広瀬章人竜王への挑戦権を争う第32期竜王戦決勝トーナメントの1組5位・久保利明九段―4組優勝・藤井聡太七段戦が7月5日、関西将棋会館で行われ、藤井七段が勝利を収めました。
上位3枚の「いばらの道」まず一歩目クリア
対局は先手久保九段が得意の中飛車に振り、飛車のいる5筋だけでなく7筋も中央五段目まで歩を進める意欲的な作戦を見せました。対する藤井七段は金銀の勢力を5筋に集中させる持久戦志向。藤井七段が序盤に取られた5筋の勢力を奪い返し、久保九段はもうひとつの勢力圏である7筋のほうに飛車を転回、直後に飛車交換が行われて本格的な戦いが始まりました。
ここから迫力満点の中盤戦が繰り広げられます。敵陣で威力を発揮することが多い龍(成った飛車)を互いに自陣に引きつけ、両者ともに「駒を前に出させろ」「出させない」と主張し合うような押し合いが続きました。そんなやり取りの中、徐々にペースを握ったのは藤井七段。久保玉近くに2つの歩のくさびを打ち込み、手駒が入ればそれを足がかりに攻略する準備を整えました。
しかしタイトル7期の猛者、振り飛車からの軽快なさばきを得意とし「さばきのアーティスト」と呼ばれる一方で、押し込まれた際にも容易に土俵を割らない強じんな指し回しから「粘りのアーティスト」の二つ名も持つ久保九段も崩れません。自陣の最下段に打った桂を起点に「くさび」のひとつを除去して藤井七段の駒を押し戻し、自陣奥深くで眠っていた角も相手の馬(成った角)と交換し攻め合いに持ち込みます。
勝負の時は、互いに5時間の持ち時間を使い果たし1分将棋(※1手1分以内の着手が求められる状態)となった最終盤。藤井玉に長手数の詰みが生じていましたが、久保九段はこれを見つけることができず、王手が途切れた直後に無念の投了となりました。終局は23時23分、総手数184手。互いが力を尽くした大熱戦でした。
藤井七段は6月28日の対5組優勝・近藤誠也六段戦に続く勝利で、次戦、1組4位・豊島将之名人との一戦に臨むこととなりました。タイトル初挑戦までは豊島名人、次の1組優勝・渡辺明二冠戦に勝ち、さらに右の山からの勝ち上がり者との三番勝負を制する必要があります。現在の棋界でただ2人、複数冠を持つ両者を抜き、さらにもうひと勝負残っているとは何ともきつい道のりですが、これまでファンの想像のはるか上をゆく活躍をいくつも見せてきた最年少棋士は、また皆を驚かせる活躍を見せられるでしょうか。