本当に上白石萌歌なのか! 小麦色に焼け、鍛え上げられた精悍な水着姿の彼女は、まさにアスリートそのものだった。彼女が演じるのは、NHKの大河ドラマ『いだてん~東京オリムピック噺(ばなし)~』(毎週日曜20:00~)で、日本人女性初の金メダリストとなる水泳選手・前畑秀子役だ。
前畑が本格的に登場するのは、7月14日に放送される『いだてん』の第27回。水泳選手の育成に闘志を燃やす田畑政治(阿部サダヲ)の心は、すでに次なるロサンゼルスオリンピックに向いていた。田畑の働きかけで、神宮外苑にプールが完成し、ここで開催された極東大会で、16歳の前畑秀子が200m平泳ぎで日本新記録を出す。
上白石が今回トライした肉体改造は、デ・ニーロ・アプローチ。日焼けサロンに通い、体重も7キロ増量して、水泳にも打ち込んだ彼女に、女優魂を見た。上白石自身も、徹底したアプローチ方法に手応えを感じていたようだ。
――もともと水泳をされていたそうですが、前畑秀子さんはご存知でしたか?
はい、知っていました。私の祖母が最近まで水泳をやっていましたし、私も水泳を習っていたので。祖母に「前畑秀子さん役を演じさせていただくことになりました」と報告したら、すごく喜んでくれました。前畑さんは祖母の時代にものすごく輝いていた女性だと思うので、今回、祖母に恩返しできたかなという気持ちになりました。
水泳に関しては、私自身、大会に出るほどではなかったのですが、祖母がよく練習を見にきてくれました。私が平泳ぎを泳いでいた時、祖母から「伸びが足りない」と言われたこともありました(苦笑)。
――とても健康的な肌の色ですが、日焼けサロンにも通われたそうですね。
最初は化粧で肌のトーンを5つくらい下げて黒くし、日サロにも通って、なるべく当時水泳をされていた方の体型や肌の色に近づけるようにと準備をしました。でも、名古屋ロケで、さらに肌を焼いてしまい、途中からドーランがいらなくなるくらい肌が黒くなれたので、ご本人に近づけた感じがして、すごくうれしかったです。
――役のためにここまで肉体改造をされたのは今回が初めてだったのでは?
おっしゃるとおり、体からのアプローチは初めてで、ダイエットと真逆の生活をしました。今回は、半年くらいを掛け、水泳の練習期間だけではなく、食生活も見直す時間をいただきましたが、痩せるのと同じく、増量するのも大変でした。それは、撮影で長時間水の中にいなければいけなかったので、ハードな撮影に耐える筋力や体力を持たせるための増量でもあり、いっぱい食べたり、筋トレをしたりしました。
なるべく脂の多いものや、すぐエネルギーに変わるものを食べて、食事も1日5回取るようにしました。寝る前にパスタを食べたり、夜中に脂質をたくさん取ったりもしましたが、太っていく自分が嫌だったというよりは、精神的に辛かったです。
――中でもどういう点が一番大変でしたか?
食生活はサポーターの方が管理してくださったのですが、一時期、すごく運動して、食べる量も増やしているつもりなのに、体重の増加が停滞してしまった時期があって。その時、ひたすら脂質を取らなきゃいけなかったので、すごく辛かったです。
でも、時間を掛ければ掛けるほど、自分がどんどん前畑さんに近づいて行っている気がしました。それは、前畑さんの生き様を自分の中に自然と落としていくという時間だったので、あまり自分でセーブなどはせず、挑戦していきました。
――平泳ぎなど、水泳もかなり練習されたのですか?
当時はまだ、平泳ぎという名前じゃなくて、泳ぎ方も全然違いました。最初は速さよりも、呼吸がしやすい泳ぎや伸びを意識していましたが、やはり前畑さんは瞬発力が違ったようで。当時の映像を見ると、飛び込みの速さも1人だけ全然違うので、そういう資料映像が泳ぎのヒントになりました。
――『いだてん』に出演したことで、スポーツ選手を見る目は変わりましたか?
昔からスポーツ選手のドキュメンタリーなどはテレビでよく観ていましたが、なおさら大会に向けてのプロセスを知りたいと思い始めました。最近はパラリンピックに関連するお仕事をさせていただき、パラリンピックの水泳選手の方のドキュメンタリーを観ましたが、すごく感動しました。パラリンピックの水泳は、普通の水泳選手以上に特別な訓練を重ねないとできない競技なので。今は、知りたいという好奇心がどんどん強まっているところです。
――2020年に東京オリンピック&パラリンピックが開催されますが、前畑秀子役を演じたことで、特別な思いを感じますか?
あと1年後に開幕していると思うと、今この時期に『いだてん』という作品の中でオリンピック選手役を演じられることにすごく誇りに思います。
前畑さんを演じて一番痛感したのは、どんなにすごい選手でも1人の人間であり、心が特別に強いというわけではないということでした。日々いろんなプレッシャーを抱え、周りの期待を背負いながら、自分と戦っていると思うと、やはり選手の方を見る目は変わりましたし、2020年のオリンピックがさらに楽しみになりました。ぜひ水泳をこの目で観たいなと思います。
上白石萌歌(かみしらいし・もか)
2000年2月28日生まれ、鹿児島県出身。2011年に第7回「東宝シンデレラ」オーディションでグランプリを受賞。雑誌「ピチレモン」の専属モデルを経て、2012年に女優デビュー。主な映画出演作に『ハルチカ』(17)、『未来のミライ』(声の出演)(18)、『3D彼女 リアルガール』(18)などがあり、『羊と鋼の森』(18)では第42回日本アカデミー賞新人俳優賞を受賞。ドラマ『3年A組-今から皆さんは、人質です-』(19)でも水泳の選手役を演じた。
(C)NHK