『しゃべくり007』『嵐にしやがれ』など日本テレビの多くのヒットバラエティを手がけてきた田中宏史氏が、6月に編成部長に就任した。“視聴率三冠王”を走る日テレだが、テレビ朝日が世帯視聴率で激しい追い上げを見せる中、現状をどのように捉えているのか――。
■変化を重ねてたどり着いた番組
日テレの日曜日といえば、『ザ!鉄腕!DASH!!』『世界の果てまでイッテQ!』『行列のできる法律相談所』と人気番組で視聴率トップを独走してきた時間帯。そんな中、テレビ朝日の『ナニコレ珍百景』、『ポツンと一軒家』(ABCテレビ制作)が頭角を現し、世帯視聴率で『鉄腕!DASH!!』と『イッテQ』を追い抜く日が出てきた。
若年層で見ると日テレのほうが支持を受けているが、この現状について「視聴者の方の支持を集める新番組が他局に出てくることに関して、当然危機感はありますが、ただ番組制作の現場はもっと新しい面白いことに取り組んでいこうという意気込みで作っていると思います」という田中氏。
一方で、「単純に裏番組との数字の比較よりも、やっぱり単体としてその番組がどう見られているかということのほうが重要だと考えています」とし、「『鉄腕!DASH!!』にしても『イッテQ』にしても最近できた番組ではなく、変化を重ねてきて今にたどり着いているものなので」と強調する。
■“元号またぎ”で視聴率トップ
4月30日から5月1日にかけて、“元号またぎ”で『news zero拡大版』が、横並びトップの視聴率(前半10.6%、後半7.9%/ビデオリサーチ調べ・関東地区 ※以下同)を獲得。時代の変わり目という大きな注目を集める時間帯で、NHKも上回ったことは、局の信頼性を裏付けた結果と言えるだろう。
田中氏は「今回のような“元号またぎ”の番組は、本当に誰もやったことのない事例だったんです。だからこそ、報道局やいろんなセクションとさまざまな準備をして本番に向かった取り組みの成果が伝わったのかなと思います」と、組織を超えて一丸となった成果を振り返った。
ただ、こうしたテレビ局間の争いだけでなく、ここ数年はさまざまなメディア・デバイスが生まれ、タイムシフト視聴も進んでいる。「今まで“テレビを一定量見てくれるだろう”がスタートラインだったのが、“テレビをつけてもらわなければいけない”と、生活者の生活動態が変化しているところで、地上波テレビがどうあるべきなのか、そのために何をしなければならないのかというのが、編成部長としての大きな課題と危機感です」と話す。
■山里亮太結婚でテレビのあり方再認識
そうした中で、先日の南海キャンディーズ・山里亮太と蒼井優の結婚発表を受けた『スッキリ』の高視聴率(1部:6月5日10.3%、同6日11.4%)は、「テレビにとって理想的なケース」だという。
「普段その時間帯に在宅しながらテレビを見ていなかった方々が、(山里が生放送に出演してくると知って)あの時間帯にテレビをつけて見てくれたのかなと思うんです。やはり家にいらっしゃるお客さまに対して、ああいうニュースだけじゃなくて、テレビは先に話題を提供できるメディアでなければいけないんだろうなと、あらためて思いました」と再認識したそうだ。
長年バラエティを制作してきた田中氏だが、3年前に編成に異動してから「大人になった気持ちでやっています。制作の頃はやっぱり自由に作らせてもらってました(笑)。番組を作るのに、いろんな人に支えられていたんだなということを、今はより一層感じます」とのこと。
さらに、「より視聴者目線になっているかもしれないです。作っているときはその番組に主観的になりますが、今は自局だろうと他局だろうと、フラットに見ていると思います。編成は、好みで番組を判断する仕事ではなく、テレビの前の人たちがこの時間帯にこの番組を本当に面白いと思って見ていただいているのかの目線が大事な気がしますので」と、心境の変化を語っている。
●田中宏史
1974年生まれ、愛知県出身。早稲田大学卒業後、98年日本テレビ放送網に入社し、『嵐にしやがれ』『行列のできる法律相談所』『月曜から夜ふかし』『人生が変わる1分間の深イイ話』『しゃべくり007』『有吉反省会』などのバラエティ番組の制作を担当。16年に編成局編成部担当部長に異動し、19年6月1日付で編成部長に就任。