「ゴールデンウィークをしっかり引きずったまま、気持ちだけはゴールデンマンスなのに現実はしばらく祝日もなく、気付けば梅雨に突入。5月病が1年間ずっと続いてしまうのではないかというほど憂うつな気分の今日この頃ですが、先日お願いした原稿の進捗はいかがでしょうか」
担当編集Y氏から、なかなかに禍々しいメールが届いた。このままではこちらまで気が滅入ってしまって進捗も何もあったものではない。Y氏の憂うつな気分を解消しつつ、原稿の進捗からも気を逸らすことができるような何かを探さなければ。
そんな切羽詰まった状況の中、筆者は「八つ当たりどころ」なるサービスを発見した。同サービスは、お皿を割ってストレス発散させてくれるというものらしく、なにやら内閣府にも認定されている事業なのだとか。
いまいち全貌がつかみ切れていないが、Y氏の限界は刻一刻と迫っているっぽいので取り急ぎメールを返信。
「なんか皿を割ってストレス発散できるサービスがあるらしいですよ。しかも内閣府認定事業。これ行ってみませんか? あとゴールデンマンスって全然面白くないんであんまり言わないほうがいいですよ。原稿は2日後までになんとかします」
かくして我々は「八つ当たりどころ」のサービスを実際に体験してみるに至った。
割ったお皿は100%再資源化
「八つ当たりどころ」を運営する快援体の代表・原克也氏は、2008年から出張サービスの形で日本全国を回り、オフィスや店舗の一角などで皿割りイベントを開催してきた。
最近はストレスのはけ口に不要品を壊すといった類似の店舗型サービスも多いそうだが、原氏によると「八つ当たりどころ」が採用するビジネスモデルは、そうした類似店の形式とは似て非なるものだという。
「エンタメ的な側面もたしかに強いのですが、単にストレス発散というだけでなく、医療と環境への貢献が事業の柱になっています。他の類似店は、サービスに使用したものを結局すべて事業用のゴミとして廃棄するんですが、当方は割ったお皿をリサイクルするシステムを確立しているので、半永久的にゴミが出ないんです。割ったお皿はすべて岐阜の工場に運んで、お皿やタイル、道路用アスファルトの素材として100%再資源化しています」
プロセラピストでもある原氏が同サービスを始めたのは、スペインで「破壊セラピー」というものを目にしたことがきっかけだそう。車や家を壊すといったそのセラピーを日本でもできるようにと考えた結果、現在のスタイルにたどり着いたとのこと。ハデなエンタメ性が注目されがちな「破壊セラピー」だが、変わり種ビジネスという第一印象とは裏腹に、そうしたエコに対する取り組みは環境事業として内閣府にも認められている。
「効果的な破壊セラピーとエコの観点で、一番適していたのがお皿でした。ちょうどその頃、多摩市がペットボトルや缶のように廃食器のリサイクルの取り組みを始めたタイミングで。すぐ連絡して、そこで回収されたお皿を提供してもらうようになりました。内閣府主催のビジネスコンテストに応募した際は、相当物議を醸したみたいで……(笑)。『正直、この案件だけは今すごく意見が分かれているので、最終的には直接話して決めたい』と。最終面接できちんとビジネスモデルについて説明させていただきました」
買い付ける廃食器の中にはわかりやすい傷物もあるが、一見すると普通に使えそうなものも多い。リサイクルされるとわかってはいても、割るのはもったいなく感じてしまうという我々に、原氏は続けて「特にキャラクターものの食器などは規定が厳しく、ちょっとした色ムラがあるお皿がひとつ見つかるだけでメーカーさんにすべて返品され、まとめて捨てられてしまうこともあるんです」と説明を付け加える。
罪悪感なく、気持ちよくお皿を割れる! 割れる! 割れる!
「八つ当たりどころ」の出張サービスは民間企業の福利厚生の一環としても利用され、これまでも団体職員や公務員、介護・医療・福祉関係など様々な職場に足を運んできたそうだ。
「店舗型ではなく全国に出張サービスできるのも当方の特徴です。屋外・屋内どちらにも対応できます。客層は地域やイベント内容によって違い、ショッピングセンターで行われているイベントに出店する場合とかですとファミリーも多いですね。男女比は4:6で女性が少し多いくらいです」
一般で利用する場合は指定の場所への出張サービスだけでなく、東京都多摩市のレンタルスタジオ「M.studio 永山店」でも体験可能。今回の取材でも同スタジオを使用させていただいた。
料金は、お皿の枚数や出張か否かで異なるため、利用に際しては事前に問い合わせてみよう。割安となる4名以上の団体での利用が多いそうだが、中には1人で心行くままお皿を割る人もいるらしい。
ひと通り説明を聞き、罪悪感を薄めたところで、いよいよ実際に体験してみることに。テントの中に入り、フェイスガードと軍手を装備する編集部員Y氏。するとスタッフの方が動き出し、どこからともなく映画『ロッキー』のテーマが流れてきた。「稲妻を喰らい、雷を握りつぶせ! 」。ミッキーの男汁あふれる名台詞が脳裏をよぎる。
「破壊セラピーは、叫びながらやるとより効果的なんですよ」と前置きし、「給料に満足していますか? 」「休みは足りてますか? 」という絶妙なトスをバンバン上げるスタッフさん。それに合わせY氏は、「割に合わねぇんだよタココラ! 」「5月病どころか令和病だっつーんだよ向こう30年ぐらい休ませろや!! 」などと、浮世離れした言葉の数々をお皿とともにぶん投げていく。
東西線の朝の通勤ラッシュ、日々直面するノルマ地獄に炎上リスク、しまいにはメンタルヘルス系の取材ばかりやりすぎて編集部ではファッションメンヘラマン扱い……。最初こそどこかためらいがちだったY氏だが、イタリアの種馬ならぬ、竹橋の種馬のごときルサンチマンをすぐに剥き出して、胸中に去来する思いをこれでもかと発散している。
「僕も気持ちはわかるんですが、男性は『これ言って大丈夫かな』とかいろいろ余計なことを考えがちな傾向があるかもしれないですね。女性のほうが、どストレートな場合がけっこうありますよ。第一声から『〇〇、生きてんじゃねーよ! 』とか、こっちが少し怖くなるくらい(笑)」とスタッフ談。
Y氏も徐々にヒートアップし、後半はとてもじゃないがこの場で書くのがはばかられることも好き勝手に叫びつつ、30分弱かけて大小様々な廃食器を割りまくっていた。業が深い。
力みすぎず、コントロール重視でコンクリートブロックの的に打ち付けるようにして投げるといい感じに割れるようで、ハデな音を立ててお皿が粉々に割れていく様は見ているだけでも爽快だ。
Y氏はというと「エコの取り組みについて詳しく聞いたこともあって『もったいない』という罪悪感もなく、気持ちよく割れましたね。自分の中で抑えつけられていた破壊衝動を、なるべく他人に迷惑をかけない形で満たせて安心しました。なにより、お皿は少しの力で簡単に破壊できるっていうのがいいですよね。お皿、おかわりしたいっすねぇ……」などと瞳孔ガン開きで感想を述べていた。
スタッフの方いわく、「我々としては『リサイクルの過程にご協力いただき、ありがとうございます』というスタンスです。お酒を飲みながらやると、また楽しいんですよ。特に男性はちょっとお酒が入ると、さらに思いっきり発散できるという人が多いです」とのこと。2次会でお皿を割るなんてのもオツかもしれない。
ストレスをため込んで、人に当たり散らしたり物に当たったりしてしまう前に、リサイクルにも貢献できる「八つ当たりどころ」へ一度問い合わせてみてはいかがだろうか。