西武鉄道は9日、「小説『我らが少女A』刊行記念! 作家・高村薫さんと愉しむ『52席の至福』」を開催した。最新作の小説『我らが少女A』が西武線沿線を舞台として書かれたことをきっかけに、同書を刊行する毎日新聞出版が企画し、西武鉄道と西武トラベルの協力の下で開催された。

  • 「西武 旅するレストラン 52席の至福」に乗って、ミステリーを感じる旅へ(写真:マイナビニュース)

    「西武 旅するレストラン 52席の至福」に乗って、ミステリーを感じる旅へ

今回のツアーでは、「西武 旅するレストラン 52席の至福」に乗車して池袋駅を11時頃に出発し、13時頃に同駅に戻る「アーリーランチコース」、14時頃に池袋駅を出発し、16時頃に同駅に戻る「レイトランチコース」の2種類が用意された。

当日、実際に走行するまでルートが明かされないミステリーツアー形式で運行され、その全区間で著者の高村薫氏が列車に同乗。作家と参加者の距離が近い空間で旅を楽しめるようにしていた。

作家の高村薫氏は、これまで『黄金を抱いて翔べ』(1990年)、『リヴィエラを撃て』(1993年)、『マークスの山』(1993年)、『太陽を曳く馬』(2009年)、『冷血』(2012年)など、多くの人気作品を執筆してきた。7月20日に刊行される『我らが少女A』は、「合田雄一郎シリーズ」の最新作となる作品。西武線沿線が舞台となり、ある女性の死から動き出した未解決事件を機に、かつて捜査責任者だった合田雄一郎が関係者らの記憶をたどり、真実に迫っていく内容となっている。

7月9日に行われたツアーのうち、アーリーランチコースにおいて報道関係者らも同行することができた。出発が直前に迫った10時46分頃、「西武 旅するレストラン 52席の至福」が池袋駅1番ホームに入線。参加者は客室乗務員に迎えられながら乗車した。デッキに『我らが少女A』のポスターも掲出されていた。

  • 「西武 旅するレストラン 52席の至福」が池袋駅1番ホームに入線。客室乗務員に迎えられ、赤いカーペットを渡って乗車すると、車内には『我らが少女A』のポスターが掲出されていた

  • 2号車の車内

  • 4号車の車内

  • ツアー参加者へ書籍と特製弁当が用意された

列車は11時2分に池袋駅を発車。自動放送が流れた後、高村氏が自ら車内アナウンスを行い、挨拶に続き、車内で行うサイン会についても説明した。参加者はそれぞれ配布された用紙に自分の名前を記入し、それを高村氏に渡してサインを書いてもらう形式となっている。往路は4号車で、復路は2号車でサイン会を行うという。

車内アナウンスを終えると、高村氏は4号車へ。参加者は1人ずつ順番に案内され、高村氏と1対1で対面した後、サイン入りの著書を受け取り、会話を楽しんだ。中には高村氏へありったけの思いを伝える参加者の姿もあった。

  • 高村氏が参加者と交流し、著書にサインを入れていく。これだけ近い距離で作者と会話できるのは貴重な機会といえる

「西武 旅するレストラン 52席の至福」では、西武鉄道の中でもとくにベテランの運転士が担当し、ゆっくり食事を楽しめるように、他の列車より速度を落として運転しているとのことだが、やはり台車付近はよく揺れるらしい。

高村氏の座った席は台車付近にあり、サインを書く途中で列車が揺れてしまうこともあったが、「揺れが激しいので……」という高村氏の言葉に、「ここは揺れが一番大きい場所ですから」と参加者が笑顔を見せる場面も。「鉄道にお詳しいんですね」と高村氏が返し、これをきっかけに会話が弾んでいた様子だった。

2・3号車では、高村氏の執筆した各作品が展示されていた。2号車は文庫本が並び、その中の『レディ・ジョーカー』(1998年)は巻ごとに表紙が分割され、上・中・下巻の順で並べると、作品のタイトルが大きくつながるしかけになっている。3号車はハードカバーの書籍が展示され、もちろん最新作の『我らが少女A』も加わっている。

  • 高村氏の作品がずらりと並ぶ。2号車に文庫本、3号車にハードカバーの書籍を展示

ツアーの列車は通常の営業列車の合間を縫って走行。保谷駅、清瀬駅などで運転停車を行いつつ、所沢方面へ向かう。11時46分、ミステリーツアーの形式で運行された列車が到着したのは狭山線の終点、西武球場前駅だった。

この駅で一時休憩を挟み、再び池袋駅へ戻ることになる。平日日中ということもあり、西武球場前駅は非常に静かな様子だったが、「西武 旅するレストラン 52席の至福」の物珍しさから、思わず写真を撮る一般利用者の姿もあった。

  • 行先の明かされていないミステリーツアー形式の旅。列車は西武球場前駅の6番ホームへと行き着いた

  • お昼時の西武球場前駅のホームは閑散としていた。一般の営業列車の発車を待ち、ツアーの列車も西武球場前駅を後にする

列車は12時10分に西武球場前駅を発車。池袋駅への復路も、往路と同様、他の営業列車の待ち合わせ・通過待ちをしながら走行した。途中、清瀬駅で各停に抜かれたと思ったら、その先のひばりヶ丘駅で同じ各停を抜き返すという珍しい場面も見られた。

「西武 旅するレストラン 52席の至福」では通常、コース料理を提供しているが、今回のツアーでは参加者全員に特製弁当が用意され、同列車において珍しいランチメニューとなった。なお、2号車と4号車でサイン会の時間が異なるため、参加者はサイン会と被らない時間に合わせて特製弁当を食べていた。参加者に感想を聞くと、「エビ、カニ、牛、鶏、魚などいろんなものが入っていて、その全部がおいしかった」との答えが返ってきた。

  • ツアー参加者に配られた特製弁当は、のし紙が限定の『我らが少女A』仕様に。車内でデザートも提供

復路ではデザートも提供された。狭山の抹茶を使用したカタラーナの上に、たくさんのいちごが乗せられ、いちごのソースとココナッツ風味のクリームが添えられている。「上がバーナーで炙ってパリってなる感じで、最初はちょっと硬いんですけど、下はムースみたい。甘そうに見えてそんなに甘くなく、いい感じのバランス」と参加者は話し、味に満足していた様子だった。

終点の池袋駅が近づいてきたところで再び自動放送が入り、続いて高村氏が車内アナウンスを行う。「本日はありがとうございました。皆様と直接お目にかかれて、お話をうかがえて、私たちにとっても貴重な機会でございました」と挨拶する声は穏やかで優しく、放送が終わると同時に車内で拍手が起こった。

  • 清瀬駅で各駅停車と待ち合わせ

  • このあと、ひばりヶ丘駅で同じ各停を抜き返す

  • ツアーの列車が池袋駅1番ホームに到着

13時ちょうど、「西武 旅するレストラン 52席の至福」は池袋駅1番ホームに到着。客室乗務員らに見送られ、アーリーランチコースのツアーは終了となった。