ワークショップ「タニモク」をご存じだろうか。これは自分で目標を立てるのではなく、「他人に目標を立ててもらう」というプログラムだ。先ごろ、「今後どのような目標を持って働きたいか」をテーマに行われたパーソルキャリアの内定者と社員による同ワークショップの参加者に、その手ごたえについて聞いてみた。
タニモクってなに?
「他人に」、「目標を立ててもらう」の頭文字を取ったタニモクは、自分以外の視点を取り入れて自分の選択肢を増やし、新しい目標設定を行うことを目指すワークショップ。
利害関係のない人(=他人)が3~4人1組のチームとなり、1人ずつ自分の現状をチーム内の人に絵で説明し、チーム内の人は自分がその人だったら何をするかを考えて目標を提案する、というセッションをチーム人数分行っていくものだ。
「"働く"ことについては、さまざまな方が関心を持っていると思います。では、"働く"を充実させるために必要なものはなんでしょうか。我々はその1つが"目標"かなと考えています。『意欲を向上させる、可能性を引き上げてくれる。それにはどのような手段があるかな?』と考えたとき、1つがこの『タニモク』です」(三石さん)。
タニモクのプロジェクトリーダー、三石氏はこのようにタニモクの意図について述べる。今回のワークショップでは、パーソルキャリアの内定者、一般社員、管理職社員の3名が1チームで進行する。立場が全く異なるこの3名の人生や夢、目標は全く異なるものだろう。ワークショップ開始前に、実際に内定者と一般社員にお話を伺ったところ、次のような悩みや目標が挙げられた。
内定者Aさん「自分がどういう風にキャリアプランを歩んでいくべきか、より多くの経験をしてより深く考えたい」
内定者Bさん「働く人たちが明日を楽しみにする社会を作りたい。そのために何をするべきか」
内定者Cさん「人から好かれたい。今は趣味を増やしたり新しい場所に出向いたりしているが、社会人になったらどのようにするべきか」
内定者Dさん「いまはアルバイトでMVPを取れるように頑張っているが、人生の明確な目標がない。目標を設定したい」
パーソルキャリア社員Eさん「キャリア提案力を上げたい。そのために国家資格であるキャリアコンサルタントを取得したいので、知見知識を付けるため勉強会などに参加している。新入社員に教える立場でもあるので、インプット/アウトプット両方でレベルを上げていこうと思っている」
タニモクの流れとコツ
今回のタニモクでは、カフェスタイルのテーブルに3人で座り、1人(主人公)がA4用紙に絵で表現した自分の現状を他の2人に説明する。他の2人は自分がその人だったら何をするかを考えて目標を提案する、という30分のセッションをチーム人数分実施するという流れで行われた。
ポイントは、主人公である自分の説明は極力簡潔に行い、その後の質疑応答に重点を置くこと。仕事の話だけでなくプライベートの話も交えると、目標設定の話題が膨らみやすい。
また、主人公にプレゼンを行う際は必ず「私が○○さんだったら……」と枕詞を付けること。そして、主人公は現状を絵に表す際は、文字や言葉は極力使わないということだ。
こうしてスタートしたタニモクワーク。まだ社会人になっていない内定者は仕事への不安やキャリアパスについて、一般社員は恋愛や趣味と仕事のワークライフバランスや転属などの悩みについて、そして管理職は家庭と仕事の両立、部下の育成、副業や転職の決断などについて話している方が多かったようだ。
内定者の皆さんは、「仕事をしていない自分」が仕事をしている人にアドバイスを送ることに戸惑いつつも、「仕事や家庭を両立されている社会人の皆さんに対して言いづらいなと思う反面、『私が○○さんだったら……』と考えることで自分との共通点が見つかり、自分本位で考えることができた」などと感想を述べる。
また社員の方からは「まだ社会に対する固定観念を持っていない内定者に本質を突かれた」という声もあった。
他人だからこそ得られる気付き
メンバー全員が主人公パートを終えたら、タニモクワークは終了。他人からのプレゼンの内容を参考に、最後に自分自身が3分で目標を立てる。
ここで三石氏は、まだ目標を決め慣れていない内定者に向けて1つのアドバイスを送った。それは「ベンジャミン・フランクリンの13の徳目」の活用。13の徳目のように、自分に対するルールを設定して目標達成に活かすというもので、三石さんは自ら行っているやり方を紹介した。
「大きな成長よりも、日々の小さな変化を大事にしてください。小さな変化を、方向感を持って進めていければ必ず目標達成に近づけます。行動の習慣化という形で規律を得ることによって前進し、目標が明確になります。今日はその切り口がたくさん得られたと思います。まだ目標が形になっていないという人も今日の話がキーになるかもしれませんので、家に帰って振り返ってみていただければなと思います」(三石さん)。
こうして、予定されていた2時間のプログラムはあっという間に終了した。参加した皆さんは一様に何らかの手ごたえを得たようで、疲れを感じさせない満足げな表情を浮かべていたのが印象的だった。
「だいぶ具体的な目標ができた気がします」(内定者Aさん)、「目標を他人に口外し、やらなければならない状況を作るという方法を教えてもらえました」(内定者Bさん)、「人材関係の仕事をしている人ならではの質問で目標や強みを掘り出してもらえました」(内定者Cさん)、「私の目標に大きな変化はないのですが、+αができました」(内定者Dさん)、「人材マーケットの固定概念を壊したり、副業など自分の思っていることをやったりして良いという目標を見付けました」(パーソルキャリア社員Eさん)
社会環境の変化が激しい中、自分のキャリアをどう作るかは非常に難しい。自分軸を持つことは大切だが、場合によっては他人の視点や価値観を聞くことで、別の自分軸が見つかることもある。
人生100年時代といわれるからこそ、状況に応じて柔軟に変化できる自分軸を複数持てる機会を作るのも大事なのではないだろうか。