BASELWORLD 2015で突如公開され、世界の時計マニアの視線を釘付けにした、いわゆる「金無垢G-SHOCK」コンセプトモデル。その設計を一任された西村氏は「販売予定のない、たった1個のコンセプトモデルだから」と、美しさを追求。随所に、量産化を無視したこだわりの設計を行った。
やがて、その形を再現するというフルメタルG-SHOCK「GMW-B5000」開発の報を聞き、唖然。さらには、販売されないはずだった金無垢G-SHOCKのコンセプトモデルまで商品化の話が……。
一発勝負の評価試験。通過したら製品化、失敗したら製品化ナシ!
Bluetoothによるモバイル連携機能を搭載し、さらにフルメタル仕様のG-SHOCKとして大ヒットした「GMW-B5000」は、外装素材こそSS(ステンレス・スティール)ながら、金無垢G-SHOCKのコンセプトモデルをモチーフとして開発された。したがって、そこには西村氏のアイディアがそのまま生きている(※)。
※:構造や設計に関して。時刻取得機能は、金無垢G-SHOCKのコンセプトモデル「G-D5000-9JR」とともに、マルチバンド6対応タフソーラー電波。
西村氏「GMW-B5000では、内部ケースと外部ケースの間のプラスチックの緩衝材を1パーツにまとめるなど、全体的にパーツ数を減らして量産化しやすくする工夫をしています。
例のバンドの穴はビス埋めをやめて、切削と研磨とで凹みを再現しました。それでも、十分キレイに仕上げてもらえていると思います。本当はバンドの穴ももっと減らしたかったんですけど、言えませんでした……」
伊部氏「GMW-B5000のコンセプトは、金無垢G-SHOCKのコンセプトモデルの形を変えず、そのまま製品化するというもの。形と構造を変えない。それは、この一連のプロジェクトの鉄則。言い換えれば、コンセプトモデルがなければGMW-B5000は生まれなかったでしょうね」
そしてついに、金無垢G-SHOCK製品化の話が持ち上がる。
西村氏「GMW-B5000でも十分に胃が痛くなりましたが、こちらはさらに驚きました。えっ? 量産? あれを量産? って。それがどれほど大変かは、設計をした私が一番身に染みてわかっているので……」
伊部氏「だから、私もこんな展開になるとは思ってもいなかったんだって(笑)。製品化となると、コンセプトモデルでは見送った評価試験をしなくてはなりません。そこで、製品化を想定した試験モデルを製造しました。研磨や仕上げこそ省略していますが、材質はもちろん18Kの本物の金無垢。相当なコストがかかっています」
伊部氏「これを使って落下や防水などの評価試験をするのですが、失敗して壊れても直せない。したがって再試験はしない。まさに一発勝負。試験に通過したら製品化、失敗したら製品化はナシ。そう決めて、会社にも了解を得ました。
正直、私にもどうなるかわからなかったのですが、西村をはじめスタッフができるだけのことをやってくれたので、これでダメならもう諦めるしかない、と腹をくくりましたね。
とはいえ、その場合、どうして製品化できないのかを説明しなければなりません。そこで、プロのカメラマンに評価試験を撮影してもらいました。特に落下試験を重点的に。今までの経験で、落下試験(高所からのコンクリート面への叩きつけ)が大丈夫なら、他の試験もほぼ大丈夫とわかっているので。もちろん、すべての試験をひと通り行います。
西村にしてみれば凄いプレッシャーだったはず。一発勝負なんて、とんでもないことですよ。私もかつては設計を担当していたので、よくわかる。そのことが、もう頭から離れなくなって……」