否確認といった緊急時などにおいて、これまでの訪問資料を自治体に迅速に提出するための作業が行えなかったりといった課題が発生。さらに、2014年度以降、復興関連予算措置の変更により、雇用できるスタッフ数が半減することで、より効率的な作業が行える環境への移行が避けられなくなっていた。

「釜石市の場合、昭和の大合併で8町村がひとつになったが、それぞれの集落を循環することが難しい地形にあり、市全体を循環するコミュニティバスが成り立たないという状況にある。釜石市の中心部から行っては戻り、戻っては行ってという効率の悪さがある。連絡員の作業を効率化するためにも、より柔軟性を持ち、かつセキュアな環境を実現するシステムの活用が不可避であった」と語る。

2014年度には、スタッフ数は36人へと大幅に縮小。これにあわせて、Dynamics 365の導入検討を開始した。

@リアスNPOサポートセンターがDynamics 365に着目したのは、若者TECHや東北UPで、日本マイクロソフトとの連携があったこと、震災以降、釜石市役所がOffice 365を全庁に導入していたことから、同市とのシステム連携において親和性が期待できること、そして、Dynamics 365の柔軟性により、環境変化にあわせた変更が可能であること、さらには、蓄積された個人データが増加し、よりセキュアな環境での運用、管理が求められていることなどが要因だった。

  • 巡回管理システムの概要

「現場での聞き取り内容をより簡単に入力するためのユーザーインタフェースの変更が柔軟に行えたり、検索したいという思う項目での情報抽出が容易になり、必要なデータをより見やすい環境で、リアルタイムに表示することが可能になった」とする。

連絡員は、タブレットを利用して、巡回の記録をその場で入力。また、これまでの訪問履歴をもとに、より緊密な関係を構築したりといったことが可能になった。事務局では、巡回記録や相談記録をクラウドで管理。さらに行政機関の関連部署などの外部機関に対しては、限られた部分だけを参照できるように権限を設定して情報を提供した。

「Dynamics 365の導入により、効率的な入力、出力、共有が可能になり、現場では、住民との対話により多くの時間を割けるようになった」とする。

  • Dynamics 365を活用した巡回管理システム

仮設住宅の訪問は1日1回であり、復興公営住宅は1週間に2回の訪問を行っている。だが、復興公営住宅の場合、仮設住宅とは異なる課題も発生していた。

復興公営住宅の場合、市街地にはマンション型の建物も用意されており、マンションの暮らしになれない高齢者の場合、生活の仕方に慣れなかったり、1階に降りることが億劫になり、外出が減ったり、仮設住宅のように集会所がないため、コミュニティの形成が難しいといった課題が生まれていたのだ。そのため、復興公営住宅では、週2回の連絡員の訪問を楽しみにし、1件あたり1時間30分以上も会話をする例が増えているという。これまで以上に現場での会話が重視される仕事になってきているともいえる。

このように、スタッフ数が減少しても、現場での会話に時間が割くことができるようになっているのも、Dynamics 365を導入した成果のひとつだといえる。

  • クラウドを活用することで効率化とセキュアな環境を実現した

実は、Dynamics 365で、顧客管理を行うCRM機能を仮設住宅の見守り管理システムに利用する例は、日本では初めてのことだ。「かつて和菓子屋を経営していた観点から、仮設住宅に居住している人たちを、顧客と見なしていたことが、発想の原点にある」と、鹿野代表理事はそのきっかけを語る。

現在、釜石市では、1316戸の復興公営住宅が完成。残る約150世帯の仮設住宅への入居者は、住宅再建の工期などの関係から移住できない人たちだけであり、今後、見守りおよび見回りの対象は、復興公営住宅の居住者が対象になる。そして、今後は、連絡員も10人程度で運営することになる。

  • いまも約150世帯が仮設住宅で暮らしている

@リアスNPOサポートセンターの鹿野代表理事は、「復興公営住宅が対象となることで、生活再建移行期から脱し、地域づくりという広い観点で捉える必要もある。これまでとは異なる部署との連携が必要になるかもしれない」とする。

その一方で、Dynamics 365に対する期待もある。

「市民が、安心して生活できるように、見守りや見回りをするためには、連絡員が気づき、その様子を的確に入力すること、そこから、困っているシグナルを察知することが大切である。これまでの8年間の活動で、そうしたノウハウが連絡員のなかには蓄積されている。今後は、AIを活用することで、生活の傾向から事前にシグナルを察知したり、自由記入欄に書かれた内容を分析して、課題を察知するといったこともできるだろう。また、Bot機能を利用して、巡回員がBotの質問に答えるだけで、的確な情報を音声入力できるようにするといったことにも期待したい」とする。

  • 巡回管理システムが目指すもの

復興の道を歩んでいる釜石市だが、これからも、高齢者を中心とした見守り、見回りは重要な事業となる。そこに、AIをはじめとした最先端テクノロジーがどんな貢献をするのかが、今後、注目されることになるだろう。